真にあなたはグレート
3月30日に博多座にて「マジシャンの憂鬱」「Jubilee」の千秋楽を見てきました。
初日と千秋楽を含め4公演を見ましたが、お芝居もショーもひたすらに心を委ねて楽しめた公演でした。
「マジシャンの憂鬱」は花組時代からショースターとして観客の心を自在に掌握してきた瀬奈じゅんさんがトップ3年目、歌唱力抜群のトップ娘役の彩乃かなみさんや下級生時代から実力を認められていた2番手の霧矢大夢さんをはじめとして役者が充実していた当時の月組に充てて作られた、難易度が高い作品だと思います。
舞台上で大事件が起きるわけでも恋愛模様がドラマティックに盛り上がるわけでもなく、過去にあったことや登場人物の心情を観客が理解することで笑いが起きたりほっこりとした感情を生む・・そんな作品でした。その機微がつたわらないと観客は何を見ているかわからないまま流れてしまう難しさがあると思います。
今回の博多座の演目が発表になったときは、新トップが就任したばかりの花組でハードルが高そうだなと思ったのですが、見事に演じきった今回の博多座メンバーには称賛の気持ちでいっぱいです。
こんなにストレスなしに見られた公演もなかなかないなぁと思います。正塚先生の作品なのになぁ。(マンスプ気味だったり女性の自尊心を傷つけてから持ち上げるなどする愛情表現が苦手なんです・・心を支配しやすそうなキャラをヒロインにするあたりも)
「マジ鬱」初演も若干そういうところもあった気がするのですが、17年ぶりの再演ではそれを感じずに見ることができて、なにがちがったのかなぁと考えましたが、やっぱりいちばんは2025年のいまの感覚を持つ生徒さんたちが演じたからではないかなぁと思っています。
だとするなら、おなじく正塚作品の「薔薇に降る雨」をいま演じたらどうなるのか見てみたいなぁ。とも思いました。
(あえて言わせてもらうと)主人公が「顔だけの最低男」だったあの作品が、2025年のいま上演されたらどんな感じになるのだろうと。
ヒロインにとっては過去も現在もキラキラした存在で、ビジネスパートナーには信頼されて、彼に助けられた人びとにはヒーロー的存在の主人公、そんな輝かしい主人公がフィアンセに対してはリアルに最低であるあるすぎて、下手な取り繕いもまたリアルで、その小さな綻びを前に佇む男女のなんともいえない空気が15年以上を経たいまも記憶に残っています。(おそらく作者の筆がいちばん走ったターンじゃないのかなぁ・・)
そのあたり、いまだったらどう見えるのかなぁと思ったりするのでした。
年経るゆえの愉しみとでもいいましょうか。
(フィアンセの名前がフランス人なのにヘレンだったりとか、いろいろツッコミたい作品でもあったのですが)
と・・世迷言はこれくらいにして今回の舞台の感想を・・。
永久輝せあさんは身のこなしのひとつひとつが美しいなぁと思いました。
お芝居では1910年代っぽいコスチューム(ダウントンアビーの初期くらいかな)、シルクハットにインバネスコートにスリーピース、ベルベットジャケットなどどれもがとてもお似合いでした。(宝塚のこの年代の衣装のバリエーションはほんとうにすごい!)
シャンドールがさりげなく柱(壁?)によりかかるポーズは毎回美しいなぁと惚れ惚れして見ていました。
ショーではザ・宝塚な夢夢しい衣装を着こなし(戴冠式でフレディ・マーキュリーが思い浮かんでしまったのはそのバレエ的な身のこなしゆえでしょうか・・)、黒燕尾でのターン、真っすぐに高く上がる脚。どの一瞬を切り取っても絵になるなぁと思いました。
星空美咲さんは歌声が絶品。
「マジシャンの憂鬱」は歌唱力抜群の彩乃かなみさんに向けて作曲された数々のナンバーを歌いこなす実力に感服でした。
そしてショーの戴冠式のシーンでの歌唱にも。
長身の娘役さんゆえドレスも映えて、堂々と舞台に立っている頼もしい姿には、「PRINCE OF ROSES」の初日の緊張の面持ちを記憶しているので、「こんなに立派になられて・・」と思わずにはいられませんでした。大劇場公演を見ていないので、トップ娘役として立派につとめあげている姿に感動したりして笑。
聖乃あすかさんがこんなにコメディエンヌだったとは知りませんでした。
近年私が花組で見た公演では、1人だけ時空の外にいてほかの登場人物とはセリフを交わさない役やシリアスな役を演じていたのでとても意外でした。
初見時、階段から登場したいかにもプリンス然とした姿に見惚れてしまったのですが、まさかそのエレガントな皇太子が・・。まさに殿下はパッショネイト笑。
可笑しみもありつつ皇太子妃をエスコートする姿はやはり甘やかで、記憶喪失の彼女への告白シーンにはじんわりと涙してしまいました。
ショーでもたくさん活躍されていて、とくに娘役さんたちの真ん中で美しく輝いていた姿が甘く鋭く印象的でした。
これからにますます期待したいなぁと思いました。
美羽愛さんはお芝居で皇太子妃として登場するまでにかなり時間がありましたが、パーティの客など別の役で舞台に出てくると思わずそのチャーミングな舞台姿を目で追っていました。
記憶を失った皇太子妃が精霊たちとカタコンベで踊る場面は儚くて可憐でと美しかったです。
記憶を失ったまま皇太子の聖乃あすかさんと愛情を交わす場面は名場面だなぁと思いました。
ショーでは極楽鳥として専科の高翔みず希さん凛城きらさんを翻弄するダンスが愛らしくて好きでした。
シャンドールの家の5人の居候たち。ラースロ役の羽立光来さんとジグモンド役の一之瀬航季さんは、舞台と客席の橋渡し的な存在でもあって、2人のセリフや慌てぶりで状況が理解できました。滑舌もよく良い仕事をされてました。
ラースロがシャンドールを気遣うヴェロニカのマネをするシーンはわかっていても可笑しくて楽しみでした。
舞台俳優のヤーノシュ役の侑輝大弥さんもいちいちセリフが芝居がかっていて面白かったです。お顔がはっきりして綺麗なのでモノクロのサイレント映画の俳優も向いているなぁと思いました。(ヴァレンティノみたいに人気が出そうだけど舞台俳優にこだわりがあるのかな)
占い師ギゼラ役の朝葉ことのさん、まずパーティでの歌声に聞き惚れました。グループ芝居でのセリフもいい塩梅で彼女の存在で良い感じにまとまっていて頼もしいなぁと思いました。
自称詩人というレオー役の天城れいんさんはかわいい雰囲気が役にぴったりだなぁと思いました。
シャンドールに別れのことばが言えない場面で、もうすこしシャンドールとの関係性が見えたらなぁと。(これはシャンドールの声かけにも言えるんだけど)
「自称詩人」でいつもメシのことばかり言っている・・それだけの情報でシャンドールに出会う(拾われる)までどんな生活をしていたのかとか勝手に想像できてしまったりして、あまたの空想をめぐらせすぎたかもしれません笑(想像ではちょっとランボーが入ってました)
専科の高翔さん、凛城さん、そして副組長の紫門ゆりやさんが芝居ではコミカルな間で楽しませてくれながら、パーティのシーンではまったく別の紳士の役としてとっても粋でロイヤルだったりするのもさすがだなぁと思いました。
下級生にいたるまで皆さんが素晴らしかったです。
私の脳内ではもうこれは「エリザベート」できちゃうんじゃない?ってなっていました。永久輝トート、星空シシィは当然。フランツは聖乃さん?(いやこんなに面白い殿下がやれるんだからルキーニもできちゃうんじゃない?)などなど。エルマー、マデレーネ、リヒテンシュタイン侯爵夫人、・・とどんどん脳内劇場がはじまって大変です。
いつか現実になる日がくるのでしょうか・・?
このメンバーに星組から極美慎さんも加わるのかと思うと花組眩しすぎない??と心配と期待でまた足を運ばずにいられなくなりそうです。
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