カテゴリー「♖ 歌舞伎」の19件の記事

2023/12/24

ルパン三世たぁ俺がことだぁ

12月15日に新橋演舞場にて新作歌舞伎「流白浪燦星」を見てきました。

白浪とは盗賊のこと。「流白浪燦星」と書いてルパン三世と読みます。
あの劇画やアニメで有名なルパン三世が安土桃山時代に居たら?という荒唐無稽な設定です。
ルパン三世が安土桃山時代(秀吉の晩年として1590年代?)にいたとして、そしたらおじいさんのアルセーヌ・ルパンは大航海時代の序盤に活躍した人になってしまう???ってくらいに笑。
なんですが、「細けぇこたぁいいんだよ」ってことでサクッと物語世界に入っていけるのが歌舞伎の良いところかな。

14日に観劇する歌舞伎座の天守物語が夜の公演のため宿泊は必至、翌15日はどう過ごそうかなぁと考えておりました。
宙組が公演するなら滑り込めないかなぁとギリギリまで粘ってみましたが中止となってしまったので気になっていたこの新作歌舞伎のルパン三世を見ることに決めました。

そんなかんじで気軽にチケットを取ったのですが、これが期待以上によかったです。
エンタメに振り切った初心者でも楽しめる舞台でありつつしっかり歌舞伎!!でした。

石川五右衛門の楼門五三桐(「絶景かな絶景かな」)に峰不二子の花魁道中、「白浪五人男」を模したルパン・次元・不二子・五ェ門・銭形の口上まである贅沢三昧な出し物でした。
他にも歌舞伎の名シーンを彷彿とさせる場面や有名なルパン一味の決めゼリフもふんだんで「待ってました!!」と心で快哉を叫びまくりました。
「ルパン三世」はテレビアニメを毎週見ていた世代でだいたいのキャラクターや決めゼリフは知っているつもりですが、おそらく私にはわからないけれどコアな笑いもとっていたみたいで原作ファンは嬉しいだろうなぁと思いました。

筋書きは荒唐無稽ながら筋が通っていて風刺も効いているし傾城糸星あたりの物語は思わず涙したりして。
決戦の舞台が伊都国(糸島)なのも福岡県民としては嬉しかったです。
糸星=いとほし(愛おし)=伊都☆☆☆・・なるほど。頭いいなぁ。と脚本とネーミングにも感心。

早替りに本水とケレンもたっぷり、荒唐無稽に傾奇いて江戸時代の芝居小屋ってこんな感じだったのかも。
浄瑠璃はもとより大薩摩も聞けてそれもびっくり。
歌舞伎役者の矜持も感じられ感心しつつ、これでもかのエンタメ三昧で大満足でした。

しかし宝塚歌劇では18世紀末のフランスでマリー・アントワネットやカリオストロ伯爵と絡んでいたし、歌舞伎では安土桃山(16世紀末)で石川五ェ門に真柴久吉(豊臣秀吉)と・・。次なるルパン三世はどこでどういう演出で見られるのかなぁと新たな楽しみもできました。

CAST

ルパン三世☆片岡 愛之助 愛嬌たっぷりの愛之助さんらしいルパンでした。やっぱりもみあげはないとね。声もアニメに寄せていて達者。巻き舌の「ルパァ~ン三世」や「不二子ちゃ~ぁん」が聞けて最高でした。
石川五ェ門☆尾上 松也
 まだルパンの仲間になる前という設定。やっぱり楼門五三桐やるんだ~~~からのいつものルパン三世の五ェ門スタイルへの早替えに爆上がりしました。傾城糸星との仲はさすが二枚目、せつない場面も見どころでした。
次元大介☆市川 笑三郎
 ルパンがだたの理解不能なお調子者に見えないのは次元がルパンへのセリフの返し、ルパンの真意をさりげなく言葉にするからこそなんだなぁと思いました。紙巻煙草ではなく煙管、トレードマークの顎鬚はそのままにハット代わりに伸び放題の(にしてはきれいに揃っている)月代。やっぱり次元はダンディでニヒル。股旅姿の道中合羽の裏地が緑でおしゃれでした。
峰不二子☆市川 笑也
 ルパンとの関係性、敵役との関係性、やっぱり不二子はこうでなくちゃ。不二子のテーマにのせた2幕頭の花魁道中は見応えがありました。あの高下駄であの優雅さ。素敵でした。
銭形警部☆市川 中車
 愛之助さんルパンなら中車さんが銭形でしょ。と思っていたらそのとおりに笑。銭形警部が銭形刑部に。投げ銭も寛永通宝じゃなくて永楽通宝に。その永楽通宝を染め抜いた着物がおしゃれ。テンガロンハットの代わりに変わり烏帽子、手にする十手はむしろ先祖返り??? ていうか銭形警部のおじいさん銭形平次(江戸時代)との関係は??とか考えても仕方がないか。細けぇことは・・(以下略)

傾城糸星/伊都之大王☆尾上 右近
 見ているだけでうっとりの花魁姿。ゴージャス&マーヴェラス。嫋やかな花魁とラスボスの早替えにびっくりしました。(個人的に9年前に見た愛らしい亀姫が・・と)大詰めの五ェ門との場面は泣けました。
長須登美衛門☆中村 鷹之資
 見るからに忠心の端正な侍姿で話す内容がぶっとんでいるギャップに萌えました。
牢名主九十三郎☆市川 寿猿
 役名に齢が~老美男子寿猿さんがこの役名で牢名主として舞台に存在することが楽しくて思わず笑みが・・。ルパン三世のことはご存知じゃなかったらしいのも流石です。
唐句麗屋銀座衛門☆市川 猿弥
 丸菱商事の部長さんが唐句麗屋さんに??あれ逆かな(わかる人にはわかるネタらしい「VIVANT」?)。
真柴久吉☆坂東 彌十郎
 北条時政の生まれ変わりと言われていたのは「鎌倉殿の13人」で演じられていたからですよね笑。さすがの久吉(秀吉)で説得力ありありでした。

2幕頭の片岡千壽さん演じる通人萬望軒さん(マモーではないの?)の説明もためになって面白かったです。
あらゆるところで初心者にやさしい演目でありがたかったです。
これは皆でみてワイワイやりたい演目だなぁと思いました。
(お正月に家族で見逃し配信見ようかな)

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2023/12/23

お言葉の花が蝶のように飛びましてお美しい事でござる

12月14日に歌舞伎座で十二月大歌舞伎の「猩々」と「天守物語」を見てきました。3部制で第3部の演目でした。

今年5月の平成中村座が姫路城天守の下で七之助さんが富姫の「天守物語」と知り、見たかったなぁと残念に思っていたところ12月に歌舞伎座で上演とな。しかも亀姫がなななんと玉三郎さん?!と聞いてはどうしても見に行きたいと思い、上京のスケジュールを練りに練り、めでたく見ることができました。

「天守物語」はその世界観が大好きでシネマ歌舞伎でも見ましたがどうしても生で見たくて9年前にはじめて歌舞伎座に行き観劇した演目です。
その時は富姫が玉三郎さん、亀姫が尾上右近さん、図書之助が海老蔵さん(團十郎さん)だったと記憶しています。
富姫と亀姫の戯れを自分の目で覗き込むように見て(3階席でした)嬉しくて涙したことを覚えています。

今回は1階席のセンター席で見たのですが、歌舞伎座は座席が千鳥になっていないのですね。衛門之介の首のやりとりのあたりが丁度前の方の頭にかぶってしまって見づらかったのがちょっと残念ではありましたが、1階席ならではの幸せもありました。

七之助さんの富姫はきっぱりと臈長けた美しさ。言葉の一つ一つがとても明晰に聞こえておっしゃるとおりと感心してしまいます。
玉三郎さんの亀姫はあどけなさと残酷さのあわいが絶妙で言の葉に光る怜悧さにはっとさせられます。したたかに愛嬌があり甘えているようで突き放す感じがたまらない。

「このごろは召し上がるそうだね」と富姫が吸いさしの煙管を差し出すのを受け取って、吸口に口を当て「ええ、どちらも」と別の手で杯を傾ける真似をする亀姫。こういうところ大好きです。愛らしいけれど何も知らないお姫様ではないのです。
猪苗代から姫路まで五百里の通い路を「手鞠をつきにわざわざここまでおいでだね」と富姫に話を向けられて、
「でございますから、おあねえさまはわたくしがお可愛うございましょう」
「いいえ、お憎らしい」
「ご勝手」
「やっぱりお可愛い」
富姫と亀姫の言葉のやりとりは夢を見ているようで、頬寄せ合う2人の姿に涙目になりました。なんて満たされる世界観なのだろう。
このやりとりを眺め暮らしていられたらと。
「お仲が良くてお争い、お言葉の花が蝶のように飛びましてお美しいことでござる」という朱の盤のセリフに心の底から肯きました。
会話の内容はなかなかぞっとするものだったりするのだけども。その、人ならざるものゆえの清々しさにしばし心が解き放たれました。

亀姫とは反対に涼しい女主人然とした富姫ですが、登場の場面で蓑を被った姿を腰元に誉められて「嘘ばっかり、小山田の案山子に借りてきたのだものを」「誉められてちっと重くなった」とさっさと脱ごうとするところの機微は案外可愛らしい面が感じられてこれもとても好きでした。腰元たちもこんな夫人にお仕えできてうれしいだろうなぁ。

2014年に見た時はこの人ではないものたちの世界を眺めているのがあまりにも幸せすぎて心がいっぱいで、その後に人間の図書之助たちが天守に登ってきて以降の記憶が飛んでしまっているのです。
おそらく心が人間の世界に戻りたくなくて拒否してしまったのかもと思います。

今回は富姫と図書之助とのやりとりがちゃんと心に入ってきました。
演出も変わったのかなと思いますが、七之助さんの富姫は言葉が明晰に響いてくるように感じました。虎之介さんの図書之助も言葉が涼しくはっきりと聞こえました。
そういうことだったのか、なるほどそうだったのか、と合点がいくことしきり。(9年前はなにを見ていたのかな?と)
小田原修理の説明もクリアに頭に入りました。
獅子の動きも変わったのではないかな? 動きがとても素早くてリアルでかつ可愛かったです。

「たった一度の恋だのに」
お互い目が見えなくなって死を覚悟するも一目お互いの顔が見たいと嘆く場面は涙しました。
富姫と図書之助の物語に没入できたせいか、工人の近江之丞桃六が登場して鑿で獅子の眼を開いたときは心から良かったなぁと思いました。
こんなにもハッピーエンドだったんだと。
おそらく以前に見た時は事の成り行きがよくわかっていなくて戸惑ってしまったのじゃないかなぁと思います。
今回の観劇でようやく自分が作品に追いついたかんじです。近江之丞桃六の言葉がとても心に染み入りました。

いつかまたこの演目を見てみたいなぁ。その時はどんな心持ちになるのかなと思いながら、とても満たされた気持ちで帰路に就きました。

覚書

「猩々」
猩々 尾上松緑
酒売り 中村種之助
猩々 中村勘九郎

「天守物語」
富姫 中村七之助
姫川図書之助 中村虎之介
舌長姥/近江之丞桃六 中村勘九郎
薄 上村吉弥
小田原修理 片岡亀蔵
朱の盤坊 中村獅童
亀姫 坂東玉三郎

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2018/11/14

あらしのよるに。

11月6日に博多座にて新作歌舞伎「あらしのよるに」を見てきました。

原作は読んでいましたから、まちがいなく泣いてしまうのはわかっていましたが・・・。
中村獅童さんのがぶがもう(涙)。
心の中で自分の抑揚で読んでいたものを芝居巧者に感情を込めてセリフにされてはもうどうしようもありませんでした。
見た目は強い狼なのに、心の中は優しいのが獅童さんのビジュアルにぴったり。
狼の本能として山羊のめいを食べたいと思うけれど、そんな自分を恥ずかしいと思い、たいせつなめいに嫌われるのではと身もだえして必死でがまんする姿。
自分はお腹をすかせているのに、めいが美味しい草をたくさん食べられるように見守ってあげる。
めいが安心して自分のそばにいられるように、本当の自分を面に出さぬように必死で耐えている優しさ。
「~やんす」という口癖はコミカルで自分を抑えようと身をよじる姿はせつないやら・・・。
記憶を失ってしまった場面での豹変ぶりはまさに役者さんだなぁと思いました。
(記憶がもどってホッとしました)

なにも知らぬげに無邪気にがぶを慕っていたように見えためいもまた、内心は狼であるがぶを怖いと思う自分を必死で抑えてなにも気にしていないように見せかけていて、そのことに深い罪悪感を覚えて悩んでいたことが3幕でわかって、それもまた心を揺さぶられて涙でした。
その気持ちは女性としてよくわかりました。
疑ってはいけないと思うのにちょっとした挙動に怯えてしまう気持ちとその罪悪感。
尾上松也さんのめいは、すごく中性的でそこがまたなんとも魅力的でした。

みい姫の中村米吉さんが愛らしいくも気高いお姫様で、登場するたびにいいなぁ♡となりました。
めいが打ち明けられない秘め事を持っているのを聴いた場面では、めいを信じて無理強いに告白させないフェアネスにいたく感心しました。
山羊の?上に立つに相応しい立派なお姫様。マイフェアレディ♡
みい姫の登場場面が楽しみでした。

客席には小さいお客様もちらほら見受けられ、客席降りではそんなお客様を可愛いお花に見立てて弄ってみたり。
近道と称して通路ではない客席と客席の間を無理やりに通って行ったり。
花道から小さいお客様をみつけて弄ったり。
がぶが義太夫の方に遊ばれたり。
客席を盛り上げ笑わせる演出やアドリブも満載でお子様が思わず立てる愛らしい笑い声も聞こえて微笑ましい空間になっていました。

絵本が原作でわかりやすい作品になっていましたが、見得を切ったり花道を飛び六方で引っ込んだりと、歌舞伎らしさもふんだんで、やはりこれは歌舞伎演目なんだなと思いました。
歌舞伎だからこその感情表現とこの獣たちの架空のお話の相性も抜群だなぁと思いました。

この作品を博多座で見ることができて本当によかったなと思いましたし、歌舞伎未経験なお若い方にぜひこの作品をすすめたいなと思いました。

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2015/10/10

思えば因果な身の上ぢやなあ。


『三人吉三廓初買』(黙阿弥作、河竹繁俊校訂、岩波文庫)を読みました。

古本で手に入れたのですが、昔の岩波文庫(1938年第1刷、1991年第9刷)なので活字は7.5ptでト書はそれより小さくて4か5pt。ふだん使っている眼鏡ではとても読めないので、つくりましたよ~このためにリーディンググラス(^_^.)(これでこれからはまた小さい文字の本が読める♡) 
旧字旧仮名遣いに難儀したところも活版印刷の9刷めだから潰れたり歪んだり擦れている字もありましたが、舞台の記憶にたすけられたり、なにより物語自体が面白くどんどん読み進みました。

「三人吉三」は玉三郎さんのお嬢で通し狂言を見たことがありますし、さいきんシネマ歌舞伎でコクーン版も見ましたが、原作の文里一重の部分は見た記憶がないなと思っていたら、今は上演しないのですね。
たしかに文里一重の場面を省いて三人に絞ったほうが舞台としては展開がすっきりするかなぁとは思います。でも、読み物としてあったほうが面白い。そこが舞台を見るのと読み物とのちがいかな。
伝吉が殺される場面や三人が刺し違える場面など、舞台での見せ場が、脚本では数行のト書だけだったりするのだなぁとも思いました。

庚申丸(刀)と百両をめぐる因果話は、舞台で見たときもよく出来ているなぁとただただ感嘆しましたが、さらにその庚申丸と百両が、文里さんと一重さんの身の上まで左右しているのが凄いなぁと、黙阿弥さんの頭の中ってどうなっているの???とひたすら驚くしかありませんでした。

そうか、お坊はただたんに悪人だから百両を強奪した訳ではなくて、妹一重のため、恩人文里さんのために百両がほしかったのか。
それぞれの動機や人情がちゃんと描かれていて筋が通っているのがすごい。

さらに、花魁として文里さんの子を産み病床に就いてしまった一重さんや、一重さんが生んだ子どもを引き取って育てる文里さんの妻おしづさんがどうなってしまうのか、先を読むのが面白かったです。
舞台だと文里一重の場面はないままのほうが展開に面白さがあるけれど、かなうなら文里一重のくだりも織り込んで、連続ドラマで見てみたいものだなぁと思います。
それくらいよくできた脚本に驚くばかりでした。

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2015/09/27

元のもくあみとならんとの心なり。


河竹登志夫著『黙阿弥』(講談社文芸文庫)を読みました。

なぜ二代目河竹新七が『黙阿弥』と名を改めたのか。
旧幕時代から明治半ばの移り変わる時代の中を歌舞伎の狂言作家として生きた河竹黙阿弥の心の奥の真の思いを、黙阿弥の孫である著者がたくさんの資料を読み込んで解き明かす本でした。

本邦の演劇(歌舞伎)を西洋の先進国のように上流の人びとが観賞する高雅で社会的地位の高いものにしようと新政府のお偉方が「演劇改良」の名の下に、彼の脚本演出にお門違いな口出しをする。
さらには、彼の役者の意向を汲み宛書をするやり方を「俳優の奴隷」と指弾し、歌舞伎の様式にのっとった時代物を「無学」と蔑む。
それでも歯向かうことはせず忍従を貫く黙阿弥さん。

一つには、人気狂言作家となるまでに、同じ作家や役者、座元などといった人びととの人間関係にもまれてきた彼自身の経験から、相手の気持ちに副い、他人との諍いを避け、慎重に用心深く生きるということが処世術として身についていたこともあると思う。(役者に親切、見物に親切、座元に親切の「三親切」が彼の金科玉条だったそう)

もう一つはやはり時代かなぁと。
武士たちが攘夷だ佐幕だ勤皇だと国の頂をかけて争っていても、江戸の町人や芝居小屋の人びとにしてみたら、将軍の世から天子様の世に変わろうと顔色を窺う相手が変わるだけのことで、時代に応じた商売をしていくのはいたっていつもどおりのことなんだなぁと。
どんなに羽振りのよい役者でも、お上のご機嫌を損ねたら家は潰され家財は壊され、お江戸追放の憂き目。抗えない身分制度の中で生きてきた人びとの感覚が黙阿弥さんにも備わっているのだなと。
「俳優の奴隷」だの「無学」だのと見下されても、狂言作者である以上はいまをときめく権力者に歯向かったりはしない。芝居を守ること小屋を守ることは何にも替えられない大切なことだから、それがなくなっては狂言作家として生きられないから。職業が即ちアイディンティティーそのものの時代の人なんだなぁと。

けれど、そんな人前で感情を露わにし激昂することのない彼であっても、内心は思うところがあったに違いない。
それこそ一字一句にもこだわる江戸狂言作家としての矜持や美学が。
芝居のわからぬ政治家や学者の先生方こそ何ものぞと。
いまは黙っているけれど、いつかまた私でなければならない日がくるならばと。
隠居名の「黙阿弥」に込められた彼の真意――『元のもくあみとならんとの心なり』。
なるほどなぁと納得でした。

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2015/07/30

思えば果敢ねぇ身の上だなァ。

Kichiza7月20日、仕事帰りに中洲大洋にてシネマ歌舞伎「三人吉三」を見ました。

黙阿弥ってすごい、、ってやっぱり思っちゃいますねぇ。
三人吉三は10年ほど前に博多座で、お嬢玉三郎、お坊段治郎(月乃助)、和尚獅堂で通し狂言を見て、やっぱり黙阿弥さんすごいって思ったんですよね~。

あのときは、玉三郎さんのお嬢がいちばんの見物でもあり、とにかく素晴らしく、そして様式美を堪能しましたが、シネマ歌舞伎のこの三人吉三は、コクーン歌舞伎の演出ゆえか、はたまた演じる勘九郎さん、七之助さん、尾上松也さんの若さゆえか、とてもリアルな三人吉三を堪能しました。

面構えが若造なんですよね。
美しさよりも荒削り。
このあたりは映像ゆえになおさら感じられた気がします。

彼ら3人が大川端庚申塚の前で、義兄弟の契りを交わして、
「思えば果敢ない身の上だなァ」と見栄を切ったときの表情のアップを見た瞬間、うわっと切ないものがこみ上げてきました。
この若さ。
こんなに悪ぶっているのに。
捨て犬が心細げにふるえて寄り添っているのを見たときのような胸の痛みが・・・。

5歳でかどわかされて旅芸人に売られて育ったお嬢、
母を早くに亡くして極道者の父親のもとで捻くれて育った和尚、
武家に生まれながら幼い頃にお家断絶、仇討ちを言い聞かされて育つも果たせぬままに虚しく浪人のお坊、
いわば社会の孤児である3人。
だれかのかけがえのない存在になりたかった魂が3つ。

どうせいつかは惨めに果敢なくなる身の上。
ならばその命を義兄弟のためにと。
その見かけや言動とはうらはらの純粋さに胸が痛くなりました。

勘九郎さん、七之助さん、松也さん、お若い3人だからこそ。いまのお3人だからこその激しさ、迫力、疾走感、純粋さを見ることができた気がします。
できることなら生で見たかった!という口惜しさ。
けれども映像だからこそ、時間を置いてまた見れる。
そのとき私はどんな感想を抱くのかを楽しみたいなぁと思いました。

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2014/08/17

お姉様は私がお可愛うございましょう。

7月14日(月)、東京宝塚劇場宙組公演の休演日に東銀座へ行き
歌舞伎座七月大歌舞伎の夜の部を見てきました。

「悪太郎」、綺堂の「修禅寺物語」、鏡花の「天守物語」を見ました。


右近さんの悪太郎、可笑しかったです。
そして身体能力凄すぎです。
(なんであんなことできるの?)

狂言の「悪太郎」よりもさらに設定ディテールが明瞭なのは歌舞伎ならではかな。
舞台化粧とお衣装がついているのが新鮮でした。
狂言の大らかさはそのままに、さらに豪快で憎めないキャラになっているようでした。

迷惑な人にはちがいないのだけど、こういう人を笑える懐の深さ、寛容さこそ、
現代に必要なんじゃないかな。
なんて思いました。


「天守物語」を見たいと思ってチケットをとったので、岡本綺堂の「修禅寺物語」も
併演されると知ってうれしかったです。

夜叉王と姉娘の桂、ともに倫を外れても己の望むものを求めずにいられない業を背負った
父と娘のそれぞれが放つ一瞬の輝きを見せるところが見所だと思いますが、いまいち、
それが曇ってしまったというか、なにを見せたいのかが鮮明でなかったような・・・?

あの場面(夜叉王の「苦痛を堪えてしばらく待て」)で笑いが起きてしまうのは
やっぱり間が悪いのだと思います。
あとやっぱり迫力不足かなぁ。
夜叉王の業と桂の輝きがクローズアップされる大事な台詞だけに残念に思いました。
あそこで戦慄を味わいたかったなぁ。

またいつか見られるチャンスがあったら、そこがどう見えるかを楽しみにしたいと思います。


「天守物語」は、もうこの世界観が好きで好きで・・・。
そこにある世界を、この目で見、そこに気持ちをやれる至福。
富姫と亀姫の愛嬌あふれる言い合い、女童や侍女たちの戯れ言が
目の前で繰り広げられるさまに、涙が溢れました。
あちらの世界へ行きたくて。

3階の下手から見下ろすように見ていたのに、いいお芝居というのは
席など関係なく集中できるものなんだなぁと思いました。
舞台の上の1人1人が鏡花の世界にきれいに生きていて見蕩れました。

富姫の目線は明快。
自分の慾望も他人の慾望もまっすぐにお見通し。
可笑しいものは笑う。
道理に適わないことはぴしゃりと指摘する。
潔い人だ。
物事を深く読むことができるけれども、むやみに複雑にしない。
平らかに解き明かす。

そんな彼女だから図書之助の心の涼しさに心を打たれるのだろう。
そして、そんな彼女をもってしても恋は。
平らでない道をあえて選びすすませる。
理よりわが身より相手を思う。だから恋は美しい。
恋ゆえに闇に身動きできなくなる。

そんな心を愛でるところに美があり芸術があり感動があるのだなぁ。
この美しき世界を愛でる気持ちがあるかぎり、生きていかれる気がします。

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2014/03/27

迦陵頻伽の迎えのように。

Nihonbashi
3月27日、グランドシネマ「日本橋」を見てきました。

泉鏡花原作のお芝居。
日本橋の芸者のお孝さんを玉三郎さん、清葉さんを高橋惠子さん。

清葉さんはお孝さんにとって天女のような存在なのかなぁ。
なりたかった存在が清葉さんなのかなぁ。
張り合っているように見えるけど、ただそれだけではなくて、いつも彼女の心の裡には清葉さんが存在するんだなぁ。
泣きました。 お孝さんの心がせつなくて。

(お孝さんと清葉さんの関係に「長い春の果てに」のステファンとクロードが思い出されました)

高橋惠子さんの清葉さんは、ただ優しいだけじゃない凜とした女性でした。
彼女が神々しければ神々しいほど説得力がでるのだなぁと思いました。
その企みのない毅然としたまっすぐな横顔は天女でした。

(TOHOシネマズ天神にて)

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2013/07/05

うれしやな。

6月13日、六月博多座大歌舞伎を見ました。

3月から6月初旬まで、宙組公演を追いかけて、
その間にはかなめさん特出のベルばら(大劇)や
ゆうがさん出演のOG公演(フォーラム)があったりもして。
なんだか抜け殻のようになって、咳も1ヶ月続いたり、身体もあちこち痛んだりしていたので
正直、あきらめていたのですが、日比谷に遠征中に録画していた、NHKローカルの
猿之助さんと中車さんのトーク番組を見て、その日の夜にやっぱり見に行くことにしました。

仕事はお休みだけど、和文の講座に行く日だったので、夜公演を。
体力がないので幕見にしようと思って、チケットカウンターへ。

見たいのはもちろん、四ノ切。
でも和文が終わるのが15時前。それから遅いランチをしても
19時半の開演まで時間があるなーと思っていたところに
チケットカウンターのおねえさんに、その前の五三桐はよろしいですか?
とすすめられ、あっさり見ることに決めました。
それならせっかくだから、その前の口上も見よう。
それならいっそ小栗栖の長兵衛も見よう。
ってなって、けっきょく夜公演の全部を幕見で見ることにしました(^^;

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2012/07/02

しったんしったん。

梅実る頃…のはすが、
いつの間にやら7月に入り、梅雨も終わりの蒸し暑さ。

6月の博多座は大歌舞伎公演中でした。
9日に夜の部を見て、やっぱりもう一度芝雀さんの踊りが見てみたいなーと思い
見るなら昼の部の娘七種だなーと思い
でも5時間はしんどいなー 
そうだ幕見ができるんじゃん。

ってことで、19日に生まれて初の幕見を体験してまいりました。

「春調娘七種」と「三人吉三巴白浪 大川端庚申塚の場1幕」で1,400円なり。
休憩15分を挟んで約1時間。お席は3階下手。
これいいわ(^^)。

「春調娘七種」は、曾我五郎を歌昇さん、曾我十郎を錦之助さん、静御前を芝雀さん。

私の知る曾我兄弟といえば、
 ♪富士の裾野の夜はふけて~あやめも分かぬ五月闇~
 ♪来たれ時致今宵こそ十八年の恨みをば~いでや兄上今宵こそただ一撃に敵をば~
で兄弟が敵討ちをする物語。
それがなんで静御前と踊っているのかはさっぱりわからんでござる~\(^o^)/

あ、2人は身を隠して父の敵を討つ時節を狙っている、そういう頃の1コマなのですね。

華やいだ春の陽気。
若菜摘みの姫。
鼓と舞。
のどか~~~。

なのに心に秘めた敵討ち。
このミスマッチの妙(笑)。

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