シアタークリエ公演「風を結んで」を見ました。
こんな心揺すぶられる作品にめぐり逢わせてくれた悠河さんに感謝。
明るい人たちも過去の自分を捨て時流に乗って生きることを選び仲間を大事に思う人たちも、心の奥底では誰もが一人一人秘めた思いを抱き、いま自分が置かれている状況境遇に疑問を抱き葛藤していました。
平吾(中川晃教)は彰義隊に加わって果てた父のことがずっと心に掛かっていて、それが彼の生き方考え方に影を落としているようです。
少なくとも子供の頃は父は彼のヒーローだったにちがいない。
けれどもその父の死に方生き方が間違いではなかったのだろうかと疑問を抱かねばならなくなるような事を経験しながら成長したのだろう。家族の苦しい生活をみつめながら。
そんな彼が葛藤の末に出した答えが父とは違う生き方―――たとえ士(さむらい)の誇りを捨てたとしても、生きて生きて生き抜くという事だったのでしょう。
そうは言いながらも由紀子にサムライを否定されると、黙っている事が出来なくて、わかってほしいとも思っているようでした。二つの気持ちに揺れる心―――それが平吾の葛藤みたいでした。
一度心に刻まれた価値観を否定するのは苦しい。
それを強いられる苦しい時代だったんだなぁ。
うまく行くかと思われたサムライパフォーマンス一座がよもやの解散。
団員であった元武士たちは、それぞれに自分の心に巣くう思いを戦場に赴く事で打破しようとする。
平吾の何があっても生きて生きて生き抜くという思いとはうらはらに。
まだまだ明るく魂の自由を求めて個人が生きられる時代ではないのだ。江戸幕府が明治政府に、江戸が東京と名を変えてもそう簡単に人の心に革命は起こせない。
起こせるならこののち軍国主義への暗い道には進まなかったでしょう。
でもそんな時代に、生きて生きて生き抜くと言い切る平吾。
そして武家の娘として自分の意見や思いを押し殺しても武家のしきたりに従うように教えられ、そう生きてきた静江が、「死なないで必ず生きて帰って下さい」と平吾に言うのだから。
これは物凄い意識革命だと思います。
ラストの平吾の歌は希望の歌でならなければならない。
決して悲壮な歌に聞こえてはならない。
最後の一曲にここまで演じてきたものが生きるかどうかが掛かっている。そんな難題を背負う中川さんでしたが、見事に大願成就への希望を感じさせてくれました。