カテゴリー「♕ 星組」の67件の記事

2025/06/06

われても末に

5月27日に念願の宝塚歌劇星組大劇場公演「阿修羅城の瞳」2回目を見ることができました。

1回目で原作との擦り合わせもしていましたし、新人公演も見ることができたので2回目の観劇は戸惑うことなく物語に入っていけました。
宝塚版「阿修羅城の瞳」を心から愉しめて最高の観劇体験でした。

5月6日にはじめて見たときは、新感線版ではセリフで語られていた部分が視覚化されていることに戸惑っていたように思います。

私は小説の映像化(舞台化)作品を見て戸惑ってしまうことがよくあります。ビジュアル化されたことで「あったもの」がなくなっていることに対して呆然としてしまうかんじです。
ビジュアル化されることでなくなるものってナニかというと・・行間とか概念とかとても私的なイマジナリーななにか? そんなもの自分が勝手に受け取って勝手に愉しんでいただけやんってかんじですが。勝手にあると思っていたものがない?ない?と探しあぐねているうちに終わってしまった・・みたいな感覚かな。
さいしょから原作小説と映画・舞台は別モノとして見るスキルを持てばよい話なのですが。なるべくそうしようと心がけてはいます。難しいですけど。

しかし「阿修羅城の瞳」はもともと舞台だったものなのでうっかりしていたといいますか。
あれ?あれ?ここで摂取していたものが・・?あれ?となってしまったんだと思います。

いま思うに、宝塚歌劇って視覚化に全力なんだなぁと。
一方で新感線(中島かずきさん&いのうえひでのりさん)は宝塚ほど視覚化に重きを置いていないのだなと思います。
個々のキャラクターの魅力、多面性、身体能力を存分に堪能できる演出。
生身の人間がどこまでやれるか。情報自体の視覚化よりもどれだけ観客をあっと言わせることができるか。そこに重きを置いた演出だったなと思います。
脚本としてはセリフの応酬、ひとつのセリフに詰まった情報量(声や目線、表情、言葉に幾重にも意味をもたせていたり、そこから派生するものが引き出しいっぱいに入っている・・など)を浴びて自分なりに摂取しながら展開していく物語を愉しむスタイルなのだなぁと。とても見ている最中に全部は受け取りきれないのだけど、あとからじんわり来る面白さもある。
私にとっては小説を読むのにちかいものがあったなぁと思います。いま思えばですけど。情景や背景、心情などはすべてセリフから読み取るかんじで。

その新感線らしさを存分に楽んだ「阿修羅城の瞳」だったからこそ、宝塚化された際に戸惑ったのだろうと思います。
想像であったものが徹底的に視覚化、具現化されていることに。
(ごちゃ混ぜを愉しんだ引き出しがきれいに整理されていることにも)
出演者の人数と舞台機構を駆使して過去も現在も瞬時に視覚化され、心情は詠唱となり舞踏のような振り付けとなって目の前で展開されていく。
新感線版を記憶にとどめたままだった私はそこに追いついていけなかったのかなと思います。
二度目の観劇でそれこそが宝塚歌劇の魅力だったことに気づきました。
それが好きで宝塚を見ている自分に無自覚だったことにも。

ここにきて、劇団☆新感線と宝塚歌劇のちがいを知ったかんじです。
宝塚歌劇の「阿修羅城の瞳」もとても面白かったです。
そのうえで新感線版は「業だなぁ」と思っていましたが、宝塚版は「愛だなぁ」と思いました。たいへんベタですが。

隠れ家で悪夢に逃げ惑い絶叫するつばき(暁千星さん)にかける出門(礼真琴さん)の声に含まれる愛情の深さにふるえました。

暁さんのつばきは、5月6日に見たときよりもさらに色っぽくなっていました。
中村座での出門との出会いの場面、渡り巫女たちと合流する場面など赤い麻の葉文様の着物姿、初見では見慣れないせいかほんのちょっと違和感があったのですが、27日はまったく違和感などなくてほんとうに粋で気風の良さが感じられる姐さんの風情で素敵だぁと心ときめきました。しかもほどよく色っぽいくていかにも訳アリ。これは惚れる・・。
さまざまな見地から5月初旬より出門とつばきの愛が深まっている気がしました。
宝塚版を「愛だなぁ」と思った所以です。

邪空(極美慎さん)はスケールが大きくなった印象でした。「俺を見ろ」の圧が凄かったです。
出門のいない鬼御門で副長として5年のあいだ、出門への妄執に取りつかれて生き、ついには魂を鬼に渡し自らが鬼に転生することも少しも厭わないまでになっていた邪空を知ったうえで、幕開きで出門と鬼を狩っている彼を見るとせつなさで胸が痛みました。こんなにも楽しげにいきいきと出門とともに刀を振るっていたのにと。
この執着も愛だなぁと思いました。

桜姫(詩ちづるさん)もパワーアップしていてますます大好きでした。
彼女の前向きすぎる行動もまた愛のなせる業ですよね。

愛の権化のような礼さんの出門とますます美しくなった暁さんのつばき。
東京公演ではどう進化していくのか楽しみです。

ショー「エスペラント!」も楽しかったです。
バレエの場面、極彩色のラテン、黒燕尾とイブニングドレス&オペラグローブの場面がとくに好きなのは初見と変わらずでした。

礼さんの黒燕尾のソロダンスの場面は案外長かったんだなぁと思いました。初見でもっと見たいと思ったので短かった印象だったのですが。
ただここから盛り上がるのかなと思ったところで終わってしまうので、もっと見たいと思うのは同じでした。

お芝居のほうでいろんなものをたくさん摂取したあとだったので、ショーも盛りだくさんだとつらかったかもしれず、よいバランスなのかもと思います。

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2025/05/19

阿修羅城でお待ちしております

お誘いいただき5月15日に宝塚大劇場にて星組新人公演「阿修羅城の瞳」を見てきました。
かつてないほどのチケット難事情ゆえに初日が明けても手元にはチケットが1枚もなく、本公演を観劇することなく新人公演を見ることになるかもと思っていたのですが、運よくチケトレで連休最終日のチケットが手に入り、辛うじて新公が初見という事態は免れることができました。
毎度のことながら初見は原作との擦り合わせやさまざまな情報処理で忙しくて物語に身を委ねて楽しむというよりは、なるほど!そういうことか!(原作を)こうしたのか!という驚きと納得と解釈など心より頭で楽しんだかんじでした。
一度そういう見方をしていたおかげで新公は登場人物を中心に観劇することができました。(本公演もそんなふうに観劇したいのですが現時点でチケットがどこにもありません)

新公当日は朝の新幹線に乗りお昼頃に宝塚着。
友人が13時公演を見ている間に数年ぶりの宝塚の殿堂へ。受付で友の会カードを提示しようとしたらアプリのクーポンを求められて、時代が変わっていることに驚いてみたり。
時間がたっぷりあるのでじっくりと見学していたら、13時公演をご観劇ではありませんか?と親切にお声をかけていただいたり。
久々で一つ一つが新鮮で楽しかったです。
それからリニューアルしたカフェテリア「フルール」へ。こちらもあれこれ物珍しく礼真琴さんの愛称をもじった公演デザート「黒ごまこっつ餡」とドリンクバーでブルーキュラソーシロップとカルピスソーダを合わせて「AZUL風♡」とひとり悦に入りながら空色のドリンクにしてみました。
13時公演の終演を待ち友人たちと合流して腹拵えを済ませて、いざ新公へ。

終演後の感想は凄いものを見せていただいたなーでした。
皆さんお上手でこれ新人公演?となんども思いました。本公演の半額のチケット代が申し訳ない気持ちさえしました。

病葉出門役の稀惺かずとさんは口跡明瞭で早口の江戸言葉がかっこいい。せりふが聞き取りやすくて惚れ惚れ。ずっと聞いていたいと思うような声質と口跡で役者として素晴らしい宝物をお持ちだなぁと思いました。
闇のつばき役の詩ちづるさん、さいしょのうちは渡り巫女の中に入ってしまうと埋もれちゃうなぁと思ったりもしましたが、阿修羅に転生してからの気迫が凄くて見入ってしまいました。銀橋での歌唱が素晴らしかったです。

安倍邪空役の大希颯さんもせりふ回しがお上手で語られる出門への執着や動機が自然と納得がいくかんじ。恵まれた体型ゆえでもありますがすべてが大きいと感じさせる邪空でした。銀橋で歌い上げたナンバーは声量もあって声帯に天然のエフェクトをかけているのかと思う声でロックだぁと思いました。
美惨役の鳳花るりなさん、本公演を観てこの美惨という役は小桜ほのかさんだからできる役じゃないのかなぁと思ったほど娘役を超えた役作りだったのですが、鳳花さん見事にやりきったなぁと思いました。はっきりとした目鼻立ちにヴィランメイクが映えてとても迫力がありました。
阿餓羅と吽餓羅を演じた瞳きらりさん、詩花すずさんもお上手で新公じゃないみたいと思いました。

彩紋ねおさんの鶴屋南北は憎めないかんじが好きでした。戯作者として佳い本を書きたい欲が強すぎて思考がイッてるけど一座の皆からはそれなりに愛されてるんだなと思って見ていました。
青風希央さんの俵蔵さんはきっといそうな一座の綺麗な女方でした。たしかに大きいけど。過剰にコミカルに演じていないところは好感を持ちました。

凰陽さや華さんの安倍晴明も明るい人柄で、あの桜姫のお父さんであることがすごく納得でした。娘とタッグを組むところも楽しそうだなと思いました。死んでいないことを突っ込むしぐさとかも面白かったです。桜姫役の乙華菜乃さんとは同期なのかな。
乙華菜乃さんの桜姫は驚き&大好きでした。さいしょの登場で出門にねちっとウィンクをしたところから、あれ?と思いましたが、登場のたびに笑いをさらって目が離せなくなりました。あえて本役の詩さんとはちがうアプローチをしているようなかなり振り切った桜姫で、間のよさ舞台度胸のよさで笑いをとっていくのが天晴れで思わず拍手をしていました。途中からは登場のたびに来た来たーとなり、しだいに来るぞ来るぞーと登場を待ちかねるようになっていました笑。
今回でしっかり認識できたのでこれからの乙華さんにも注目していきたいなと思いました。

賀茂白丞と賀茂南雀役の朝稀さいらさんと桃李拍さんは、本役の朝水りょうさんと蒼舞咲歩さんが笑いをさそっていた公家っぽいおっとりとした話し方にさらに声の高低で個性をつけていて面白かったです。
(声が高い方が朝稀さんで低い方が桃李さんで合っているかな)
桜姫とその一味?は登場のたびに心うかれました。
安倍毘沙門と安倍大黒はともにイケメンで眼福でした。
毘沙門の樹澄せいやさんは「記憶~」の新公の井坂さんですね。
大黒役はこのイケメンは誰だろう?とずっと思っていて後で確認したのですが、馳琉輝さんなんですね。初舞台ロケットで気になっていた人だぁ~と思いました。これから注目していきたいです。

渡り巫女は本公演よりもアイドルっぽい印象で既視感があるなぁと思ったのですが、「記憶にございません!」の田原坂46でした笑。新公らしくてよかったと思います。
鬼御門三界衆はとても元気はつらつで新公らしくて好きだなぁと思いました。
グループ芝居に良い意味で新公らしいフレッシュさや一緒に作り上げている雰囲気が感じられたところも良い新公だったなぁという印象になっています。

久々に新公を見たのですが(コロナ禍以降で初かなぁ)、そうできる作品だというのもあると思うのですが、本公演とはちがう自分たちの舞台を作り上げた印象が強い新人公演だったなと思います。
星組新人公演のメンバーの底力と意識の高さを感じることができた素晴らしい公演でした。
これを見ることができたことに感謝です。記憶に残る素晴らしい体験でした。

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2025/05/12

近頃都に流行るもの

5月6日に宝塚大劇場にて星組公演「阿修羅城の瞳」「エスペラント!」を見てきました。

超絶人気のトップスター礼真琴さんの退団公演であり、また劇団☆新感線の人気作品「阿修羅城の瞳」の宝塚歌劇化ということも重なって、演目発表当時からチケット入手困難な公演となることはわかっていました。
わかってはいましたが、実際想像以上にとんでもないチケ難公演で、取次ぎも抽選もことごとく落選し初日が明けても1枚もチケットが確保できていない状態でした。そんななかGW中にチケトレでどうにか1枚入手できたので、GW最終日の人混みをかき分けて新幹線で日帰り観劇してきました。
座った席はほどよく見やすい列の1階センターで、もうこれっきり生で見ることは適わないかもしれないと思い、悔いが残らないようにと気を張って礼さんの姿を追いました。

「阿修羅城の瞳」は、3時間の新感線版を1時間半にまとめているので、なるほどここを端折るのかーそうだよねーここは削るよねーと納得しつつも、私はその端折られた部分が好きだったんだなーと思いました。
あえてお間抜けなカッコ悪いところを見せて油断させておいてのカッコ良さとか、劇団☆新感線の登場人物あるあるの振り幅を愉しんでいたんだなーと。
星組版はストーリー上重要ではなさそうな部分(お遊び的なところや芝居の元ネタを知っていると面白いところなど)を削って綺麗に収められているのだけど物足りなくもあったのは、その削った部分を私は愉しんで見ていたからかもしれないなと思いました。
とは言ってもその手のカッコ悪さとか笑いを私は宝塚に求めてはいないしなーとも思いました。

じっさいの出門とは真逆なのだけども「四谷怪談」の伊右衛門を見たくなるような、女性を口説かせたら凄そうと思える幸四郎(染五郎)さんの出門のこなれ感も新感線版の魅力でした。
が、礼さんにそれを求めるかというとそれも違って。じゃあ見たい礼さんって?などと自問したりも。

礼真琴さんの出門はひたすらカッコ良かったです。つばきに軽口を叩きながらも内に思いがあるところが見えたりもして。新感線版の純情(出門曰く純粋な欲望)とは異なる純情だなぁと。
初見だとどうしても記憶している新感線版との擦り合わせをしてしまって(これは私のさがゆえ)、礼さんならではの良さをしかと感じ取れなかった気がしてなりません(やはり1回では足りない! 2回目からなのです楽しくなってくるのは・・いつも・・)。

暁千星さんのつばきは、思っていた以上に色っぽくて驚きでした。
しなやかに踊って跳躍して拗ねている表情がとても可愛い・・と思っていた月組時代の印象から、拗らせた昏い役、本心を読ませないメタルフレームのメガネハンサムの役とだんだん大人っぽい役が似合ってきてドキドキしていましたが、まさかの女役でしかも色香を含んで礼さんにしな垂れたり、デュエットダンスのように大階段で礼さんと対峙してせめぎ合う役を演じることになるとは・・です。
新感線版の性的なものを感じさせるニュアンスは極力封印してギリギリ宝塚らしさを保っているところも難易度高いのではないかと思いました。

劇団☆新感線から男のロマンと幻想とノリを削いだらこうなるんだな。
というのとそこに如何にして演者が宝塚らしい潔さと美を加えるかが見ものの作品かなぁと思いました。
それを味わうのためには1回の観劇では全然足りないってことも切実に思いました。(というももの現時点でムラは0・東京公演の友の会3次で当選したチケット1枚しか確保できていない哀しみ・・)

新感線版でも好きだった桜姫ですが、詩ちづるさんの桜姫も可愛くてぶっ飛び方は新感線版には及びませんが、そこも宝塚にしてはかなりのぶっ飛び方で好きでした。
私が宝塚で見たいものを頑張っていたのが桜姫かなぁと思いました。(華やかで明るい照明をいっぱい浴びている感じ)
それから鬼が宝塚ならではのコンビネーションで見ものだなぁと思いました。(ぱっと見で誰だかわかったのは鳳花るりなさんだけだったのですが・・)

美稀千種さんの鶴屋南北、ひろ香祐さんの安倍晴明はエピソードや設定がほとんど削られてしまって、仕方がないとはいえ残念に思いました。(好きだったんですそこが・・)
いろいろ削られた結果、極美慎さん演じる邪空の動機や所業がぼやけてしまってスケールが小さくなったのも残念でした。宝塚では描きにくいところだったのでしょうけど、髪型と立ち廻り以外印象が薄くて。邪空のスケールが小さくなった分、毘沙門(天飛華音さん)と大黒(稀惺かずとさん)も割を食ってしまってもったいないなぁという印象でした。
雷王(碧海さりおさん)鳴王(夕陽真輝さん)震王(大希颯さん)の鬼御門三界衆はコミカルで可愛らしくてとても印象に残っています。

美惨、阿餓羅、吽餓羅を演じた小桜ほのかさん、白妙なつさん、紫りらさんは娘役としての高いスキルを備えた方々だけにもったいないというか惜しいというか。ビジュアルや衣装を宝塚化してはダメだったのかなぁと思ってしまいました。
鬼のビジュアルにしてもですが、やはり宝塚には見目好さを求めたくなります。
渡り巫女に華やかな場面をつくるとか、せっかく宝塚で見るのだから原作になくても絢爛豪華な場面はほしいなぁと。
そういうことにチケット代を払いたいなぁと思いました。

1回きりの観劇だったので深い部分まで味わうには至らず、自分勝手に摂取しようと思っていたものとの齟齬を解消しきれないままに終わっちゃったかなと思います。
もし2回めがあれば、ここからどう印象が変わったかを書き残してみたいなぁと。切に思っています。(新人公演は見られそうなのでそこで何か自分の中で見えるものが変わるかも?)

「エスペラント!」は好みのタイプのショーでした。
大勢で色とりどりのラテンっぽいダンスの場面、暁さん中心のバレエ的な場面、黒燕尾とドレス姿のボールルームダンスのような正統派なレビューの場面は音楽も好みで心が華やぎました。
海の場面はストーリーがあるんだろうなぁとは思いましたが、そこはあまり考えなくても華やかで楽しめました。
「阿修羅城~」で出ずっぱりだったせいか、退団公演のショーにしては礼さん出ずっぱりという印象がなかったのは意外だったなと思います。これまで見てきたショーがとにかく礼さんと相手役の舞空瞳さんが踊りまくっていた印象があるからでしょうか。
礼さんの黒燕尾のソロダンスの場面はもっと見ていたかったです。もっとと思っているうちに終わってしまうのがとても寂しかったです。
このショーもリピートすればするほど見どころがありそうで、1回じゃ足りないなぁと切に思いました。

お芝居ショーともに「もっと見たい!」というのがいちばんの感想で切実な願いかもしれません。

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2025/02/18

今は漕ぎ出でな

2月3日に宝塚バウホールにて星組公演「にぎたつの海に月出づ」をマチソワしてきました。
平松結有先生のデビュー作でした。

星組の美しい3番手極美慎さんの2度目のバウホール主演作、そしてヒロインは宝皇女(皇極=斉明天皇)と知りこれはぜひ見たいと思いました。
宝皇女はその出自から即位、そして死に至るまで(なんならその子や孫に至るまで)謎の多い女性で、かつて私はその周辺の記紀の記述をなんどもなんども読み返してああでもないこうでもないと考えていました。

物語は齢60代の斉明帝(詩ちづるさん)が百済に救援をおくる決意をするところからはじまりました。
どうして大国唐を敵に回してまでも百済を救援しようとしたのか、その理由がこれからの物語となるようです。

百済と倭国の連合軍は白村江にて大敗。
そこから場面は数十年さかのぼり極美さん演じる百済の留学生智積が若き頃の斉明帝=宝皇女(寶皇女)と宮中で遭遇。Boy Meets Girl的に物語が動き始めました。
思いつめた様子の宝、これから高貴な人との謁見の場に向かう智積、これからどうなっていくのだろうと思っていたところ・・。
「推古天皇のおなーりー」に思わずずっこけました。そ、そうかこれはこういうわかりやすい世界観でいくのだな、と気を取り直して。(生前なのに諡号で呼ばれるのね、あいわかりました)

宝の最初の夫である高向王(颯香凜さん)が引き立てられて出てきたときは、よもや宝塚で彼の名前を聴くことがあろうとはと感慨一入。
彼は用明天皇の孫で両親については記紀にも記載がない人だけれど、名(諱)が示す通り渡来系の高向氏と関係があると思われます。宝とのあいだに生まれた子の名前も「漢皇子(あやのみこ)」で同じく渡来系の東漢氏と関係が深かそうです。
宝自身も、母方から見ると蘇我系の血を引く用明天皇と推古天皇の同母弟である桜井皇子の孫にあたるのでこの婚姻は妥当なものだったのだろうと思います。
高向王とは死別なのか離別なのかは記紀にも書かれていませんが、そののち舒明天皇の皇后に立ち、さらには自らが天皇になることになろうとは、若い宝皇女は思いもしていなかったのではないかなぁと思います。
舒明天皇(田村皇子)自身も、血筋からは蘇我とは無縁のように思われますが、蘇我馬子の娘や推古帝の皇女を娶っていたことで時の趨勢が彼の味方についたのではないでしょうか。
最初の婚姻が短く終わった宝皇女や年齢的に不釣り合いではないかと思われる推古帝の第3皇女を娶っていたこと、采女が生んだ子を皇子として養育していることなど、そういう一つ一つが女性である推古帝には信頼に足ると思われていたのかもしれません。訳がありそうな皇女を任せられるくらいには。
そんな舒明天皇ですが体が丈夫ではなかったのか、たんに夫婦で温泉好きだったのか、たびたび有馬や道後の湯に行幸しています。宝皇女は天皇になってからも白浜の湯を気に入っていたみたいなので、皇后につきあってあげていたのかな? そのせいかはわかりませんが、そんな天皇のもとで気持ちが緩んだのか群卿らは出仕を怠けていたと書紀に書かれています。政は専ら蘇我大臣まかせになっていたようです。

さてしかしそういうことはここでは置いておいて、舞台では宝の最初の夫である高向王は女性(妻である宝)に暴力をふるった咎で盟神探湯(くかたち)にかけられようとしています。熱湯に手を入れて火傷をしなければ潔白という裁判です。
ん?妻に暴力をふるったら罪に問われる世界観なんだ。歴史物としては新鮮だなぁ。盟神探湯ってこの時代でもやっていたのかな。

熱湯に手を浸けられ火傷を負った高向王を見て、智積が大王の玉座に駆けのぼり薬箱を掠め取って高向王の手当てをしようとする。智積の師である観勒僧正(悠真倫さん)の機転によって咎を免れるけれど、推古天皇めちゃくちゃ寛大じゃない? 歴史物としてびっくりな展開にちょっと心がついていかない・・。これはファンタジイとして見たほうがいいのかな。

自分の歴史観との折り合いがつかず初見の観劇はかなり苦戦しました。
渡来僧観勒僧正が開いた学堂がお習字教室だったり(暦とか政とかを学ぶのではないんだ)皇族と農民の子が一緒に学んでいたり・・やっぱり歴史物語というよりもファンタジイ寄りで見た方がいいのね。

ところで智積という名前は平松先生の創作かと思いきや、皇極紀にその名前が2度出てきます。「大佐平」という臣民として最高位の身分の人で、最初は舒明帝崩御の年に「大佐平智積が死にました」という百済弔使の従者の言葉でいわゆる「ナレ死」。
ところが翌年皇極帝即位の年には百済の使者として宮廷で饗応されたという記述があり、死んだんじゃないんかーい!ってかんじです。
平松先生はそういう謎なところから名前を採用したのかなぁ。

設定に関してはファンタジイだと割り切って見るのがいいとはわかったのですが、心を通わせ愛し合い未婚で生んだ子の育児を全面的に担ってくれていたイクメンのジェントルラバー智積くんのことを、かんたんに讒言を信じて拒絶してしまう寶に、えっ?と思いました。彼を信じてかばってあげないの?
そしてもしやとは思っていたけれど、やっぱりその子は中大兄か。
田村皇子に対して自分との結婚の条件として未婚で生んだほかの男性の子を田村皇子の実子として育てるよう要求する寶にも引いたけれど、自分の血を引かない子を皇子(しかも大兄)として育てることを承諾する田村皇子にも、いくら恋に目が眩んだとはいえ皇統の自覚はないん?と思いました。(いちおう中大兄皇子=天智天皇の血統が現在までつづいていることになっているんだけど・・いいのかなそれで・・まぁ記紀自体が誰かに都合よく書かれたものだものなぁ・・)

瀬戸内海の熟田津(愛媛県松山市)から小舟で朝鮮半島の百済にたどり着くことなど万が一にもないでしょう。蘇我氏の謀によってそれを強いられる智積。この船出は死にゆくとおなじこと。
ここまで自分や自分の家族に誠意を尽くしてくれる智積の命乞いを、なぜ宝はもっと中大兄を我が子として育てることを田村皇子に要求したとおなじ圧をもってしようとしないのだろう。物語全編をとおしてちょいちょい私は宝の気持ちがわからなくなりました。この決定を覆すために奔走することもなく、どうしてその死出をかくもやすやすと受け容れてしまえるんだろう宝は。
自分のためにこれから死に向かう智積に対して「(百済で)待っていてくれますか」とか、それから20年後にあたりまえだけど彼は百済に帰国することはなかったと聞いて「まだ迷っているのですね」とか、詩的に表現されてもそれはないんじゃない?と。
「帰る国(百済)がなくなっては困るでしょうから」というセンチメンタルで百済救援を決意することも。自分がために独り大海に漂流し果ててしまった人の死でうまいこと言わないでと。私はずっと宝に腹を立てていたように思います。あまりにも自分本位に思えて。
智積は納得したうえだったのかもしれないけれど、それは納得せざるをえなく宝がしたからですよね。
私的な感傷で国運を賭けた戦をするのも苦しかった・・。このあと多くの人々が亡くなったり捕虜になったり、国防のために家族から引き離され遠く壱岐対馬筑紫の防人となり故郷に帰れず悲しい歌を詠んだりしているのだけどと。

というかんじで呆然としたまま初見は終わってしまったのですが、2回目の観劇ではそういうことは一切考えないようにしてイクメン智積くんの美しさをひたすらに堪能しました。その美しさに釣り合う実力を身につけた極美さんに惚れ惚れとしながら。宝皇女を愛しそうにみつめる立ち姿頭のてっぺんからつま先まではいにしえの少女漫画もかくやと。美しく舞台に立つことの尊さをしみじみと感じました。
若くて無分別ですらある宝皇女と老年の域にいる斉明天皇を演じ分ける詩ちづるさんの確かな実力。貴女のせいじゃんと思いつつも、かつて智積が乗った小舟と百済に向かう倭国水軍の船の大きさの違いを嘆く彼女に感情を揺さぶられました。

理性的な青年皇族だった田村皇子が内面の阿修羅を表出し嫉妬の炎を燃やす姿、そして良心の呵責にやつれた舒明天皇としての姿を演じて見せた稀惺かずとさんも目を瞠るものがありましたし、その舒明天皇や主役である智積を追い詰めていく 蘇我入鹿役の大希颯さんも悪役としての気迫が素晴らしかったです。(稀惺さんと大希さんとで「あかねさす紫の花」を見てみていなぁと思いました)

威厳と美しさに溢れ、宝皇女にすすむべき未来を示唆する推古天皇役の瑠璃花夏さんも重要な役どころを絶妙に演じているなぁと感嘆の思いでした。高貴な女性としての身のこなしも素敵だなぁと思いました。
輝咲玲央さん演じる蘇我蝦夷はもう、見るからに腹の黒い悪しき大臣の役作りで、この人が表に出てきたら誰も太刀打ちできないんじゃない?と思いました。彼のひと言により策略を巡らした入鹿によって舒明帝も智積もまんまとやられてしまって・・陰で物語を動かす人でした。

智積の親友で同じく百済からの留学生の覚従役の碧海さりおさんは頼もしかったです。舒明帝の遺勅を奪うために入鹿が放った追手に襲われる智積と宝皇女たちのまえに颯爽と登場して敵を斬り払う姿は惚れ惚れしました。
親友である智積をあのようなかたちで失わねばならなかった彼の心中は、その遣る瀬無さを思うと胸が痛みます。
凰陽さや華さん演じる宝皇女の弟軽皇子は癒しでした。その存在に和まされついつい目で追っていました。

鳳花るりなさん演じる小鈴は演じるのが難しいだろうなと思いました。智積と宝が袂を分かつきっかけをつくる大事な役なのだけれども設定があまりにファンタジイで。
着ているものにしても母親が仏教に帰依することにしても国で最高峰の支配階級の若者たちが集い学ぶ場に被支配民の子が混じる設定も、飛鳥時代の「百姓」としての解像度が粗いわりに、物語の進行上担っている役割が大きくて、プロットからあまり肉付けがされていない感じだなぁと思いました。でも作者の社会的な関心が投影されているようなところもあって、肉付けし出すとと収まりきらなくなりそうで、それを削る作業がまた膨大になりそうな役でもあるなぁと思いました。(そこが愉しさでもあるのでしょうけど)

小鈴が智積の日記を持ち出す動機として、「宝への嫉妬心を利用された」と描けば典型的でわかりやすくドラマになりそうではあるのだけれども、そうしなかったのが平松先生らしさなのかなぁと思いました。
そうであれば、そこに期待したいなぁと。私の世代では持ちえない新しい感覚の平松先生がこれから描かれていく物語のなかの別の「小鈴」をたのしみにしたいなぁと思います。
なによりもこのデビュー作で主役を魅力的に描ける才をお持ちだとわかりましたので(私が宝塚でいちばん望むことです)今後の作品も大いに楽しみです。
私は書紀にならって智積が宝皇女や皇子たちと愉快に宴会をしている夢を見ていたいと思います。素敵だったフィナーレを思い浮かべて。

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2025/02/05

This is me(唯一無二)/礼真琴 日本武道館コンサート

1月19日に日本武道館にて礼真琴コンサート「ANTHEM-アンセム-」を見てきました。

歌もダンスも破格の比類のなきタカラジェンヌ礼真琴さん、そのコンサートならばきっと凄い体験ができるだろうなと、これはぜひ行ってみたいと思うものの、日本武道館ってどうやって行けばいいの?会場はどんな感じ?といつも通う劇場とはちがうアウェイ感がハードルでした。

行きたい気持ちと不安で葛藤していたところ、かつて同じジェンヌさんを応援していた都内在住の知人がつい先ごろ礼真琴さんに激落ちしたと聞いて、とんとん拍子に一緒に行くことになり憂いなく武道館までたどり着けました。(知人は18日の初日も見ていたので中の雰囲気や内部の気温のことなども細かに教えてもらえてほんとうに助かりました! ちなみに彼女は全通でした)

コンサートは想像以上に素晴らしかったです。
不安の1つには、私は礼さんのCDも聞いていないし近年の流行りの歌などまったく知らないのだけど、その状態で楽しめるのかな?というのもあったのですが、まったくの杞憂に終わりました。じっさいコンサート前半で使用された宝塚以外の楽曲は知らない曲ばかりでしたが、礼さんと星組メンバーのグルーヴィーなパフォーマンスですべての楽曲を愉しんでいました。

とりわけ印象に残っているのは、副組長さん(白妙なつさん)の可愛さ。小桜ほのかさんのいつもとはちがうアイドルのような歌唱。ほんとうにタカラジェンヌってなんにだってなれちゃうんだなぁと思いながら。
礼さんと暁千星さんが向かい合い手を握り合って「ぼくたちは同じ星座だと信じてるから」と歌うナンバーはとてもエモーショナルで幸せな気持ちになりました。
トロッコにのってサインボールを投げまくりながら愉しそうに歌う礼さんも印象的でした。力いっぱい投げてもまったく声がブレないのは凄いなぁと思ったり。

日替わりのトークコーナーでは、その日選ばれしメンバー4人が「ANTHEM(応援歌)」に因んで、礼さんに背中を押されたエピソードを礼さんを前に礼さんのものまねをしながら披露するというもので、エピソードを披露するメンバーが礼さん役で、礼さんがそのエピソードを語る本人役になってて、そのやりとりも含めてとても面白かったです。(小桜ほのかさんだけは礼さんのものまねはされなかったのですが、それもまた小桜さんらしくて笑)
エピソード自体はとても真面目で「いい話」な内容なんですが、皆さんエンターテイナーだなぁと笑。
皆さんそれぞれにとても礼さんリスペクトなのがよくわかりましたが、とりわけ鳳真斗愛さんが熱狂的に礼さんフリークなのがじゅうぶんすぎるほどつたわりました笑。

後半の宝塚ナンバーのターンのさいしょは、星組のメンバーたちが1人ひとり、礼さんがかつて演じた役の扮装でその役のナンバーを歌いだし途中から礼さんと向かい合いみつめあってともに歌い、そして礼さんがひとりで歌い聴かせるという構成でとても胸が熱くなりました。下級生1人ひとりの礼さんへのリスペクトをひしひしと感じとれました。これは宝物になる経験だなぁと。
初々しい人もいれば、柳生十兵衛に扮した天飛華音さんなどは思わず「巧っ」と思うのですが、礼さんが歌いだすとやっぱり圧巻レベルで、しみじみと礼さんの凄さを感じる場面でもありました。

10数名の礼さんがかつて演じた役と絡んだ最後には皆で「BIG FISH」のナンバーを歌い上げて、そこからがらりと舞台が暗転。
礼さんが1人で「VIOLETOPIA」の孤独を歌い踊る場面は圧巻でした。暗転からライトが当たってそこには2階建てのセットに礼さんの演じた役に扮した星組メンバーたち。
さいごにすべてが愛おしいと歌う礼さん。
「VIOLETOPIA」という劇場の光と影を幻想的に描いたショーの終盤のソロダンスで使用されたナンバーゆえに、礼さんが演じた役の扮装をした星組メンバーを背景にして礼さんがその歌詞を歌う光景に鳥肌がたちました。
役たちと星組生たちと宝塚への礼さんの思いが重なって見えて・・。

つづく「ヴィランズ・メドレー」ともいえる場面も礼さんの悪い魅力炸裂で見ている私は魂がどこかに抜けて出でてました。
2~3曲で終わるのではなくて、「BIG FISH」の魔女の歌(都 優奈さん)や「ディミトリ」で礼さんと敵対したアヴァク(暁千星さん)のソロも含めて6曲ほどをとことん歌舞と舞台美術を駆使して見せる演出が素晴らしかったです。
はじまりの「バラ色の人生」(オーム・シャンティ・オーム)は咥え煙草で斜に構え酷薄な流し目の礼さんが最高にクールでした。
そして暁さんのレッドにティリアンとして対峙する「宿命」(エル・アルコン-鷹-)ではレッドを気魄で凌駕していくさまが圧巻でした。
「私から憎しいを奪うな」(モンテ・クリスト伯)はもう、うひょう~で。闇落ちした礼さんと礼さんをとりまく邪悪な雰囲気の星組メンバーズ。とりわけ礼さんにすがりつく天飛華音さんはいったい・・?! ほんとうにもうタカラジェンヌって何にでもなれちゃうんだなぁと思いました。
ここまで悪の華を見せながらも嫌悪感を抱かせないのも大優勝だなぁと思いました。
「マダム・ギロチン」(THE SCARLET PIMPERNEL)の振り付けはゾクゾク。とてもショーらしい振り付けで、コンサートならではの場面だなぁと思いました。

そしてそして礼真琴さんのトート。こんな「最後のダンス」を聴ける日がこようとは・・滂沱。
個人的に歌いあげ系のミュージカルナンバーが苦手なもので、こういう抜け感のある「最後のダンス」は大好物でした。
この体験から「死ぬまでに礼さんの『エリザベート』ガラ・コンサートを見たい(聴きたい)!」という夢ができました。(どうかどうかよろしくお願いします!)

つづく「栄光の日々」(THE SCARLET PIMPERNEL)のあとはまた宝塚以外のナンバーでしたが、とても元気をもらえる曲ばかりでした。
その中で「soul」という曲が礼さんが作詞したものだそう。

アンコールの1曲目は「星を継ぐ者」(龍星)。礼さんにとってとてもとても大切な曲を満を持して歌ってくれました。この曲を歌える喜びのような、いまだからこその礼さんの言葉にできない感情をかんじることができた気が勝手にしました。
そして「グレイテスト・ショーマン」の「This Is Me」。ラストにこの曲なのがまたなんとも言えない気持ちで聴きました。(これを礼さんが歌っているんだ・・いろんなことが思われて・・ことにこの数年の・・これは泣く・・)

こんな体験をこれから何回できるだろうと思うくらいの素晴らしい演出や振付や構成。そしてそれにじゅうぶんに応えた礼さんと星組生に心からの拍手を贈って高揚感に酔いながら武道館を後にしました。
さいしょはどうなるかと思った日帰り遠征でしたが、本当に実行してよかったと心から思いました。

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2024/12/09

この道が未来へと続いているから

11月20日に東京宝塚劇場にて星組公演「記憶にございません!」「Tiara Azul ーDestinoー」を見てきました。
9月22日の宝塚大劇場の千秋楽以来の観劇でした。
(その後12月1日に地元映画館にて東京宝塚劇場公演千秋楽のライブビューイングを見たのでその感想も混じります)

「記憶にございません」は開幕早々の黒田総理役の礼真琴さんのこれでもかという眼つきの悪い様子にうけました。ムラ(宝塚大劇場)ではここまで悪くなかったのにと思って。
記憶を失くして以降の彼の態度が真逆になるのがとても面白かったです。逆にこんなに誠実で人のよさそうな人がどうしてあんなに悪い人になっていたの??とそちらのストーリーが気になりました笑。

官僚の皆さんもいっそう誇張された芝居になっていてそれぞれのキャラクターを生きているかんじが面白かったです。いかにも星組だなぁと思いました。
演じている人びとが頑張っているだけに、ムラの観劇時から引っ掛かっている脚本上のあれこれが惜しいなぁと思わずにいられませんでした。
海難事故の犠牲者を「海の藻屑」というのはモズクの言い間違い以前に大臣の発言としてデリカシーに欠ける気がして笑えませんでした。

熊本のご当地アイドルが登場する意味も、彼女たちが投票を呼びかける仕事を請けて活動しているところまでは理解するとしても、特定の議員や政党の街頭演説に現れるのは変だなぁと思いました。
生活保護受給についての表現、特定の人物(国)にあてこすっているようなセリフやミソジニー臭いセリフなど一方におもねり訳知りに他方を踏みつけるセリフがどうにも苦手でした。

柳先生との場面も初歩から政治を学びなおしたいという黒田総理の真面目な一面が描写できればそれで良いと思うのだけど、論点ずらしなことをよいことを言っている風情で言い出す柳先生とそれに同調する秘書たちにモヤりました。
「負けて得とれ」は納得しているわけではないという思いが根底にあるわけで、議論を諦めて受容したフリをするのは不誠実だろうと思いました。もちろん交渉事においては必要な局面はあるとは思いますけども。
納得もしていないし相手の言も軽く考えているからまたすぐに蒸し返す。
いつまで経ってもハラスメントを自覚しないのもこんな人だろうと思いました。

書き出すとあれもこれもになってしまいますが観劇中はなるべくスルーを心がけて楽しみました。
やはり筋の運びや場面の配分はさすがだなぁと思います。
レストランでの家族の会話は何回見ても面白かったです。3人ともセリフの間が絶妙。瞬発力があって快感でいつまでも見ていたいラリーでした。

「Tiara Azul ーDestinoー」も何度見てもワクワクしてどの場面も大好きであっという間のショーでした。
銀橋の板付きチョンパの幕開きからもう大好き。いや幕開きの前に銀橋にタカラジェンヌたちが集まってくるところからそわそわとして好き。
2番手の暁千星さんが出て来て継いでトップスターの礼真琴さんが高い装置の上に登場するそのエスカレーション感がわくわくして好き。
極美慎さんオーナーのブティックの場面がぜんぶ好き。詩ちづるさんのドレス姿が可愛くて好き。ミュージカルみたいなダンスシーンが好き。

山車がどんどん迫ってくるようなカルナバルの場面の一連がぜんぶ好き。客席降りで踊るタカラジェンヌにわくわく。
心を寄せ合う礼さんと舞空瞳さんのシーンから、それを見た暁さんが夜の店でヤケ酒をあおってタンゴの場面になる流れが大好き。店内の人間模様に視線を奪われるかんじも好きでした。
礼さんと舞空さんの裸足のダンスに心がふるえました。舞空さんの表情がせつなくて礼さんの表情がやさしくて。
サリダデルソルの小桜ほのかさんの歌に涙腺をやられて、希望に満ちた星組生の表情、躍動感あるダンスに涙して、退団する4名をしっかりと目に焼き付けることができる場面が大好きでした。

礼さんを中心に娘役さんたちと踊る場面は、礼さんの歌もダンスもグルーヴ感最高でした。もっと尺がほしいくらい。娘役さんたちもかっこよかったです。ドレスの色と照明も印象的な場面でした。
男役群舞は皆キザが過ぎて思わず笑っちゃいました毎回。お芝居の松爺だったとは思えない金髪のイケメンの天希ほまれさんととても気持ちよさそうに踊っている蒼舞咲歩さんに目を奪われていた記憶があります。

デュエットダンスの前に大階段を1人で降りてくる舞空瞳さんは豪華な生地とレースでふくらんだドレスを纏っているにもかかわらずまったく重さを感じさせない足取り・・というか水面をすーっと進む白鳥のようでこのうえなくアメイジングでした。
銀橋で礼さんによってティアラを戴く姿を客席の皆で見守る演出はなんど見ても素敵で、星のティアラを冠したプリンセスとして私たちの記憶に刻まれたのだなぁと思いました。

千秋楽は映画館でライブビューイングを見たのですが、サヨナラショーはやはり構成が素晴らしいなぁと思いました。
トップ娘役の単独サヨナラショーで、相手役のトップスターがここまで絡む構成はなかなかないのではないかと思いました。ファンが見たいのはこういうロマンティックな世界観だと思います。
「めぐり会いは再び~」の『ミッドナイトガールフレンド』からの「ディミトリ」の『運命に結ばれて』の流れは涙を誘われました。
ラストナンバーになる『The Next Generation!』(めぐり会いは再び~)はライブビューイングの画面では星組生とハイタッチしていく舞空さんが映し出されていたけれど、大劇場で見た舞空さんと星組生をあたたかいまなざしで見つめていた礼さんを思い出して、いまこの時も舞空さんと星組生たちを見守っている礼さんが舞台袖にいるのだなと思いながら感極まっていました。
サヨナラショーそして大階段での退団の挨拶、カーテンコールでの言葉、礼さんと並んで緞帳前でしあわせそうに言葉を紡ぐ舞空さんの姿・・さいごのさいごまで心にあたたかいものが満ち満ちた千秋楽でした。

それから・・場面が前後してしまいますが、ショーで極美慎さんが銀橋で未来への決意を歌うナンバーが、いつもは極美さんのこれからの道に思いを馳せながら聴いていたのですが、なぜか千秋楽だけは作演出の竹田先生の心情のように聞こえました。孤独の闇を払い大劇場デビュー作を世に送り出して決意もあらたに自分の道を歩んでいく若い演出家のこれからに心からのエールを送りたく思いました。
タカラジェンヌのみならず演出家の先生にまで親心?になっていくのも、宝塚ファンの通るさだめなのかなと思いつつ・・笑。

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2024/09/30

思いもしなかった

9月22日に宝塚大劇場にて星組公演「記憶にございません!」「Tiara Azul ーDestinoー」の千秋楽を見ることができました。
この公演で退団するトップ娘役舞空瞳さんのサヨナラショーも上演されました。

2階席から見えたもの

2週間ほど前に観劇したときよりお芝居のリアクションがだいぶかわったなという印象でした。ショーの濃度もマシマシ。
そして客席からの拍手や手拍子も熱い。さすが千秋楽!でした。

今回は2階席だったので前回の観劇では見えなかったところが見えたのが面白かったです。
「記憶にございません!」では、礼真琴さん演じる黒田総理と小桜ほのかさん演じる山西議員、舞空瞳さん演じる聡子と暁千星さん演じる井坂の2カップルが1番セリの上下で「連立合併」を歌う場面は、1階前方席からだとセリの上の舞空さんと暁さんが見づらかったのですが、2階からだととてもよく見えて、舞空さんこんなに暁さんに迫っとったんか!と可笑しくてついつい見入ってしまいました。聡子さんの舞空さん、ずいぶんと振り切ったお芝居だなぁとは思っていたのですが、ここまでとは。

この期に及んで水乃ゆり様に

「Tiara Azul」の暁さんがヤケ酒タンゴを踊る場面では、舞台奥に水乃ゆりさんが見えたので、これも1階席からは気づかなかったことなので目で追っていたら、ほかの娘役さんを誘ってテーブルでカッコよい仕草で話し込んでいる?!
こういう酒場の場面の娘役は男性(役)に媚びたりしな垂れかかったりするのが定番かと思っていたらなんと新鮮。ゆり様素敵です。
と思っていたら、やさぐれた暁さんがほかの男役さんと踊っていた詩ちづるさんを無理やりパートナーにして踊る一連の場面で、詩さんが暁さんを振り払って上手のテーブルに向かうと、そこにはテーブルに片手をつき一方の手を腰に当てたカッコイイ水乃ゆり様がいて、その御手が詩さんのお顔をつつんでナチュラルにキス?! 詩さんも合意というか2人アイコンタクトしてた?!(角度的にはっきりとはわかりませんでしたが、そんな雰囲気)もう目が釘付けでした。
ゆり様どういうキャラ設定なの。最後の最後にゆり様怖い・・汗。(千秋楽からのゆり様呼び)
水乃ゆりさんは私の星組観劇の愉しみの1つですが、もうさらにゆり様堕ちです。千秋楽にして・・どうしたらよいの涙。かっこよー。

「サリダ・デル・ソル(いつかまた)」の場面で退団者4人のピックアップの前に、舞空さんがフォーメーションの外側を走って舞台奥に行くとそこには水乃さんがいて、2人で両手を取り合って跳ねていたのも2階からよく見えて、それにもぐっときました。
これから星組の皆に見つめられて、客席の皆に見守られて退団していく者として踊る場面の直前で手を取り合って、そこにはどんな気持ちが交わされているんだろう。大好きな娘役さん2人がここからいなくなってしまうんだという思うさみしさも感じてたいへんエモい気持ちになりました。

礼さんの愛

サヨナラショーはどこをとっても感動だったのですが、「Midnight Girl Friend」(めぐり会いは再びnext generation)からの「運命に結ばれて」(ディミトリ)は涙腺が決壊しました。
そしてそこからの「The Next Generation」(めぐり会いは再び~)で、銀橋から舞台下手で礼さんに背中を押されて星組生全員と笑顔でハイタッチしていく舞空さんを、舞台下手に佇み見守っている礼さんの立ち姿がとてもあたたかくて愛情にあふれていて、その礼さんの姿にも涙してしまいました。
サヨナラショーの主役は舞空さんだから、彼女が絶対的に主役でいられるよう見守る姿が気遣いにあふれて礼さんらしいなぁと思いました。(愛月ひかるさんのサヨナラショーでもそうだったなぁと思いだしたりして・・)

お芝居もショーもとても多幸感が残る公演でしたが、さらにサヨナラショーも愛にあふれていて、幸福感で満たされた千秋楽でした。
宝塚を見たぞというキラキラとした夢見心地をこんなにも味わえたことに、星組生や演出家の先生、スタッフの皆さまにありがとうございますと思いました。

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2024/09/22

夢を語ることは勇気が必要

9月4日と5日に宝塚大劇場にて星組公演「記憶にございません!」「Tiara Azul ーDestinoー」を見てきました。
「Tiara Azul」は演出家竹田悠一郎先生の大劇場デビュー作品です。
そしてトップ娘役の舞空瞳さんがこの公演で退団されます。

「Tiara Azul ーDestinoー」はこれぞ宝塚!なラテンショーでした。
クラシカルでありつつ、いまの宝塚歌劇の照明や舞台機構、いまの星組生をよく知っている人が作った作品だなぁということも感じました。
宝塚への愛と宝塚ファンがうれしいあれこれが散りばめられて見ていてとてもワクワクしました。
いまは次回観劇が待ち遠しい気持ちでいっぱいです。

礼真琴さんの開演アナウンスの後、暗い銀橋にずんずんと迫り来る気配が。こ、これはあれの予感——!と思った瞬間、照明が点灯して一瞬にしてそこにはずらりと居並ぶタカラジェンヌが! なんという壮観。
(わ・目の前に極美さんが・・舞空瞳さんの笑顔がこんな近くに・・)
銀橋に人の気配を感じて、これはあれ(チョンパ)だと予測はできたのですが、実際に目の前に居並ぶタカラジェンヌを見ると驚きと歓喜で脳内が大洪水になりました。

かっこいい男役さんたちと舞空さんに 歓喜していたら、2番手の暁千星さんがステージ中央に娘役さんたちと登場でひゃぁあとなり、さらに高いセットの上には豪華絢爛なトップスター礼真琴さんが登場で高揚感がどんどんエスカレーション。オープニングからガツンと心を掴まれました。

お揃いの「Tiara Azul」とロゴの入ったTシャツで娘役さんたちと男役さんたちがそれぞれペアになって踊る場面は可愛いかったです。
いろんな雰囲気のペアのなかで舞空さんと暁さんのペアは・・あれ?笑。
程度はまちまちですがそれぞれ恋人らしくなっていくカップルのなか、誰よりも自信満々な暁さんは誰よりも長く手足を伸ばして舞空さんにアプローチ。彼女の心はもう自分のものとキラッキラに瞳を輝かせて愛嬌抜群。(小一時間前まで銀縁眼鏡でクールに構えていた人とおなじ人です笑 そしてまた憂いを纏ったやさぐれタンゴを踊る人です・・)
そんな暁さんの強い押しに釈然としない表情七変化の舞空さんがとても可愛いかったなぁ。ノリきれていない風なのに暁さんとめちゃ踊っていたのも逆にすごいなと思いました。
(それぞれに通しの役名があるのですが逆に書いていて混乱してしまうので芸名で書いています)

最悪の出会いから礼真琴さんと舞空さんが飛び込んだ色鮮やかな洋装店の場面も大好きでした。娘役さんたちがとても可愛い! カラフルな衣装を纏ったディスプレイのマネキンに扮した娘役さんもそれにちょっかいをかけている店員の小桜ほのかさん詩ちづるさんも。(こんなヴィヴィッドカラーの組み合わせを着こなせる人たちって・・)
ショップオーナーかマネジャーかのこれまたネオンカラーにネオンカラーを重ねたようなド派手な極美慎さんも見ものでした。(これでサマになっちゃうのって・・)
礼さん舞空さんにチョイスされたジャケットとドレスがさらに・・呆然でした。(・・これで街にいく設定よね・・?) どんな派手な衣装を着ても素敵なタカラジェンヌという存在の尊さに手を合わせたくなりました。

いよいよ始まったカルナバルは舞台全体が煌めき、動く舞台セットとパフォーマーのパッショナブルなダンスが次々に繰り出すさまは、順々に巡ってくるカルナバルの山車を見物しているようで興奮を覚えました。見どころが満載すぎて目と心で追うのが大変。
小桜ほのかさんと瑠璃花夏さんに挟まれて両手に花の碧海さりおさんが羨ましい!(しかもマチソワで最後に手を取る相手が違ったような・・・?)
男役さんたちに囲まれて水乃ゆりさんが踊る『スーパーゆり様タイム』はさながら極楽浄土の迦陵頻伽のような有難さでした。
カルナバルといえば!の娘役さんたちのコスチューム(タカラヅカナイズしているのでノープロブレム)踊りまくるトップコンビに暁さん、これぞラテンショーの中詰の盛り上がり!(客席降りもありました! 一斉にじゃなくてこれもチームごと?みたいな)
そして盛り上がりのままにロケットに突入。
中詰までがあっという間で、まだまだ先があるのにこんなに盛り上がって大丈夫かな?と心配してしまうほどでした。

こんなに盛り上がってどうなってしまうの?と思っていたら、あら?
場面はトップコンビのロマンティックな雰囲気に。カルナバルの日に出会って、カルナバルで盛り上がって、そこからこんなに可愛らしくなるのが新鮮。
若い清い爽やか。
でもそれを見て心穏やかではない暁さん。今日フラれたばかりなのに、自分をふった相手は今日出会ったばかりの人とフォーリンラブなんだもん。
やさぐれてやけ酒を呷る姿が色っぽい。
他人のパートナーにちょっかいを出したり、他人が飲んでいる酒瓶を横取りしたり。とっても態度が悪いのに、極美さんたちは怒ったりしなくてしょうがないなーって感じで。
そうそう男の人たちってフラれて荒む同性には優しいよねとやけにリアルを感じて微笑ましかったです。これはときめくブラザーフッド。
暁さん極美さんのまわりで小芝居する人たちも面白くて目が離せない。そしてやっぱり踊る暁さんはソリッドでかっこいい。
良い場面だなぁと思いました。さっきまであんなにド派手なお祭りだったのにこの落差がいいなぁ。

そんな暁さんの心も知らず礼さんと舞空さんは2人だけの世界。
このペアで踊るダンスが素晴らしくて隅々までうっとりしました。それまでとは打って変わって飾りのないシンプルな衣装と裸足。広い舞台の上を2人だけの息遣いで埋めていくような・・本当に魂が踊っているようでした。
「Ray」のカミソリデュエットダンスで度肝を抜かれて、凄いトップコンビが誕生したなぁと感動したことなども思い出されて、なんだか泣きそうになりました。

そこから小桜さんの歌からはじまり星組の仲間に囲まれた暁さんがセンターで歌い踊る場面でとうとう涙腺が決壊。なぜ涙が出るのかもわからないのだけど。不意に清らかなものに触れてしまったそんな感じでしょうか。
礼さん舞空さんも加わって、この公演で退団する4人がセンターで踊りそれを星組生が見守るように踊り・・。よくある場面かもしれませんが、けれどそこには普遍的に心を揺さぶるものが流れていました。それを探し当て新たに息を吹きかけるのも宝塚らしさなのではないかと思います。
歌詞、曲、ダンス、そしてパフォーマーのフィジカルと心と、すべてが相まってなんとも言えない空間ができていました。

皆の心が一つになり清々しく去った後、1人で銀橋で歌うのは極美さん。明日への固い決意を心に秘めた頼もしさが胸に響きました。
そして鮮やかなピンクのドレスを身に纏った娘役さんと礼さんのダンス場面。ここが大好きでした! ネオンカラーの照明が降り注ぐ中でお洒落で大人っぽい雰囲気で。すごく礼さんらしくて素敵な場面だなぁと思いました。

大階段の男役群舞のかっこいいことと言ったら。あの階段中央での手振りに心を掴まれ、礼さん中心ならではの抜け感に心がひょう〜〜と舞い上がり、続く暁さん中心のソリッドなダンスに見ているこちらの体温も上がりました。

『ことなこ』(礼さん舞空さん)最後のデュエットダンスはもう、これこそ「エモい」と言う言葉がピッタリの、こんな『ことなこ』を見てみたかったデュエットダンスでした。
いままでにないゆったりとした振り付けで優美に踊る2人。体のすべてを自在に使える2人だからこそのドリーミーなデュエットダンス。
そして銀橋で輝くティアラを舞空さんの頭に載せる礼さん、おとぎ話を絵画にしたような2人のシーンは見る人を夢見心地にする素敵な演出だなぁと思いました。

いったんカルナバルの最高潮で盛り上がった後で、等身大の青春(タカラジェンヌの等身大なので普通とは全然違いますが)を見せる流れが好きだったなぁと思います。その等身大の青春がキラキラしていてなんだか涙腺を刺激される感じがとてもエモーショナルで。
価値観の押し付けがない、奇を衒うのじゃなくて普遍的な素敵や感動を真面目に丁寧に積み上げてつくられた作品だったなぁと思います。それがいまの星組にぴったりで心に沁みるショーでした。
若さと清らかさと青春に乾杯。

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2024/09/11

夢を追いかけるよりも速く

9月4日と5日に宝塚大劇場にて星組公演「記憶にございません!」「Tiara Azul ーDestinoー」を見てきました。
この公演は星組トップ娘役舞空瞳さんの退団公演です。

「記憶にございません!」は三谷幸喜氏原作のコメディ映画を宝塚で舞台化した作品で、シチュエーションやキャラクターを楽しめる作品でした。
脚本演出には思うところもあるのですがそこを論うのは控えます。(私は石田作品でしばしば見られる1つの方面に擦り寄りおもねる一方でほかを蔑ろにする表現が苦手です)
ん?と思う要素に引っ張られずいい塩梅に演じていた礼真琴さんはじめ星組生の力に天晴れと思いました。

なかでも「これ、ほかの人が演じたらいたたまれなかったかも」と思ったのが山西あかね役の小桜ほのかさんです。
際どさと品の良さのギリギリ。チャーミングさも失わない。
嘘っぽいのに白々しくない、小桜さんならではのリアリティが光っていました。

鶴丸官房長官役の輝月ゆうまさんも凄いなと思いました。一癖も二癖もありそうな大物に見えながら政治哲学がない人物をいいかんじに演じていて、みんながこの人の何にひれ伏すのかが見えてくるのが面白かったです。
小野田治役のひろ香祐さんの怪演も凄かったです。石田先生、本当に演者に助けられているなと思いました。

ダークスーツに銀縁眼鏡の首相秘書官井坂役の暁千星さんは反則でした。鬼に金棒、男役に銀縁眼鏡。佇むだけで魂を抜かれそうでした。
フリーライター古郡役の極美慎さんは胡散臭さが立ち振る舞いから滲み出ていて、なるほど~と思わせる人物でした。
暁さん極美さんともに下級生時代から成長を期待していたお2人が作品の中でしっかりと役目を担っている姿は感慨ひとしおでした。

私が星組を見る動機の1つであった水乃ゆりさんが、ニュースキャスター近藤ボニータ役で卒業することも言葉にならない思いでした。
その優美なダンスや美しいドレス姿にうっとりさせられてきた水乃ゆりさんですが、これまであまり前面に出て滔々とセリフをしゃべる印象ではなかったので、脳裏に過去のいろんな役が浮かんできて涙ぐみそうになりました。さいごまでやりきって卒業してくださいと心から思います。
キャストが発表されたときに石田作品にありがちなセクシーコスプレ系の役だったらどうしようと内心心配していたのが杞憂に終わってよかったです。

主演の黒田啓介役の礼真琴さんは、コメディって運動神経だっけ?と思うくらい役が似合って笑わせてもらいました。運動神経と舞台センスに感服しました。
どの場面も間が素晴らしかったですが、なかでもレストランの場面が最高でした。息子役の稀惺かずとさんもなんともいえないタイミングが巧くて大好きな場面でした。

黒田首相夫人役の舞空瞳さん。夫との仲は冷え切っていて息子は反抗期、そのうえ夫の部下と不倫中⁈・・という星組のプリンセスの最後の役がこれ??ってかんじなのだけど、どんな役でもヒロインにしてしまう舞空さんは流石でした。(この顔芸はたしかにこれまでのキャリアのなせる技・・と思いました笑)
セーラー服で登場した時はさすがにギョッとしたのですが、それ以上にアレな方が登場したのですっかり飛んでしまいました。
井坂役の暁さんとのタンゴの場面(ICH KUSSE IHRE HAND , MADAME)はコミカルな振付ながら流石でやっぱり見入ってしまいました。
宝塚最後の公演で耐え忍ぶストレスフルな役ではなくて思いのままを口にして、問題はあれど愛されるべき人に求愛されて幸せそうなとびきりの笑顔で終われるのはよかったよねと思いました。

個人的にニュアンスが大好きだった鰐淵影虎お兄様役の碧海さりおさんとか、90年代にこういう議員秘書やニュースキャスターの女性いたよねと思う秘書官番場さん役の詩ちづるさん(案外将来都知事とかになっていたりして)など1人1人が個性的で、出演者が一丸となって作り上げた作品だなと思いました。

(ショーの感想は次で書きたいと思います)

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2024/06/16

倒せドラゴン

6月5日と6日に東急シアターオーブにて宝塚歌劇星組公演「BIG FISH」を見てきました。

東京のみの上演だったので観劇は難しいかなと思っていたのですが、おなじ原作の映画が好きだったのと、それを礼真琴さん主演で上演するのならやはり見てみたいと、思い切って上京することにしました。

礼真琴さんと星組メンバーのパフォーマンスに圧倒される

いやはや礼さんが凄いのは知っていましたが、ここまで凄いとは! 何を歌っても踊っても見ていて聴いていて心地よかったです。
いつもわくわくする未知の世界に連れて行ってくれる礼さん、その礼さんが演じるエドワード・ブルームの語る物語にどんどん引き込まれました。
彼の語りにわくわくするかウソっぽく感じて鼻白むかで見ているほうの気持ちはぜんぜん違うんじゃないかなと思います。

礼さん以外の出演者も歌も芝居も達者な人揃いで終始感嘆しながら見ることができました。
パフォーマンスに関してストレスなく見ることができたぶん物語そのものに没入することができたのですが、それゆえに心がざわつく箇所がいくつかありました。

映画よりもかなり保守的な脚本

原作となる小説は読んだことがないのですが、おなじ原作の映画に比べるとかなり保守的になっている印象を受けました。それは現代パートの女性の描かれ方と父の息子の関係性に濃く表れていたと思います。(映画よりもミュージカルのほうが10年も後に制作されているのに・・です)

小桜ほのかさん演じるサンドラが私はしんどかったです。
エドワードの自分語りに登場する若き日のサンドラ(詩ちづるさん)以上に夢物語のようなサンドラで。

映画を見ていて、カールが実際は5mではなくて2mの大男だったように、サンドラもエドワードが語る夢のような南部の美少女が、いまは現代を生きるリアルな妻であり母であることで私はホッとするところがあったのです。
小桜さんのサンドラは「カールが実際に5m、いやそれ以上の大男だった」くらいの夢夢しさでした。

1人の女性として現実を生きて、夫エドワードの言動に困ったり息子ウィルとのあいだで板挟みになりながらもエドワードを愛していることに揺るぎのない彼女の強さと人生の深みが滲むリアリティのあるサンドラとして「屋根はいらない」という比喩を聴きたかった。
小桜さんは実力のある娘役さんで、可愛らしい少女から「RRR」の悪辣な総督夫人までも見事に演じることができる方なので、きっと演出の意図通りに演じているのだと思います。
澄んだ美しい歌声で「私の中の2人」「屋根はいらない」を熱唱するサンドラはいまだに夢の中に閉ざされているように感じられて心がざわざわしました。(現実的な生活力は放棄して愛という依存で束縛する人だなぁと。『彼女には自分がいなければ』と思えるパートナーはそれがいいのだろうけど息子は・・)

星咲希さん演じるウィル(極美慎さん)の妻ジョセフィーンも見ていてだんだんしんどさを感じました。
世界を飛び回るTVジャーナリストの彼女がこんなマタニティドレスを選ぶのかな?とか、知的で相手をリスペクトし公正な感覚で夫やその家族に細やかな気遣いで接している彼女に対して誰もギブしていなくて、このままアラバマのこの家族の価値観に合わせていって大丈夫なのかなと。

身重なのに夫ウィルに対してひたすらギバーでいることもしんどかったです。妻というよりは母親のようでした。
ウィルには知的で彼の心を紐解く母親と夢々しいまま年を重ねた守ってやらなければならない母親の2人の母親がいるみたいでした。
自分のことで頭がいっぱいなウィルがジョセフィーンの優しさや有効なアドバイスを当たり前のように受け取ってその割に素っ気ないのも・・。もっと彼女のことをリスペクトしたらいいのにと思いました。

ジョセフィーンにしてもサンドラにしても現代パートの女性としてのリアリティに欠けるのは演じている彼女たちが宝塚の娘役ゆえというのもあるのかもしれません。
彼女たち宝塚の娘役が旧態依然の女性観を体現することから解放されないと、私は宝塚を見ること自体がしんどくなるだろうなと思いました。

父と息子

さらに物語全体に流れる「父と息子」の関係をことさらに特別視する雰囲気もしんどかったです。

「オフィスに閉じこもって仕事/俺にはとても無理さ/じっとしているのは死んでいるのと同じ」「芝刈りや料理や洗濯は向いてない俺じゃない」と、セールスの仕事で数週間家に帰らないエドワードが幼いウィルに向かって、自分が留守のあいだはお前が大黒柱として家と母親を守れと言うのもしんどかったです。自分はやりたいように生きて家に残す息子には呪いを掛けるんだと。
おそらく朝鮮戦争に召集されているのでエドワードは1930年代の生まれかなと思います。ジェンダー意識が強いのはこの世代の人なら普通かもしれませんが、2024年のいま舞台であえてこのセリフを使う必要があるのかな?と疑問でした。
なによりウィルが拗らせているのはこの父親のせいでしょう。

そんなウィルが、妻の妊婦健診につきあい超音波検査でお腹の子が「息子」であると知ったときの流れも胸がざわざわしました。
息子ってそんなに特別なんだ。
「父親と息子」の関係の構築はウィルにとって雲をつかむようなでも焦がれてやまない命題なんだろうなぁ。
満たされなかった子どもの自分を息子を介して満たしていこうとしているみたいだなと思いました。

ウィルの気持ちはとてもわかる気がしました。
エドワードは1対1ならとても面白くて素敵な父親だったけれど、成長して客観的な視点を持つと疑問も湧くし、世間を気にする視点を持つようになれば父親のことを恥ずかしく感じることもわかります。
でも根本は父親のことを好きだからこそ、そう思う自分が父親に対して申し訳なくなるジレンマもあるでしょう。つらいなと。

ウィルは賢い子どもだったし、優秀なまま大人になりいまは報道関係の職に就き世界中を回りニューヨークに住んでいる。
妻のジョセフィーンもおなじ業界の人で、結婚式の招待客も彼が交友関係をもった大学や業界の人びとなんだろうと思います。知的でリベラル寄りの。
そんな彼らに父親がどう思われるか・・? アラバマの片田舎でセールスマンをしながら家族を養ってきた父。いつもの荒唐無稽な自慢話さえしなければ彼には誇れる父親のはずです。
だからどうか自分の晴れ舞台である結婚式の場では黙っていてと願い、約束を取り付けたのに反故にされてしまった。
彼にとってはいちばんデリケートな話題を衆人の前で自分主体の話としてしまう父親に心底うんざりしてしまったよねと思いました。どうでもいい人ではない、本当は尊敬したい相手だからこそとても複雑なんだよねと。

映画だと老いて自分のホラ話の粗をさらに見え見えのホラ話で取り繕うみっともなく哀れにすら見える父親が、実は本当にビッグな人だったんだと認めることができた、そういう息子の心の救済の話だったんだ思うんですが、礼さんのエドワードは老いてもちっともみっともなくも哀れでもなく、むしろ素敵なので見る側が補正してしまって、少々ウィルに分が悪いなと感じました。

女の子もドラゴンと戦っていい

エドワードの語りパートの演出や各々の演者のパフォーマンスも面白くて楽しくて、殊に可愛い可愛い「アラバマの子羊」と「時が止まった」の流れが大好きでした。
憎々しいドン・プライス(蒼舞咲歩さん)や狼男のサーカス団長(碧海さりおさん)や大男カール(大希颯さん)、子ども時代のウィル(茉莉那ふみさん)などなど皆個性的でキャラが立ってて愛おしかったです。
弔問に現実の彼らが訪れるところはなんとも言えない気持ちになりました。
音楽はどれも素敵で時間が経っても口ずさんでしまうものばかり。
たのしいたのしいだけではないのが、きっとこの作品の魅力なのかなと思います。
深い作品だからこそ、いろんな見方で心に刻んでいていいよねと。

♪倒せドラゴン~城を攻めて~と反芻しつつ、女の子だってドラゴンと戦っていいんだぞ、戦わなくてもいいけど、と思いながら帰路に就きました。

CAST

エドワード・ブルーム/礼 真琴 どのナンバーも最高でした。礼さんの歌声で聴けて幸せでした。
ジェニー・ヒル/白妙 なつ 終盤からの出番ですが、その説得力たるや。さすがでした。
ベネット/ひろ香 祐 ブルーム家の家庭医でエドワードの友人。なんども聞いているエドワードの自慢話を面白がって笑ってくれる良い人でした。
サンドラ・ブルーム/小桜 ほのか 澄んだ美しい歌声に聞き惚れました。エドワードの声色をまねるところも巧いなぁと思いました。
ドン・プライス/蒼舞 咲歩 登場するたびに笑ってしまう間の良さ、コミカルで憎めない憎まれ役でした。
人魚/希沙 薫 優雅な手の動きに登場のたびに思わず見入ってしまいました。
ウィル・ブルーム/極美 慎 父への複雑な感情がよくわかりました。愛しているからこそわかりたいし理解してほしいんだなぁと。
エーモス・キャロウェイ/碧海 さりお 怪しくて胡散臭くて狼男になると愛おしくて大好きなキャラクターでした。
ザッキー・プライス/夕陽 真輝 お兄さんのドンの引っ付き虫で、いつも兄に倣って罵倒にもならない罵倒「魔女好き男めー」で去っていくのに笑いました。
魔女/都 優奈 凄く圧のある魔女でした。「RRR」に続いて歌声が聴けて嬉しかったです。
ジョセフィーン/星咲 希 こんなにセリフが多い役をされているのをはじめて見たかもしれないのですが、お芝居がとても巧い方でした。
ジェニー(若かりし頃)/鳳花 るりな 映画とはちがうところで登場するので、さいしょはあのジェニーとは気づいていませんでした。2度目に登場した時にあああー!となりました。歌もお上手だし、いろんな場面でアンサンブルで踊っているのも目にとまりました。
サンドラ(若かりし頃)/詩 ちづる 「アラバマの子羊」可愛かったー。ヤング・ウィルとエドワードを窘める場面もツボでした。
カール/大希 颯 エドワードと2人で旅に出るときのナンバーが好きでした。あの高さで姿勢で歌えるの凄いなぁと思いました。

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