おびんちゃん
6月24日に六月博多座大歌舞伎(昼の部)を見てきました。
5月は星組観劇に関西まで数往復、地元ですが月組全国ツアー公演にも通うので、七之助さんは気になるけれど6月の観劇はお休みしようと決めて博多座会への申し込みはしていませんでした。
・・が、6月に入ってついついオンラインチケットを覗いてしまい、仕事がない日に1階特Bのとても見やすい席が空いているのを発見して思わずポチり。当初の決意はどこへやらで博多座へ行ってまいりました。
「双蝶々曲輪日記 引窓」「お祭り」「福叶神恋噺」ともに心にじんわりと効いてくる演目で見に来てよかったなと思いました。
「双蝶々曲輪日記 引窓」ではお幸とお早を演じられた中村梅花さんと中村鶴松さんの所作に見入っていました。どの所作にも意味が見て取れてしかも自然で凄いなぁと。
嫁のお早が「笑止」と笑うのを、姑のお幸が廓言葉を使ってはおかしいとたしなめる時の言い方がちっとも嫌味がなくて愛情深く聞こえるのもすごいなぁと思いました。
劇中お早は二度ほど「笑止」と笑ってその都度お幸は窘めるのだけど、そのやりとりが微笑ましくて素敵でした。
きっとこの日だけではなくて、お早とお幸は日々こんなやりとりをしているのだろうなぁと。うっかり出てしまうお早の廓言葉もお幸に気をゆるしてのことだろうなぁとも思いました。
色里の出身であることを絶対に表に出すまいというような強情ではなくて、朗らかに日々の仕事に勤しみ無邪気に笑うお早と、だめなことはきちんとたしなめながらお早のことを受け入れているお幸の関係が見ていて涼やかでした。
互いにリスペクトがあり思いやりと素直な心で居心地の良い家庭を営む2人の女性。
そんな幸せな情景を見ていたところに来訪者が。
訪れたのは5つで里子に出したお幸の息子でいまは濡髪という四股名で相撲取りとなっている長五郎(福之助さん)。
家父長制を生きるお幸の人生がそこにはありました。
いまより寿命が短く夫婦が1人の相手と生涯を連れ添うことはなかなか難しい時代。
出産後に病いに臥し子を遺して亡くなる女性も多く、そうして連れ合いを亡くした男性は家政の切り盛り、子の養育、自分も含めた家族のケアのために後妻を娶るのが義務のようなものだったかと。
継子や継母はめづらしいことではなかったでしょう。
お幸と先妻の子である与兵衛(橋之助さん)もまさにそういう関係で、お幸の愛情をうけて与兵衛は育ったのだろうなぁと思いました。
しかしお幸は後妻に入る前に5つまで育てた実の子を里子に出したと語っていました。連れ合いを亡くした女性が1人で子どもを育てる選択肢はほぼなかったのでしょう。
里子に出した手前、里親に遠慮して会いに行くこともできず、ようやく母子が会えたのは長五郎が成人して里親も亡くなった後、所用で出かけた大坂で偶然に。うれしさはいかばかりだっただろうと思うけれど、話をしただけで別れて戻って来たと。
その長五郎が自分を訪ねてきた。人を殺めて追われる身となって。お幸の気持ちを思うとせつなかったです。
長五郎を召し捕る役目を仰せつかったのが継子の与兵衛。代々郷代官を勤めてきた家に生まれて、本日ようやく晴れて郷代官に取り立てられたばかり。その初仕事が長五郎の召し捕りという。
お幸を思って夫を止めたいお早。
すべてを察してお幸のために初手柄を捨てて長五郎を逃がそうとする与兵衛。
与兵衛の気持ちに心打たれて自ら縄に掛かろうとする長五郎。
実の子と継子への思いに揺れるお幸。
実の子の長五郎に婚家と継子への義理を説かれて、よう言うてくれたと覚悟を決めて実子を縄に掛けようとするお幸。
母の情よりも婚家への義理を重んじなくてはいけない人生なのだなぁと思いました。
このお幸の気持ち、いまの世の若い人たちにもつたわるかしらと思いながら。
歌舞伎だからこそ味わえる世界観に浸れて良かったです。
「お祭り」は、ほろ酔い気分の鳶のお頭(勘九郎さん)が陽気にいなせに祭りに集う人びとと絡んでいく舞踊でした。
勘九郎さんや鶴松さんたちの身体能力にひたすら目を瞠りました。凄すぎる。あのバランスでどうしてあんなこと・・などと。
ひょっとこのお面で男っぽく踊っていた勘九郎さんが、おかめのお面をかぶったとたんに柔和な女性の所作で踊りだしたのに驚きました。
楽しく見ながら歌舞伎すごいなぁと思いました。
「福叶神恋噺」でも貧乏神のおびんちゃん役の七之助さんの所作に見入っていました。女方の所作ってなぜにこんなに美しくて魅了されるのだろうと思いながら。筋力かな。姉さん被りではたきをかけるだけでも素敵。流れるような所作の一連とスピード感も。ちょっとかっこいい。
掃除も洗濯も縫い物もどの所作もいつまでも見ていたいし、時折流れるご近所の三味線の音に合わせて思わず踊ってしまうところも可愛いし。おびんちゃん大好きだぁと心で何回も叫んでいました。
長屋のおかみさんたちに可愛がられるおびんちゃんの場面も好きだったなぁ。長屋の大家さんもだけどみんなとっても人が好い。
それに甘えっぱなしの辰五郎は感心しませんが。
おびんちゃんも貧乏神だけど本心は人をしあわせにしたくてしょうがないんだなと思いました。貧乏神には向かないよね、おびんちゃん。
そんなおびんちゃんを心配する貧乏神仲間?のすかんぴん(勘九郎さん)や貧乏神元締めのからっけつ(猿弥さん)もやさしいな。
富くじを当てちゃうなんてやっぱりおびんちゃんはそんじょそこらの貧乏神とはちょっとちがうな。(富くじは辰五郎のものだけど、おびんちゃんに憑かれたから当たったのではないかな)
福の神になったからには辰五郎など捨てておしまいなさいと思いました。
(辰五郎の改心がいまいち疑わしく思える私なのでした)
おびんちゃんと長屋のみんなが朗らかに笑って暮らせますように。
7月20日、仕事帰りに中洲大洋にてシネマ歌舞伎「三人吉三」を見ました。

