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2024年6月の1件の記事

2024/06/09

未来がこわい

5月25日に博多座にてミュージカル「クロスロード」を見てきました。

やまみちゆかさんのパガニーニの漫画を面白く読んでいたので、パガニーニがどのように描かれているのだろうと興味津々で観劇しました。

まず思ったのは「ツインリードヴォーカルみたいだなぁ」ということです。中川晃教さんのアムドゥスキアスと相葉裕樹さん(Wキャスト)のパガニーニによる歌のバトルが繰り広げられている印象でした。
お2人以外も歌唱力に定評のある方々がキャスティングされていて、それぞれに難しい楽曲に立ち向かっている印象。
音楽に聞き惚れるというよりはスポーツ観戦のようなハラハラドキドキ感。歌い切ったパフォーマーに「よっしゃ!」と言いたくなる感覚でした。
いますこし楽曲に華やかさがあるともっと楽しめるのになぁと思いました。

才能があるゆえに自分の不出来がわかるのは辛いだろうなぁ。それをわかってもらえず期待される辛さも。パガニーニが闇落ちしてしまうのはわかる気がしました。
芸術に身を捧げて限りない高みを目指すのはある意味で悪魔と契約するようなものかなぁ。
ほかには誰もたどり着けない場所に1人で居るのは孤独だろうなぁなどと思って見ていました。

契約関係を結んだアムドゥスキアスとパガニーニはその後芸術的な問題で相反し、芸術とは音楽とは創造とはということがテーマになるのかな?と思っていたのですが、アムドゥスキアスとの契約は既定の演奏回数に達したらパガニーニの魂を自分のものにする、演奏は私(アムドゥスキアス)のためにだけに演奏する、ということで、なんか悪魔せこくない?と感じてしまいました。いやいやそもそも悪魔ってそういうものなのかな。
アーシャ(有沙瞳さん)の練習のために弾くのはカウントされるのに、母親が歌っていた子守歌を舞台で演奏するのはカウントされないというロジックもよくわからんなーと思いました。論理的に抜けがあるからこそ悪魔なのかな。
中川晃教さんはノリノリで楽しそうだなぁと思いました。

音楽的には凄いなと思いつつ、戯作としては期待ほどの面白味はなかったかなぁ。
とくにモヤったのはパガニーニと母親テレーザ(春野寿美礼さん)の関係性の描かれ方です。悪魔と対比させる母親という属性だけで存在していて生身の人間ではないなぁ。
テレーザの子どもはニコロ(パガニーニ)1人ではないし、子どもらを食べさせ育てなくてはいけないという現実のためには打算も必要だっただろうと思うのだけど、そういうことは見ようとしないし描かないんだなぁと思いました。
パガニーニのコンサートを後方の安価な席で見ているテレーザが隣に座ったアムドゥスキアスにわが子ニコロへの母の愛情を示す場面にはうるうるしましたが、そこに至るまでのテレーザの描かれ方がモヤりました。
娘であればこういう見方はしないだろうなと。これは息子にとって都合の良い物語だなぁと思いました。

パガニーニのパトロンであるイタリアの女大公であるエリザ(元榮菜摘さん)もまた都合良く描かれた登場人物だなぁと思いました。
ナポレオン・ボナパルトの妹である彼女に取り入ろうとする人びとに囲まれ傲慢に振る舞うこと、パガニーニの才能を気に入って独断で宮廷楽長に任命したり彼を兄ナポレオンに会わせようとすること。
決して望んだわけではない途方もない権力と立場を得たことと、それと引き換えに失ったものを惜しみ苛立つ心境はとてもわかるなぁと思いました。
パガニーニとの無責任でわがままな人間同士の男女の関係も、なににつけても「ナポレオン・ボナパルトの妹」であることに心の奥底で傷ついていることも伝わる人物でした。
良識を逸脱して人から陰口を叩かれる行動は一種の自傷行為だなぁと。
しかし、こんな闇深い内面を有した女性を登場させながら、「愛するがゆえに」彼に黙って自ら身を退く人物として描かれていたのががっかりでした。
いえ彼女の気持ちは痛いほどわかりました。がっかりだったのはそのことに気づいているのはアーシャだけで、パガニーニにはすこしも響いていないこと。
彼女から与えられるものはしっかり享受していながら、彼女の存在が不都合になったら、彼自身は与り知らぬかたちで彼女自ら退場しパガニーニは無傷のままなこと。
これってけっきょく母親テレーザのときと同じだなと思います。
彼女はパガニーニが都合よく放埓な性愛関係をもつために登場させた人物で、パガニーニと作劇にとって無用になったら退場させる、それでいいと思っている脚本にがっかりでした。

アーシャについてもおなじです。
気ままな猫を気ままに可愛がるように愛玩動物としての存在だなぁと。
すこし優しく接するとオーバーアクションで喜びを表現し、邪険に扱ってもなお彼だけを追いかけてくる存在。
彼が社会的に無責任で自堕落な行動をとってもそこを責めないし(女性関係にも口出ししない)、自己問答代わりの対話相手にもなってくれ、窮地を脱するヒントもくれる。そういうところはイマジナリーコンパニオンに近いともいえるかな。
面倒なことは求めず、彼が得意なことについての教えを請い、無条件に励まし彼自身を肯定してくれるとても都合の良い存在。
アーシャ自身のためではなくパガニーニのために存在する、それがアーシャでした。

パガニーニ自身はそんな都合の良い人びとたちに囲まれてケアされながらその誰とも向き合っていない。
彼女たちの人生なんてどうでもよい。
女性たちだけではなく、執事のアルマンド(山寺宏一さん、Wキャスト)ともそんな関係だったと思います。
これはパガニーニの姿に仮託したテイカーを描いた物語だったのかなとモヤモヤが残る観劇でした。

CAST

中川晃教 アムドゥスキアス
相葉裕樹 ニコロ・パガニーニ(Wキャスト)
有沙 瞳 アーシャ(Wキャスト)
元榮菜摘 エリザ・ボナパルト
坂元健児 コスタ/ベルリオーズ
山寺宏一 アルマンド(Wキャスト)
春乃寿美礼 テレーザ

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