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2025年9月の1件の記事

2025/09/08

哀しみで女は殺せない

8月22日に梅田芸術劇場メインホールにてミュージカル「コレット」を見てきました。

地元の友人から誘っていただき公式HPを確認したところ、明日海りおさんが主演で花乃まりあさんのお名前も。これはぜひ見に来たいと思い、1遠征で雪組宝塚バウホール公演「ステップ・バイ・ミー」と合わせて見られるといいなぁと計画を立てました。
観劇が決まったあとで改めてキャスト陣を見直すと七海ひろきさんのお名前もあるではないですか。宝塚退団後の七海さんの舞台姿を見るのは2021年のエリザベート・ガラコンサート以来です。明日海トート、花乃シシィを見たくてコロナ収束前でしたが東急シアターオーブまで見に行った時のことを思い出しました。(幕が上がって舞台上に大月さゆさんの姿もみつけてさらにテンションがあがりました。89期が3人。エリザ・ガラコンにもマダム・ヴォルフで出演されてたなぁ)

・・と、ほぼキャスト目当てで見に行ったのですが、これがとても面白くて引き込まれる舞台でした。
オリジナル・ミュージカルというと真っ先に「スワンキング」が頭に浮かびちょっと心配もありました。女性キャラの描かれ方に共感できなかったのと音楽が真面目すぎるなぁと思った記憶があって。
「コレット」はその真逆で、明日海さん演じる主人公コレットはもちろん、ミッシー(七海ひろきさん)、メグ(花乃まりあさん)、シド(前田美波里さん)、ジョルジー(大月さゆさん)、シャルロット(可知寛子さん)、ボレール(コイタ奈央美さん)、イザベル(伊宮理恵さん)と登場する女性キャラが揃いも揃って個性的でイキイキとしているのがとても面白くて引き込まれて見てしまいました。
音楽もとてもおしゃれで気持ちが盛り上がりました。コレットが夢中で物語を書き付けるときのナンバーは明日海さんの魅力が眩しかったです。二度目の夫アンリ(吉野圭吾さん)の愛人イザベルのぶっとんだナンバーも印象的でした笑。どのナンバーも自然に心に入って来た気がします。
見終わってから「スワンキング」が「コレット」とおなじG2さんの脚本・演出で、音楽もおなじく荻野清子さんだったと知り不思議な気がしました。
「スワンキング」は頭では理解できても惹き込まれることがなかったのは、たとえ時代の先端をゆく気鋭の芸術家たちであっても19世紀の男性優位が当然の考え方に根付いたかれらの言動と、パターナリズムの下で無力化された女性の姿ばかり見せつけられたからかなぁと思ったりします。
一方「コレット」に登場する女性たちは、やはり20世紀初頭の男性優位の社会を生きてはいるのですが、女性1人で生きていけないのなら誰と生きるのかどう生きるのか、それぞれに自分で考え選んで生きているように見えました。

田舎育ちの世間知らず、夢見がちでありながらも行動力だけはある危なっかしい少女だったコレットが、パリでやり手の文筆家(ゴーストライターたちに自分の名前で小説を書かせている)ウィリー(今井朋彦さん)と結婚し、彼との生活や彼の仕事ぶりから人生や文学の学びを得ていき、自分を夢中にさせるものに打ち込み、タブーをものともせずに自分がやりたいと思う生き方を邁進していく姿はとても清々しく快かったです。明日海さんは物語に惹き込む力が凄いなぁと思いました。
夫に対抗するために夫の愛人シャルロット(可知さん)に教えを請う場面もとても魅力的でした。シャルロットもさいしょは面食らった様子だったのがだんだんコレットに惹き込まれ面白がってレクチャーしていくのが面白かったです。(こういうシスターフッドとても好きです)
アメリカ人のジョルジー(大月さん)とも彼女の誘惑のままに関係を持って悪びれないところ。けっきょくジョルジーはウィリーとも関係があり彼の思惑で動いていたというとってもベルエポック的なエピソードですが、爛れた感じになっていないのは演出の意図と明日海さんの持ち味なのかな。

男装の麗人ベルブーフ侯爵夫人で愛称ミッシー役の七海ひろきさんは声が宝塚時代とちがっていてちょっと驚きました。男役の声というより高めの若い男性の声に近いような。声優としても活動されているんだったなぁと退団後のキャリアに思いを馳せました。
男装姿も宝塚時代と変わらずスマートでカッコ良くて、まさに長身の元男役だった七海さんにぴったりのキャスティングだなぁと思いました。
ナポレオン3世の姪として公爵家に生まれ侯爵を夫としながら同性愛者として、さらに当時の社会規範では同性愛以上にタブーとされた男装を貫き好奇の目に晒されながらも堂々と自分の生き方を選択しているミッシー。
『ぬくぬくとした自由なんてどこにもありはしない/自由と孤独をひきかえに切り開いて歩く棘の道 』とコレットに歌いかける言葉が重かったです。コレットに多大な影響を与えた人だなぁと思いました。
生きる糧を得るために労働する必要のない人だからできることもあるのかと思いました。

コレットがウィリーのもとを飛び出したあと、コレットにとって代わろうとウィリーのパートナーとなったメグ(花乃さん)。
そもそもウィリーってそんなに魅力のある男性なのかなと思ってしまうのは生きている時代が私と彼女たちとではちがうからかな。社会的地位や立派な身なり、自信にあふれた言動は、パートナー選びが生きる手段である当時の女性から見たら魅力的なのかもしれないなぁ。
なによりメグはコレットがウィリー名義で書いた小説の主人公クローディーヌになりたい人なんだろうなぁと思いました。「クローディーヌ」はコレットが自分を投影した小説なので、つまりコレットになりたいのだろうなぁ。ウィリーをパートナーとしたのもそういうことかな。
自分がコレットに代わって彼女が居た場所に座り、さらにコレットよりも上位に見せようと悪戦苦闘。あの手この手でコレットを陥れようとする様はまるでアニメの敵役のようでコミカルで面白くチャーミングにも見えました。花乃さんが宝塚の宙組時代に演じた賞金稼ぎの役なども思い出して懐かしい気持ちにもなりました。(七海さんが主演の1人だった作品でした)(花乃さんははっちゃけると面白可愛いんですよね)
コレットを陥れる作戦自体はぜんぜん上手くいっていないのに、ウィリーもなんだか楽しそうだなと思いました。いい悪役コンビみたいでした。(ロケット団みたい笑)

コレットにとってのシャルロット、ジョルジー、そしてミッシーと、フィジカルな関係があるかどうかは抜きにして、彼女たちは新しい時代を生きる女性としてコレットが階段を上っていく先に仰ぎ見た道標のような同性なのだろうと思います。
メグにとってはコレットがそれにあたるのかもしれないと思いました。
でもコレットが臆することなく彼女たちの懐に正面から飛び込んでいき何某かを学びとるのに対して、メグはコレットに嫌がらせをすることでしかアプローチできないのだなぁ。憧れる気持ちを拗らせているように思いました。
19世紀から20世紀へと時代は移り行き、都市で生きる人々を取り巻く環境や意識が大きく変容していくなか、新しい時代の雛型としての女性像もない。それを探し続け先鋒を歩き続けた1人がコレットなのだろうなと思います。
それでいて尖り過ぎてもいない自然体でチャーミングなのは田舎で母親シド(前田美波里さん)の愛情をしっかりと受けて育ったからかななどと思いました。旧時代の女性でありながら娘を古い型に押し込めようとせず、コレットが舞台やレポタージュに追われて小説を書けないでいる時代でもずっと小説を書き続けるよう助言する姿を見ていると、娘の本質を知る母としてその人生の実りを願うと同時に、彼女にとってもコレットは希望なのかなぁと思ったりもしました。母としても、もしかして1人の女性としても。

20歳で14歳年上の文筆家ウィリーと結婚、彼のもとから飛び立ち、時代の社会規範から外れた女性たちに学んだのちは、年下の男性たちから愛されるようになるコレット。社会的に認められ、経済的基盤もできてギブすることができるようになると自ずとそうなってしまうのかな?
ミュージックホールのダンサー時代のファンであるエリオに、語り部で終盤に正体がわかるベルトラン。ともに大東立樹さんが演じていました。
親子ほど年上で自分に正直すぎる掴みどころのない女性に憧れ恋愛関係になるってどういう感覚でどういう気持ちなんだろうなと思いました。

いまから100年前、世の中の価値観が大きく変わる時代を生きたコレットの生き様が主演の明日海りおさんと脚本演出のG2さん音楽の荻野清子さんらの手によって鮮やかに興味深く描き出された作品でした。
大人の感覚のミュージカルという点も新鮮でした。
2025年のいま見られてとてもよかったなと思います。

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