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2023/07/14

いつか時代が変わったら。

6月28日に宝塚大劇場にて星組公演「1789-バスティーユの恋人たち-」を見てきました。

東宝版「1789」はこれまで見た中でいちばん好きなミュージカル作品と言っても言い過ぎではないくらい好きで、宝塚で上演されるなら礼真琴さん主演で見たいと願っていた作品だったので、星組で上演と知った時には飛び上がるほどうれしかったです。
タカラジェンヌの時間には限りがあり在団中に見たいと願う演目に当たるのは奇跡にも近いことだと思っています。たくさんの人が願ったからこそ実現した上演だと思います。

日本初演の2015年月組公演では大役マリー・アントワネットをトップ娘役の愛希れいかさんが演じ、主人公ロナンの恋人オランプ役は別の娘役さん(早乙女わかばさん、海乃美月さん)がダブルキャストで演じていたので、星組版ではどうなるのだろうと上演決定後は配役をあれこれと想像する日々でした。
 
舞空瞳さんがあの王妃様の超絶豪華なドレスを纏ったらそれはそれは映えるだろうなぁ。でもやっぱり東宝版みたいに礼さんが演じる主人公ロナンの相手役として激動の時代を懸命に生きる“ザ・ヒロイン”なオランプを舞空瞳さんで見たいなぁ。でもどっちも捨てがたいなぁ。
ロナンを苛むペイロール伯爵は専科で礼さんの同期の輝月ゆうまさんだったらいいのになぁなどなど。

じっさいに発表された配役は意外でもあり納得でもありいっそう期待が高まるもので、これはチケットが取れるだけ見たいなぁと浮き立っていたのですが―― 蓋を開ければ当然の超人気公演で手に入ったチケットはたったの1枚・・呆然とするしかありませんでした。

その貴重な1枚もどうなることかと青ざめる事態が。6月2日に初日こそ開けたもののその翌日から出演者体調不良のため公演中止、当面はいつ公演が再開されるのかわからない状況となり、脳裡にはこの2年あまりのコロナ禍で経験した数々の出来事が過り震える日々を送りました。
けっきょく1か月間の公演期間のうちの半分が中止となって公演再開となったのは6月18日の15時半公演から。
もうこれ以上は1公演も止まりませんように千秋楽まですべて公演できますようにと祈り続けて観劇日に漕ぎつけました。

そんな顛末の末の待ちに待った観劇日。
客席に座るもさらに高まる緊張。
(なにしろ昨年は博多座で開演10分前に中止を告げられたトラウマもありますし)

幕が開き主人公の故郷であるボースの農民たちが絵画のように舞台に浮かび上がり、奏でられるイントロダクションに体温が一気に上がる感覚。
軍隊が国王の名の下に農民たちを虐げ礼さん扮するロナンが「肌に刻まれたもの」を歌い始めた瞬間さらに体中の血が沸き立ちそれ以降はひたすら「1789」の世界に圧倒されつづけました。見たかったもの聴きたかったものが目の前に存在する幸せに酔い痴れました。

礼さんロナンの素晴らしさも期待以上でしたが、若き革命家たちデムーラン暁千星さん、ロベスピエール極美慎さん、ダントン天華えまさんが想像以上に見応えがあり気持ちが爆上がりしました。
若きイケメン革命家が歌って踊ってこそ「1789」――1幕から「デムーランの演説」「革命の兄弟」「パレロワイヤル」と畳みかけるように好きなナンバーがつづきここからすでに涙目に。

暁さんはその声量と声の深みに驚きました。かなり下級生の頃から抜擢されていた方だけにその成長ぶりを目の当たりにして感慨深いものがありました。
2幕の「武器をとれ」でセンターで朗々と歌い上げる暁さんを見て彼女がデムーランにキャスティングされた理由に合点がいきました。配役発表されるまでは暁さんがロベスピエールだろうと思っていたのでした。

「武器をとれ」は宝塚では今回はじめて歌われるナンバーですが、その演説によりパリ市民が決起しバスティーユ襲撃へとつながる重要な局面で、壇上から市民を歌(演説)によって盛り上げ扇動する暁さんの堂々とした姿に心が震えました。
ちなみにですが、このデムーランこそ「ベルサイユのばら」のベルナールのモデルとなった人物なんですよね。この「武器をとれ」のシーンもベルばらに描かれていました。東宝版を観劇した時にどこかで見たことがある図だなぁと思ったのも然り。(詩ちづるさん演じる婚約者のリュシルはロザリーということになりますね)

もともと天華さんの実力は信頼しているのですが難しいパートも難なく歌い上げるのは流石、危なっかしい仲間たちに目を配るお兄さんみたいなダントンだなぁと思いました。
そしてたぶんおそらく私は「1789」のロベスピエール役者に心底弱いようで・・。悔しいけれど極美さんのロベスピエールに幾度と撃ち抜かれました。それはもう易々と・・。
2幕最初のロベスピエールの「誰のために踊らされているのか?」は超好きなナンバーなのですが、その日の極美さんは声を潰されているのかフレーズ毎の高音の第一声が全て出ていないようでした。(千秋楽のライブ配信ではすべて音程を下げて歌われていたのでやはり喉を潰されてしまったのかな)東京公演では元の声に戻っているといいなと思います。

有沙瞳さんのマリー・アントワネットはとても大人しめに感じました。
これまで宝塚や東宝で同役を演じた人たちが伝説的なトップ娘役(花總まりさん、愛希れいかさん)であったり華やかなトップスター経験者(凰稀かなめさん、龍真咲さん)だったこともありどうしてもその記憶と比べてしまうのかもしれませんが、有沙さんも「龍の宮物語」や「王家に捧ぐ歌」などで艶やかなプリンセスを演じてきた方なので威風堂々と華やかな王妃像を作って見せてくれるだろうという期待がありました。

初演ではトップ娘役が演じた役だったものが2番手の娘役さんが演じることになって、場面や持ち歌が減り比重が変わっているのだとは思いますが、それでもやっぱりかの「マリー・アントワネット」ですから圧倒的な輝きと存在感を期待します。有沙さんはそれができる役者さんだと思っています。たとえばかつて伶美うららさんはトップ娘役ではなかったけれど無冠でも記憶に残る大輪の花のように存在していましたので有沙さんにも期待せずにいられません。
この公演が最後となる有沙さんの最高の輝きをこの目で見たいです。

ひとりの女性として家族を愛して家族のために生きたいと願う2幕の「神様の裁き」のアリアは素晴らしくてとても心に響きました。そういうマリー・アントワネット像を目指されているのかなと思います。さらに1幕からのギャップを表現して魅了してほしいなぁと贅沢なことを願ってしまいます。
オランプに決心を促す場面もとても好きでした。

瀬央ゆりあさんのアルトワ伯は媚薬を用いて淫蕩に耽るようなタイプではなく冷静に虎視眈々と王座を狙う切れ者に見えました。彼の眼には兄ルイ16世は凡庸で無能な人間に見えているのだろうなと。
王妃の醜聞を利用して兄を失脚させるのが目的でそのためにオランプを見張らせているのであって恋情を抱いているようには見えないアルトワでした。
教会でオランプに媚薬を使おうとするのもオランプに執着があるわけではなく自分にとって邪魔な相手として危害を加えるのが目的かなと。
いずれロンドンから戻ったらいつのまにか王座に就いていそうだなぁと思いました。
これまでのアルトワ像とはタイプが違うけれど居住まいや目線が知的で含みがあって面白かったです。

輝月ゆうまさん演じるペイロール伯爵は鞭を振るったり蹴りを入れたりのタイミングが琴さんとぴったりで本当にロナンを甚振っているようで今回の「1789」の見どころの一つでした。(虐げられる琴さんの反応がとんでもなくリアルで凄すぎて瞠目でした)
大義に忠実で情け容赦ない軍人貴族だなぁと思いました。

ソレーヌ役の小桜ほのかさんはお上手なのは知っていましたけど、こんなに地声で凄味のある歌い方ができるとは。地声から澄んだ声への切り替えも素晴らしくて観劇後も「夜のプリンセス」が頭から離れませんでした。

フェルゼン役の天飛華音さん、ルイ16世とマリー・アントワネットがようやく心通わせる場面でのセリフの入り方が素晴らしかったです。
「しかし御一家が危機に瀕する時あらばこのフェルゼン命に代えてもお守りいたします」
本当に芝居センスのある方だなぁと今後も楽しみです。

オランプ役の舞空瞳さんのヒロイン力はやっぱり素晴らしいなぁと思いました。彼女が登場すると目が勝手に追ってしまいます。
けっこう理不尽なことや辻褄が??な行動もするのですが受け容れて見てしまうのはそのヒロイン力によるものだなぁと。
与えられた役割、職務に一生懸命なオランプの姿が舞空さん自身とも重なってきゅんとしました。

1幕ラストの「声なき言葉」の盛り上がりは宝塚版ならではの感動でしたし、2幕もまた「次の時代を生き抜くんだ」と言い残し息絶えたロナンを囲んで打ちひしがれていた皆が前を向いて高らかに述べる人権宣言は名場面だと思います。そこからのラストナンバー「悲しみの報い」に感動は最高潮――となるはずが、今しがた皆の嘆きの中で息絶えたばかりのロナンがピカピカの白尽くめの衣裳でせり上がりで登場した時だけはえええっと戸惑いました。

あそこはもう少し人の世の遣る瀬無さや、未来への希望にデムーランやソレーヌたちとともに浸っていたかったなぁと思います。
志半ばで彼は逝ってしまったけれど、そんな名もなき人々の願いと行動の積み重ねがいまの世の中の礎を作っているんだと。命を燃やした彼らの願いを踏み躙ろうとする力は今の世も隙あらば頭をもたげようとするけれど、それに負けてはならないのだという強い意思を噛みしめる時間をあと少しだけ持ちたかったなぁ。

キラキラのロナンの登場が早すぎて心が宙ぶらりんのまま享楽的なフィナーレを見たせいか今回のフィナーレは気持ちがいまいち盛り上がらずに終わってしまった気がします。
本編は本当に最後のタイミング以外最高だっただけにちょっと残念かなと思いました。

というものの最高の舞台を見られた満足感たるや凄かったです。
あと1枚だけ東京のチケットが取れたので無事に観劇できることを心の底から祈っています。

<CAST>

ロナン・マズリエ 礼真琴
オランプ・デュ・ピュジェ 舞空瞳

シャルル・ド・アルトワ伯爵 瀬央ゆりあ
カミーユ・デムーラン 暁千星

ラザール・ド・ペイロール伯爵 輝月ゆうま
マリー・アントワネット 有沙瞳

ジョルジュ・ジャック・ダントン 天華えま
ソレーヌ・マズリエ 小桜ほのか

マクシミリアン・ロベスピエール 極美慎
ハンス・アクセル・フォン・フェルゼン伯爵 天飛華音

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