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2024年4月の2件の記事

2024/04/21

戦っていたの

4月14日に梅田芸術劇場メインホールにて宝塚歌劇雪組全国ツアー公演「仮面のロマネスク」と「Gato Bonito!!」を見てきました。

演じきった後の成長がたのしみ

全国ツアー公演ではありがちですが、柴田侑宏先生の作品を上演するには主要人物に役者が揃っていないなぁというのはやはり感じました。
恋愛巧者の主役の2人さえ出し抜くジェルクール伯爵の憎たらしいほどの自己評価の高さ「俺は出来る」感が、序盤の2人のやりとり(悪巧み)に説得力を与えるのだと思うのですが、ジェルクール役の咲城けいさんを頑張っているなぁと微笑ましく見つつ、いやいやいやこの役は「頑張っているなぁ」では期待値には届いていないんだなぁとも思いました。

2016/2017年に花組全国ツアー公演で2度上演された時は、主役の明日海りおさんより上級生の2番手(鳳月杏さん、瀬戸かずやさん)がいた頃だったので、いい塩梅にその二方がこのジェルクールに配役されていたんだったなとあらためて思いました。
とはいえそのほうが稀ではあるので、経験値の浅い人がいかにしてこの役をものにするのかというのが見ものでもあるのかなと思います。
臆せず自分の思う演技プランに沿って演じていると見えた咲城さんのポテンシャルは十分に感じられました。

彼女以外の下級生もおそらくここまでセリフがある役ははじめてなのかもと思える状態ではありましたが、このように実践で鍛えられるのが柴田作品の良さでもあるのかなと思います。お屋敷の下働きの3人組はこのツアーで芝居の間を自分のものにしていくだろうなと思いました。
この公演で卒業の千早真央さんが演じられるヴィクトワールはロベール(真那春人さん)とともにこの作品の要となる役で、2人の居方、眼差しがあるからメルトゥイユ侯爵夫人を多面的に見るきっかけにもなると思うので、卒業のその日まで役を深めて作品をより高めてほしいなと思いました。

私が観劇したのは初日から3日目。ツアー終盤のライブ配信ではどれだけ深化した芝居が見られるか、楽しみにしています。

2024年のいまだからこそ感じられた「仮面のロマネスク」

主役のヴァルモン子爵ジャン・ピエールが雪組2番手の朝美絢さん、ヒロインのメルトゥイユ侯爵夫人フランソワーズがトップ娘役の夢白あやさんという配役のバランスもあるのでしょうか、今回の「仮面のロマネスク」はなんだかいつもと違うなと思いながら見ていました。

法院長様(透真かずきさん)が自分の奥方を指して「これ」と言ったり、自分が留守のあいだ彼女をローズモンド邸に「預ける」と言うのを、「虎に翼」でいう「妻の無能力」の思想の一端だなぁと思ったりもしました。貞淑な妻とはこれを受け容れ弁えるのが当たり前で、トゥールベル夫人(希良々うみさん)もそういう人なのだろうなぁと。
いまの時代を生きているからこその目線で見ていたように思います。

ヴァルモンとメルトゥイユ侯爵夫人の「恋の駆け引き」感はそれほどでもなかった気がします。
お互い手玉に取りあっているという感じがあまりなかったというか、むしろ2人とも芯は真面目なんだなと。やっていることはあれですがどこかに一途さが見え隠れしていたような。
じゃあなんで2人はこんなことをしているの?と、いままであたりまえにわかっていると思っていたことがそうじゃないような新しい感覚の「仮面のロマネスク」だなぁという印象で、それはそれで面白く見ていたのですが、ラスト近くのメルトゥイユ侯爵夫人のセリフでハッとしました。
「私も戦っていたの」と独白する夢白メルトゥイユ夫人に。
このセリフの意味を今回ほどはっきりと感じたことはなかったなぁと思いました。彼女が何と戦っていたのかをこんなにはっきりと意識したのははじめてでした。

いままでは、それは仮面を被らないといられない彼女自身のプライドやおなじく本音を晒さないヴァルモンに対しての戦いのように漠然と思っていたのですが、「〇〇はかくあるべき」と縛り付ける世間とのあいだで駆け引きを挑み戦っていたのだとハッとしました。
女性は、既婚女性は、未亡人は、貴族は、(タカラジェンヌは)―――。
いまにも通じる戦いを彼女は続けていたんだなぁと、夢白メルトゥイユ夫人の誇り高い面(おもて)を見てそう感じました。

つねづね柴田先生は女性にやさしいなぁと私は思っています。
半世紀前の意味でいうところの「フェミニスト」。家父長制を大前提にしてその中で生きる女性に心を寄せ、彼女たちが生きやすい道を示そうとしてくれているのだなと感じます。
シャルドンヌ夫人(アルジェの男)やセシルの母ブランシャール夫人(愛羽あやねさん)のような弁えた年長の女性にどういう心持ちでいれば社会的無能力者とされる女性が苦しみ少なく心穏やかに生きられるかを説かせていたり、シャロン(琥珀色の雨に濡れて)やパメラ(フィレンツェに燃える)のような悪女と見做される女性の内心の純粋さを描いてみせて、そのように生きざるを得ない女性にやさしいなまざしを注いでいるように思います。

メルトゥイユ侯爵夫人もまたそういうキャラの1人だという認識でいたのですが、夢白メルトゥイユ夫人はこれまでとは違って見えました。
彼女は「そのように生きざるを得なかった」のではなく能動的に家父長制の価値観と戦っていた人だったのだと思いました。価値観に従ったふりをしながら壮絶に。
その覚悟をした人の顔だなぁと思いました。
2024年のいまだからこその視点を得て見えたものかもしれないし、演者もいまだからこそ湧き出づるものがあるのかもしれない。
おなじ脚本なのに演ずる人見る者のそれまでの積み重ねが、以前とは違うなにかを見せる。生で見ることに意味があるのだとしみじみと感じた演劇体験となりました。

美の圧に体感10分のショー

ショーは「Gato Bonito!!」。望海風斗さん主演で大劇場で上演された作品です。
生で見るのは初めてでしたが藤井大介先生らしさ満載でとても楽しかったです。

望海さんの時は相手役の真彩希帆さんともども「歌の圧」が印象的でしたが、この全国ツアーでは「美の圧」が凄まじかったです。
「私はマリア」で客席通路に佇む朝美絢さんにスポットが当たった瞬間、私が見たのは後ろ姿でしたが、その美しさに度肝を抜かれました。
ラテンの客席降りでは目の前で夢白あやさんと縣千さんが交差してあまりの美しき圧にどこを見るべきかと目が回り・・後になってなぜしっかりと網膜に焼き付けておかなかったのかと悔いることしきりです涙。
その後も美し過ぎるせいで人の心を煩わせてしまうことに悩む美しき猫様を堪能しあっという間に終わってしまいました。
楽し過ぎて美し過ぎて体感で10分のショーでした。
(もっと見て浴びていたかった―――!!)

お芝居もショーも余韻をかき集めてまたあの幸福感を欠片でも味わいたいと思える公演でした。
いまはただひたすらライブ配信を楽しみにしています。

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2024/04/04

生きている。

3月30日、キャナルシティ劇場に望海風斗ドラマティックコンサート『Hello,』に行きました。
幸せな気持ちと元気を持ち帰った気がします。

オープニングから、「POP STAR」「真夏の世の夢」「あゝ無情」とアップテンポの懐かしのヒットソングを伸びやかにノリノリに歌って客席の心を鷲掴みに。
これは楽しいコンサートになると客席全員が確信したところで・・まさかの「お祭りマンボ」笑。この歌ってこんなにグルーヴィーだった??こんなにドラマティックだったっけ???となんだか訳がわからないままに巻き込まれていて面白かったです。
博多では「わっしょい」ではなくて「おっしょい」らしいと小耳に挟んでこられたようで、謎の「おっしょーい!」「おっしょーい!!!」のコール&レスポンスにも笑いました。このコール&レスポンスはエンディングまで都度都度リプライズされて盛り上がりました。
(※じつは博多祇園山笠はタイムレースなので、「おっしょい」は最初だけで実際には短縮形の「オイサ!オイサ!」の連続なのですが笑)

観客の心をがっつり掴んだところで、なんとこんどはソフト帽をかぶりジャケットを羽織って「勝手にしやがれ」と「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」より「愛は枯れない」の男役メドレー。
望海さん曰く、雪組プレ100周年「Greatest Dream」に出演されて以来『男役スイッチを手に入れた』そうです笑。
斜に構えたら瞬時に切り替わるスイッチ、いいですねー笑。
こうして聴いてみると、男役の歌声といつもの歌声ってこんなにも違うんだと驚きました。(声帯の使っている場所がちがう?🤔)

つづく洋楽メドレーは、カーペンターズにABBAにスティーヴィー・ワンダーにプレスリー。
なんでも歌えて凄いし、リズム感も最高に良くて楽しかったです。ミクロの単位、刹那の単位までピタッときて(主観)もう気持ち良いったらなかったです。
とくに「ハウンドドッグ」はいままで生で聞いた中でいちばん好きかも! もう何を聴いても最高でたまりませんでした。

さらに好きだったのがこれに続く「摩天楼のジャングル」(ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ)のクールなダンス。
からの「Love Can't Happen」(グランドホテル)は男爵の心情や舞台の情景が思い浮かんで涙が出そう。
そして「アマポーラ」。望海さんの繊細で豊かな声にうるうると感じ入っていたら・・あれ? もしかして望海さんの喉にエヘン虫?
困り顔になりながらも音は外さず、でも本当にヤバいみたいで、どうするのかなと思っていたら曲を止めることもなくメロディにのせて「♪(アマポーラ―)〽お水を飲ませて~」とセットの陰にお水を取りに行き歌の合間に数回給水。それでエヘン虫はいなくなったようですが戻しに行くタイミングがなかなかないみたいでペットボトルを手にしばし困惑顔・・そのうち諦めて小道具のようにスタイリッシュに持ってらっしゃいました(さすが)。
望海さんの様子がおかしいことに気づいたバンドマスターのキーボートの方も、望海さんの動きに合わせて演奏を止めずに繋いでいたのもさすがだなぁと。まさにライブだなぁと思いました。

次のナンバーは望海さんの持ち歌「Look at Me」でキャスト全員でにぎやかに盛り上がる場面でしたが、皆さん手に手に自分のペットボトルを持っていて、それに気づいた望海さんが「やさし~みんなやさし~」と感激されていたのが印象的でした。(本当に思わぬハプニングにドキドキされていたのでしょうね)

続いてのミュージカルナンバーのコーナーはアップスタイルにロングドレスのいでたちで、まずは「ジーザス・クライスト・スーパースター」のマグダラのマリアのナンバーから。
ミュージカルナンバーを歌う望海さんは、ポップスを歌う時とはまた違った迫力があり素晴らしかったです。
「ディア・エヴァン・ハンセン」から「Waving Through a Window」。この作品は知らなかったのですが、どこか心にひっかかるものがあったので見てみたいと思いました。
その次が今年主演されたオリジナルミュージカル作品「イザボー」から「Queen of the Beasts」、見ていない作品なのでどんな心情を歌っているんだろうなぁと思いながら聴きました。(今月早くもWOWOWで放送されるとか?)
そして「ドリームガールズ」の曲で「Listen」。じつはさらっと聴いてしまったのですが、舞台では歌われていなかった曲だとか??(わかってなかった・・汗)

アンコールはガラッと雰囲気が変わってTシャツにデニム姿で登場。
アンジェラ・アキさんから提供された楽曲「Breath」は、昨年宝塚で悲しい出来事があって以来抱え込んだ思いを書き付けてアンジェラさんにお渡しして、そこから書いていただいたものそうです。
明けない夜を過ごしている人への思いが込められているように私には感じられました。
そしてエルトン・ジョンの「Your Song」、あまりにも有名な。
『How wonderful life is while you're in the world』と歌う望海さんの歌声が心に深く沁みました。

さて、福岡公演にはスペシャルアンコールがありまして、歌う楽曲は「〇〇マン」か「〇〇アン」のどちらか、どいうことだったようですが、この回は「ドン・ジュアン」より「俺の名は」でした。
自分が演じた作品が再演されるのが夢だったそうで、今年この「ドン・ジュアン」と「Gato Bonito!!」が再演されるのが決まったことが嬉しいと語ってらっしゃいました。

望海さんの誠実さと温かさを感じて心の中をいっぱいにしてもらったおよそ100分のコンサートでした。

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