« 2025年1月 | トップページ

2025年2月の4件の記事

2025/02/24

真っ赤な嘘に染め上げろ

2月12日に博多座にて歌舞伎NEXT「朧の森に棲む鬼」を見てきました。

思っていた以上に新感線でした。
2007年版は見ていないんですが、この役は古田新太さんだな、高田聖子さんだな、粟根まことさんだろうな、と思ったり。

それに加えて、凄絶な立ち廻りや思わず見惚れてしまう所作、見得や六方、だんまり、人形振り、本水にさいごは宙乗りなど歌舞伎的演出が目白押しで、そこに大向こうもかかって、歌舞伎初心者の私には目を瞠る瞬間の連続でした。歌舞伎って凄いなあと感嘆しまくりでした。(一昨年見た「流白浪燦星(ルパン三世)」での愛之助さんのレクチャーがいまも歌舞伎を見る面白さをマシマシにしてくれています)

そしてやっぱり脚本に惚れ惚れしてしまうのは性かなぁ。
脚本も演出も演者もどこをとっても凄いなぁと感服しまくり。この打ちのめされるような満足感はなかなか味わえないなぁと大興奮、大満足の観劇体験でした。
歌舞伎って凄いエンタメだなぁと思いました。

松也さんのライ、幸四郎さんのサダミツの回だったのですが、ずっと幸四郎さんがいないなぁ・・と思っていて、さいごのさいごのカーテンコールでサダミツ登場時に背景の映像に幸四郎さんのお名前が出て、えええーっと驚きました。まんまとしてやられていました。
幸四郎さんがライをつとめる大千穐楽のライブ配信は平日だけれど見逃し配信もあるということなので購入しました。どんなライなのか楽しみです。
(けっきょく24日の松也さんのライブ配信も購入してしまって・・まんまとカモです・・)

松也さんのライは迫力が凄かったです。本当に剣に操られているように見えました。どういう体幹をしているんだろう・・。
口先では迎合しながら相手に顔が見えない向きで別の思惑がある表情を見せるのは「リチャード3世」ぽいなぁと思いました。
となると冒頭の3人の魔物(オボロ)に「王になる者」と言われるところが「マクベス」をリスペクトしているのかな。
歌舞伎以外の演劇にも挑戦してきた松也さんがいま、歌舞伎に誇りと充実感をもってこの舞台に立っている、そんな印象を受けました。

松也さんのライと尾上右近さんのキンタとの掛け合いもとても面白くて、シュテンの血人形の契りの意味がわかったときのライに僅かに動揺があったように見えたのは、端からシュテンと義兄弟の契りなどかわすつもりもなくて代わりにキンタの血をつかったことでキンタの命を危うくしたことを悟ってなのかな?
どんな相手も利用するし平然と騙し裏切ることもなんとも思っていないライだけど、ちょっとだけキンタに「あはれ」を感じているのかなぁと思いました。その本人さえ意識していないちょっとした「あはれ」が最終的に自滅につながるのがまたあはれでこの筋書きの痺れるところだなぁと思いました。
松也さんライと右近さんキンタの関係性がとても刺さったので、幸四郎さんのライとキンタではどうなるのだろうと興味がわいています。

時蔵さん演じるツナと坂東彌十郎さんのオオキミも好きだなぁと思いました。
時蔵さんのツナは女性性をほぼ封印した凛々しく美しい女性であるところがガツンと心を奪われました。すっとしたストイックな武人で女性で懊悩しがち。(まんまオスカルだな)それを女方が演じているところ。
(これまでもお嬢吉三や富姫や凜とした女方に心奪われていたから、ツナに惹かれるのは道理なのかな・・?)

オオキミは花道から登場のときから愛らしくて心掴まれました。「3人しかいないけど」もチャーミング。
玉座に上るため身を翻して打ちかけた着物を払う所作とタイミングがシキブともピタリと一緒で見惚れていました。
コミカルかと思いきやするっと様式美を決めるなど油断できない感じにぎゅっと心掴まれました。
坂東新悟さんが演じたシキブはじっさいに近くにいたら苦手なタイプだと思うのだけど、内に秘めたかなしみのようなものも感じて憎めない人だなぁと思いました。
そのかなしみというのは、ツナが感情を抑えているけれど心に嘘はないのとは対照的に、シキブは感情豊かに見せながら実は本心を隠して生きているからかなぁと思いました。そういうすごく女性ゆえな有り様にリアリティを感じてかなしくて憎めなかったのかなぁ。

観劇中のほぼどの瞬間も感動していてとても忙しかったです。演者のパフォーマンスにセリフに展開に。登場人物たちの名前にも。これってこういうこと? これってどういうこと? これって・・と。述べだすときりがないくらいに。とても面白かったです。

2月24日(松也さんライ千秋楽)と25日千穐楽(幸四郎さんライ)のライブ配信も購入したので、観劇中にこれは?あれは?と思っていたことを検証したり、ライが変わることでどうなるのかとか、また自分が何をどう思うのかとか、楽しみにしたいと思います。

| | | コメント (0)

2025/02/18

今は漕ぎ出でな

2月3日に宝塚バウホールにて星組公演「にぎたつの海に月出づ」をマチソワしてきました。
平松結有先生のデビュー作でした。

星組の美しい3番手極美慎さんの2度目のバウホール主演作、そしてヒロインは宝皇女(皇極=斉明天皇)と知りこれはぜひ見たいと思いました。
宝皇女はその出自から即位、そして死に至るまで(なんならその子や孫に至るまで)謎の多い女性で、かつて私はその周辺の記紀の記述をなんどもなんども読み返してああでもないこうでもないと考えていました。

物語は齢60代の斉明帝(詩ちづるさん)が百済に救援をおくる決意をするところからはじまりました。
どうして大国唐を敵に回してまでも百済を救援しようとしたのか、その理由がこれからの物語となるようです。

百済と倭国の連合軍は白村江にて大敗。
そこから場面は数十年さかのぼり極美さん演じる百済の留学生智積が若き頃の斉明帝=宝皇女(寶皇女)と宮中で遭遇。Boy Meets Girl的に物語が動き始めました。
思いつめた様子の宝、これから高貴な人との謁見の場に向かう智積、これからどうなっていくのだろうと思っていたところ・・。
「推古天皇のおなーりー」に思わずずっこけました。そ、そうかこれはこういうわかりやすい世界観でいくのだな、と気を取り直して。(生前なのに諡号で呼ばれるのね、あいわかりました)

宝の最初の夫である高向王(颯香凜さん)が引き立てられて出てきたときは、よもや宝塚で彼の名前を聴くことがあろうとはと感慨一入。
彼は用明天皇の孫で両親については記紀にも記載がない人だけれど、名(諱)が示す通り渡来系の高向氏と関係があると思われます。宝とのあいだに生まれた子の名前も「漢皇子(あやのみこ)」で同じく渡来系の東漢氏と関係が深かそうです。
宝自身も、母方から見ると蘇我系の血を引く用明天皇と推古天皇の同母弟である桜井皇子の孫にあたるのでこの婚姻は妥当なものだったのだろうと思います。
高向王とは死別なのか離別なのかは記紀にも書かれていませんが、そののち舒明天皇の皇后に立ち、さらには自らが天皇になることになろうとは、若い宝皇女は思いもしていなかったのではないかなぁと思います。
舒明天皇(田村皇子)自身も、血筋からは蘇我とは無縁のように思われますが、蘇我馬子の娘や推古帝の皇女を娶っていたことで時の趨勢が彼の味方についたのではないでしょうか。
最初の婚姻が短く終わった宝皇女や年齢的に不釣り合いではないかと思われる推古帝の第3皇女を娶っていたこと、采女が生んだ子を皇子として養育していることなど、そういう一つ一つが女性である推古帝には信頼に足ると思われていたのかもしれません。訳がありそうな皇女を任せられるくらいには。
そんな舒明天皇ですが体が丈夫ではなかったのか、たんに夫婦で温泉好きだったのか、たびたび有馬や道後の湯に行幸しています。宝皇女は天皇になってからも白浜の湯を気に入っていたみたいなので、皇后につきあってあげていたのかな? そのせいかはわかりませんが、そんな天皇のもとで気持ちが緩んだのか群卿らは出仕を怠けていたと書紀に書かれています。政は専ら蘇我大臣まかせになっていたようです。

さてしかしそういうことはここでは置いておいて、舞台では宝の最初の夫である高向王は女性(妻である宝)に暴力をふるった咎で盟神探湯(くかたち)にかけられようとしています。熱湯に手を入れて火傷をしなければ潔白という裁判です。
ん?妻に暴力をふるったら罪に問われる世界観なんだ。歴史物としては新鮮だなぁ。盟神探湯ってこの時代でもやっていたのかな。

熱湯に手を浸けられ火傷を負った高向王を見て、智積が大王の玉座に駆けのぼり薬箱を掠め取って高向王の手当てをしようとする。智積の師である観勒僧正(悠真倫さん)の機転によって咎を免れるけれど、推古天皇めちゃくちゃ寛大じゃない? 歴史物としてびっくりな展開にちょっと心がついていかない・・。これはファンタジイとして見たほうがいいのかな。

自分の歴史観との折り合いがつかず初見の観劇はかなり苦戦しました。
渡来僧観勒僧正が開いた学堂がお習字教室だったり(暦とか政とかを学ぶのではないんだ)皇族と農民の子が一緒に学んでいたり・・やっぱり歴史物語というよりもファンタジイ寄りで見た方がいいのね。

ところで智積という名前は平松先生の創作かと思いきや、皇極紀にその名前が2度出てきます。「大佐平」という臣民として最高位の身分の人で、最初は舒明帝崩御の年に「大佐平智積が死にました」という百済弔使の従者の言葉でいわゆる「ナレ死」。
ところが翌年皇極帝即位の年には百済の使者として宮廷で饗応されたという記述があり、死んだんじゃないんかーい!ってかんじです。
平松先生はそういう謎なところから名前を採用したのかなぁ。

設定に関してはファンタジイだと割り切って見るのがいいとはわかったのですが、心を通わせ愛し合い未婚で生んだ子の育児を全面的に担ってくれていたイクメンのジェントルラバー智積くんのことを、かんたんに讒言を信じて拒絶してしまう寶に、えっ?と思いました。彼を信じてかばってあげないの?
そしてもしやとは思っていたけれど、やっぱりその子は中大兄か。
田村皇子に対して自分との結婚の条件として未婚で生んだほかの男性の子を田村皇子の実子として育てるよう要求する寶にも引いたけれど、自分の血を引かない子を皇子(しかも大兄)として育てることを承諾する田村皇子にも、いくら恋に目が眩んだとはいえ皇統の自覚はないん?と思いました。(いちおう中大兄皇子=天智天皇の血統が現在までつづいていることになっているんだけど・・いいのかなそれで・・まぁ記紀自体が誰かに都合よく書かれたものだものなぁ・・)

瀬戸内海の熟田津(愛媛県松山市)から小舟で朝鮮半島の百済にたどり着くことなど万が一にもないでしょう。蘇我氏の謀によってそれを強いられる智積。この船出は死にゆくとおなじこと。
ここまで自分や自分の家族に誠意を尽くしてくれる智積の命乞いを、なぜ宝はもっと中大兄を我が子として育てることを田村皇子に要求したとおなじ圧をもってしようとしないのだろう。物語全編をとおしてちょいちょい私は宝の気持ちがわからなくなりました。この決定を覆すために奔走することもなく、どうしてその死出をかくもやすやすと受け容れてしまえるんだろう宝は。
自分のためにこれから死に向かう智積に対して「(百済で)待っていてくれますか」とか、それから20年後にあたりまえだけど彼は百済に帰国することはなかったと聞いて「まだ迷っているのですね」とか、詩的に表現されてもそれはないんじゃない?と。
「帰る国(百済)がなくなっては困るでしょうから」というセンチメンタルで百済救援を決意することも。自分がために独り大海に漂流し果ててしまった人の死でうまいこと言わないでと。私はずっと宝に腹を立てていたように思います。あまりにも自分本位に思えて。
智積は納得したうえだったのかもしれないけれど、それは納得せざるをえなく宝がしたからですよね。
私的な感傷で国運を賭けた戦をするのも苦しかった・・。このあと多くの人々が亡くなったり捕虜になったり、国防のために家族から引き離され遠く壱岐対馬筑紫の防人となり故郷に帰れず悲しい歌を詠んだりしているのだけどと。

というかんじで呆然としたまま初見は終わってしまったのですが、2回目の観劇ではそういうことは一切考えないようにしてイクメン智積くんの美しさをひたすらに堪能しました。その美しさに釣り合う実力を身につけた極美さんに惚れ惚れとしながら。宝皇女を愛しそうにみつめる立ち姿頭のてっぺんからつま先まではいにしえの少女漫画もかくやと。美しく舞台に立つことの尊さをしみじみと感じました。
若くて無分別ですらある宝皇女と老年の域にいる斉明天皇を演じ分ける詩ちづるさんの確かな実力。貴女のせいじゃんと思いつつも、かつて智積が乗った小舟と百済に向かう倭国水軍の船の大きさの違いを嘆く彼女に感情を揺さぶられました。

理性的な青年皇族だった田村皇子が内面の阿修羅を表出し嫉妬の炎を燃やす姿、そして良心の呵責にやつれた舒明天皇としての姿を演じて見せた稀惺かずとさんも目を瞠るものがありましたし、その舒明天皇や主役である智積を追い詰めていく 蘇我入鹿役の大希颯さんも悪役としての気迫が素晴らしかったです。(稀惺さんと大希さんとで「あかねさす紫の花」を見てみていなぁと思いました)

威厳と美しさに溢れ、宝皇女にすすむべき未来を示唆する推古天皇役の瑠璃花夏さんも重要な役どころを絶妙に演じているなぁと感嘆の思いでした。高貴な女性としての身のこなしも素敵だなぁと思いました。
輝咲玲央さん演じる蘇我蝦夷はもう、見るからに腹の黒い悪しき大臣の役作りで、この人が表に出てきたら誰も太刀打ちできないんじゃない?と思いました。彼のひと言により策略を巡らした入鹿によって舒明帝も智積もまんまとやられてしまって・・陰で物語を動かす人でした。

智積の親友で同じく百済からの留学生の覚従役の碧海さりおさんは頼もしかったです。舒明帝の遺勅を奪うために入鹿が放った追手に襲われる智積と宝皇女たちのまえに颯爽と登場して敵を斬り払う姿は惚れ惚れしました。
親友である智積をあのようなかたちで失わねばならなかった彼の心中は、その遣る瀬無さを思うと胸が痛みます。
凰陽さや華さん演じる宝皇女の弟軽皇子は癒しでした。その存在に和まされついつい目で追っていました。

鳳花るりなさん演じる小鈴は演じるのが難しいだろうなと思いました。智積と宝が袂を分かつきっかけをつくる大事な役なのだけれども設定があまりにファンタジイで。
着ているものにしても母親が仏教に帰依することにしても国で最高峰の支配階級の若者たちが集い学ぶ場に被支配民の子が混じる設定も、飛鳥時代の「百姓」としての解像度が粗いわりに、物語の進行上担っている役割が大きくて、プロットからあまり肉付けがされていない感じだなぁと思いました。でも作者の社会的な関心が投影されているようなところもあって、肉付けし出すとと収まりきらなくなりそうで、それを削る作業がまた膨大になりそうな役でもあるなぁと思いました。(そこが愉しさでもあるのでしょうけど)

小鈴が智積の日記を持ち出す動機として、「宝への嫉妬心を利用された」と描けば典型的でわかりやすくドラマになりそうではあるのだけれども、そうしなかったのが平松先生らしさなのかなぁと思いました。
そうであれば、そこに期待したいなぁと。私の世代では持ちえない新しい感覚の平松先生がこれから描かれていく物語のなかの別の「小鈴」をたのしみにしたいなぁと思います。
なによりもこのデビュー作で主役を魅力的に描ける才をお持ちだとわかりましたので(私が宝塚でいちばん望むことです)今後の作品も大いに楽しみです。
私は書紀にならって智積が宝皇女や皇子たちと愉快に宴会をしている夢を見ていたいと思います。素敵だったフィナーレを思い浮かべて。

| | | コメント (0)

2025/02/09

ただひとときは与えられ

1月21日22日そして28日に宝塚大劇場にて宙組公演「宝塚110年の恋のうた」「Razzle Dazzle」を見てきました。
21日はイープラスの貸切公演、28日はローソンチケットの貸切公演でした。

幸せな気持ちと言葉にならない思いで溢れる観劇となりました。
「宝塚100年の恋のうた」は芹香斗亜さん演じる藤原定家が桜木みなとさん演じる「八千代(春日野八千代さんの姿をした宝塚歌劇の化身?)」のいざないによって、過去からの宝塚歌劇の日本もの作品の登場人物となって宙組生たちとともに選りすぐりの名曲を歌い継いでいく作品でした。
芹香斗亜さんの狩衣姿や若衆姿やその美しい舞台姿に心に幸福感が溢れ出し、またその心地よい声に酔えば歌詞のひと言ひと言が心に沁みるそんな舞台でした。
名曲というのは物語を離れても折々のひとりひとりの心に寄り添うものなのだなと思いました。
ひたすらにキキちゃん(芹香斗亜さん)と宙組が美しくて愛おしかったです。

ことに「恋の曼荼羅(新源氏物語)」「琴時雨(夢浮橋)」「生きるときめき(星影の人)」はひたひたと心に浸みわたっていきました。
そしてこの作品の主題歌となる「定家葛」。和歌を読み上げる式子内親王役の春乃さくらさんのかくも美しい歌声に聞き惚れ、定家を演じる芹香さんとの切ない恋の重唱に言葉にならない気持ちが溢れて、私のこの気持ちもまた執心だなぁと思いました。

フィナーレの総踊りで桜木みなとさんが夢の間惜しき春なれば・・と歌う「花の舞拍子」も沁みました。桜木さんのたしかな表現力はこういう場面を引き立てるなぁと思いました。
酒井澄夫先生が紡ぐことばの儚くうつくしいこと。ただ聞き惚れるひとときのなんとしあわせなこと。
そして華やかに「花吹雪恋吹雪」で幕がおり、晴れ晴れとした心のそのずっと奥底に、もっと聞いていたかった ― まだまだこれでは足りないと叫ぶ声なき声が存在していました。
この執心のゆくえを季春のそのときまで見とどけていかねばと思っています。

「Razzle Dazzle」は盛りだくさんだった前物の日本ものレヴューのあとにふさわしい軽快な作品でした。
笑いありせつなさもあり、世間知らずで人生を軽んじているような自分本位な青年が自分とは異なる世界の異なる価値観で懸命に生きている人びととの出会いから確固たる自分の夢を見出していくストーリーは田渕先生の作品らしいなぁと思いました。
主人公の軽やかで洗練されたハリウッド一(いち)裕福な孤児レイモンドはその軽妙さも朗らかさも時折見せる寂しい顔も芹香さんの魅力にぴったりでした。
宙組の面々がこぞって芝居の間が良くてとてもよい作品に仕上がっていました。

とくに目を惹いたのはやはり女役に初挑戦の瑠風輝さん。『お騒がせ女優』の異名をとるシャーリーンという長身でゴージャスな映画スターの役でしたが『お騒がせ』と言われるも憎めないチャーミングさもきちんと表現されていて素敵だなぁと思いました。
「ハビロンの落日」の大階段を使ったクライマックスシーン撮影の場面の存在感と女役としての歌声の素晴らしさが秀逸でした。

もうひとり目を瞠ったのはレイモンド(芹香さん)の婚約者アビー役の天彩峰里さん。
レイモンドに対して高飛車だけれど、じつはもっともなことしか言っていないし、レイモンドのことも父親のことも心から考えている愛情深い女性なんだなと、そしてとても有能なんだなと。そういう女性であることがしっかりとつたわる芝居をする天彩さんにさすがだなぁと感心しました。
きっとレイモンドのことをほんとうに愛しているのだと思うし、きっとこれまでもずっとレイモンドが気づかないだけでアビーに助けられていたんじゃないかなと思いました。ほんとにもう、レイモンドったらコノヤロー!ですよね。あんなこと平気で言っちゃって。ドロシーとハッピーエンドはうれしいんだけど。

春乃さくらさん演じるヒロインのドロシーもまた幸せになってほしいなと思わせる素敵なキャラで、きっとレイモンドはさいしょに遇ったときから彼女に好意をいだいていたよねと思います。
桜木さん演じる映画スターのトニーも、鷹翔千空さん風色日向さん亜音有星さんたちが演じる映画のエキストラの面々もそれぞれに映画を愛していてそれに一生懸命に携わっているのがわかって、皆が愛するこの映画の世界がずっと守られますようにと心から思いました。
桜木さんのトニーを中心に映画に携わる人びとが歌う「Over the Rainbow」は感動的でした。

そういえば若翔りつさん演じる鬼軍曹とたとえられる怖い映画監督ハワードの役作りは芹香さんが新人公演で主演をつとめた「愛と青春の旅立ち」のオマージュかしらと思ったりも。(版権問題で見たことがないのですが映画のイメージで)
ひとりひとりのパフォーマンスも申し分なくこの充実したメンバーでこのミュージカルコメディが演じられる贅沢さを堪能しながらこんな舞台をもっともっと見たかったという思いが湧き出づるのをとめられませんでした。

日本物レヴューの後物のお芝居ということでハッピーエンドのあとに付いたフィナーレのショーがこれまた贅沢で素晴らしかったです。
さいしょの桜木みなとさん瑠風輝さんによる歌唱指導は、瑠風さんが本編にひきつづき女役のドレスで登場し歌唱もいつもの男役の声ではなく女役の歌声で。桜木さんとのハモりがそれはそれは心地よくて次回の大劇場公演ではもうこの2人のハモりは聞けなくなるのかと思うと遣る瀬無い思いでした。

大階段の真ん中でステキなドレスをまとった娘役さんたちに囲まれる芹香さんはおしゃれで華やか。KAORIaliveさんの振り付けがほんとうに似合う人だなぁとしみじみ。
男役群舞を率いて歌う「Fooling Good」も洗練されていてとても素敵。
芹香さんが去って桜木さん中心の男役群舞はまたちがった趣き。キレキレのダンスでキメる男役さんたちに思わずふふっとなりました。
そして芹香さん春乃さんのデュエットダンスは「Smoke Gets In Your Eyes 」。長身の2人のスタイルの良さと品の良さが際立って宙組らしい素敵なトップコンビだなぁと思いました。
ジャズが似合う芹香さんの雰囲気が私はとても好きでこんなフィナーレをもっと見ていたいと思いました。が、1月は自分の予定が合わずこの3回しか見られませんでした。(東京公演も1回分しかチケットがない状態です・・涙)
早く映像でこの美しさ儚さそして粋でおしゃれな宙組を繰り返し摂取したいと、いまはひたすらにBlu-rayの発売を待っています。

| | | コメント (0)

2025/02/05

This is me(唯一無二)/礼真琴 日本武道館コンサート

1月19日に日本武道館にて礼真琴コンサート「ANTHEM-アンセム-」を見てきました。

歌もダンスも破格の比類のなきタカラジェンヌ礼真琴さん、そのコンサートならばきっと凄い体験ができるだろうなと、これはぜひ行ってみたいと思うものの、日本武道館ってどうやって行けばいいの?会場はどんな感じ?といつも通う劇場とはちがうアウェイ感がハードルでした。

行きたい気持ちと不安で葛藤していたところ、かつて同じジェンヌさんを応援していた都内在住の知人がつい先ごろ礼真琴さんに激落ちしたと聞いて、とんとん拍子に一緒に行くことになり憂いなく武道館までたどり着けました。(知人は18日の初日も見ていたので中の雰囲気や内部の気温のことなども細かに教えてもらえてほんとうに助かりました! ちなみに彼女は全通でした)

コンサートは想像以上に素晴らしかったです。
不安の1つには、私は礼さんのCDも聞いていないし近年の流行りの歌などまったく知らないのだけど、その状態で楽しめるのかな?というのもあったのですが、まったくの杞憂に終わりました。じっさいコンサート前半で使用された宝塚以外の楽曲は知らない曲ばかりでしたが、礼さんと星組メンバーのグルーヴィーなパフォーマンスですべての楽曲を愉しんでいました。

とりわけ印象に残っているのは、副組長さん(白妙なつさん)の可愛さ。小桜ほのかさんのいつもとはちがうアイドルのような歌唱。ほんとうにタカラジェンヌってなんにだってなれちゃうんだなぁと思いながら。
礼さんと暁千星さんが向かい合い手を握り合って「ぼくたちは同じ星座だと信じてるから」と歌うナンバーはとてもエモーショナルで幸せな気持ちになりました。
トロッコにのってサインボールを投げまくりながら愉しそうに歌う礼さんも印象的でした。力いっぱい投げてもまったく声がブレないのは凄いなぁと思ったり。

日替わりのトークコーナーでは、その日選ばれしメンバー4人が「ANTHEM(応援歌)」に因んで、礼さんに背中を押されたエピソードを礼さんを前に礼さんのものまねをしながら披露するというもので、エピソードを披露するメンバーが礼さん役で、礼さんがそのエピソードを語る本人役になってて、そのやりとりも含めてとても面白かったです。(小桜ほのかさんだけは礼さんのものまねはされなかったのですが、それもまた小桜さんらしくて笑)
エピソード自体はとても真面目で「いい話」な内容なんですが、皆さんエンターテイナーだなぁと笑。
皆さんそれぞれにとても礼さんリスペクトなのがよくわかりましたが、とりわけ鳳真斗愛さんが熱狂的に礼さんフリークなのがじゅうぶんすぎるほどつたわりました笑。

後半の宝塚ナンバーのターンのさいしょは、星組のメンバーたちが1人ひとり、礼さんがかつて演じた役の扮装でその役のナンバーを歌いだし途中から礼さんと向かい合いみつめあってともに歌い、そして礼さんがひとりで歌い聴かせるという構成でとても胸が熱くなりました。下級生1人ひとりの礼さんへのリスペクトをひしひしと感じとれました。これは宝物になる経験だなぁと。
初々しい人もいれば、柳生十兵衛に扮した天飛華音さんなどは思わず「巧っ」と思うのですが、礼さんが歌いだすとやっぱり圧巻レベルで、しみじみと礼さんの凄さを感じる場面でもありました。

10数名の礼さんがかつて演じた役と絡んだ最後には皆で「BIG FISH」のナンバーを歌い上げて、そこからがらりと舞台が暗転。
礼さんが1人で「VIOLETOPIA」の孤独を歌い踊る場面は圧巻でした。暗転からライトが当たってそこには2階建てのセットに礼さんの演じた役に扮した星組メンバーたち。
さいごにすべてが愛おしいと歌う礼さん。
「VIOLETOPIA」という劇場の光と影を幻想的に描いたショーの終盤のソロダンスで使用されたナンバーゆえに、礼さんが演じた役の扮装をした星組メンバーを背景にして礼さんがその歌詞を歌う光景に鳥肌がたちました。
役たちと星組生たちと宝塚への礼さんの思いが重なって見えて・・。

つづく「ヴィランズ・メドレー」ともいえる場面も礼さんの悪い魅力炸裂で見ている私は魂がどこかに抜けて出でてました。
2~3曲で終わるのではなくて、「BIG FISH」の魔女の歌(都 優奈さん)や「ディミトリ」で礼さんと敵対したアヴァク(暁千星さん)のソロも含めて6曲ほどをとことん歌舞と舞台美術を駆使して見せる演出が素晴らしかったです。
はじまりの「バラ色の人生」(オーム・シャンティ・オーム)は咥え煙草で斜に構え酷薄な流し目の礼さんが最高にクールでした。
そして暁さんのレッドにティリアンとして対峙する「宿命」(エル・アルコン-鷹-)ではレッドを気魄で凌駕していくさまが圧巻でした。
「私から憎しいを奪うな」(モンテ・クリスト伯)はもう、うひょう~で。闇落ちした礼さんと礼さんをとりまく邪悪な雰囲気の星組メンバーズ。とりわけ礼さんにすがりつく天飛華音さんはいったい・・?! ほんとうにもうタカラジェンヌって何にでもなれちゃうんだなぁと思いました。
ここまで悪の華を見せながらも嫌悪感を抱かせないのも大優勝だなぁと思いました。
「マダム・ギロチン」(THE SCARLET PIMPERNEL)の振り付けはゾクゾク。とてもショーらしい振り付けで、コンサートならではの場面だなぁと思いました。

そしてそして礼真琴さんのトート。こんな「最後のダンス」を聴ける日がこようとは・・滂沱。
個人的に歌いあげ系のミュージカルナンバーが苦手なもので、こういう抜け感のある「最後のダンス」は大好物でした。
この体験から「死ぬまでに礼さんの『エリザベート』ガラ・コンサートを見たい(聴きたい)!」という夢ができました。(どうかどうかよろしくお願いします!)

つづく「栄光の日々」(THE SCARLET PIMPERNEL)のあとはまた宝塚以外のナンバーでしたが、とても元気をもらえる曲ばかりでした。
その中で「soul」という曲が礼さんが作詞したものだそう。

アンコールの1曲目は「星を継ぐ者」(龍星)。礼さんにとってとてもとても大切な曲を満を持して歌ってくれました。この曲を歌える喜びのような、いまだからこその礼さんの言葉にできない感情をかんじることができた気が勝手にしました。
そして「グレイテスト・ショーマン」の「This Is Me」。ラストにこの曲なのがまたなんとも言えない気持ちで聴きました。(これを礼さんが歌っているんだ・・いろんなことが思われて・・ことにこの数年の・・これは泣く・・)

こんな体験をこれから何回できるだろうと思うくらいの素晴らしい演出や振付や構成。そしてそれにじゅうぶんに応えた礼さんと星組生に心からの拍手を贈って高揚感に酔いながら武道館を後にしました。
さいしょはどうなるかと思った日帰り遠征でしたが、本当に実行してよかったと心から思いました。

| | | コメント (0)

« 2025年1月 | トップページ