カテゴリー「♖久留米シティプラザ ザ・グランドホール」の2件の記事

2022/10/07

強さってなに?

10月1日に久留米シティプラザ ザ・グランドホールにてミュージカル「DOROTHY」を見てきました。

福岡で凰稀かなめさんを見られることが観劇の動機で、「オズの魔法使い」のドロシーのお話なんだなぁという前情報しかない状態で観劇しました。

幕が開くと学生オーケストラの練習風景??? こんなお話だったっけ???

ドロシー(桜井玲香さん)はコンマスでソリストもできちゃうようなヴァイオリニストで見るからにお嬢様な風情。
前回は彼女のソロパートが秀逸でコンクールで賞をとったけど、今年は彼女のソロではなくみんなの演奏で賞を目指そうってことになったみたい。
なんだけど。
みんなの音がバラバラ。これじゃ賞なんて目指せない。コンクールは目前。
もっと練習時間を増やそう。「あと3時間!」って言えちゃうひと。それがドロシーみたい。
コンクールまでの間、毎日いまより+3時間練習しようってことですよね。

もとより学生オーケストラ(オケ部)。
バイトがある者もいれば遠くから通っている者もいる。
それぞれの事情で現状ですらいっぱいいっぱいの人も多いのだろうなと察せられる。
彼女と自分自身の間にある隔たりをメンバーのそれぞれが感じたよね。そんな気まずい雰囲気。

上手くなるには練習するしかない。自分は正しい。間違っていない。
でもみんなはついてきてくれない。
ドロシー最大の危機。

真剣に悩むドロシーの前に不思議な少女(横溝菜帆さん)が表れて、導かれるままにオズの世界へ——。
なるほど、こういう展開かぁ。

「オズの魔法使い」は子どもの時分に読んだのですが、正直なところその面白さがピンとこなくて読み進めるのが苦痛な物語でした。
ファンタジーの世界観って作者の思想がそのまま反映していると思うんですが、その世界観がどうもしっくりこなくて。
オズの国の住人たちを見下しているような感じに抵抗がありました。
自分と自分が属する側は常にまっとうで正しくて、自分サイドじゃないもの(オズの世界)は奇異で愚かで劣っていると思っているような受け答えが受け入れがたくて。
当時はこんなふうに言葉にはできなかったけれど、作者が提示する世界観に引き摺られることに抵抗がありました。
(異世界に迷い込んで「蒙昧なネイティブ」を啓蒙してリーダーになる物語がいまも好きじゃないのは、ここがはじめだったかも)
カカシが自分を頭が悪いとか、ブリキの木こりが自分を心がないとか、そのうしろに透けて見えるなにかも嫌だったのだと思います。
臆病なライオンはちょっと好きでした。近づいてくるものに怯えて吠えたら皆から恐れられてしまう。その孤独と寂しさを想像して。
いちばん面白く読んだのはオズの魔法使いの正体がわかるくだりでした。

もしかしてこのミュージカルのオケ部のドロシーも、さいしょはそんな原作と同じところに立っている人なのかな?
正しい自分と、なにもわかっていない彼ら。——みたいな。

なにもわかっていない彼らが正しい私を非難する。ピンチ! なんとかしてみんなの心を掴まなくては。
から始まるドロシーの旅なのだけど。
桜井玲香さん演じるドロシーは、恵まれた境遇で育った人らしく自己肯定感が高くて傲慢といえばそうなのだけど、どこか応援したくなる女性でした。
カカシたちとも対等で頭ごなしに馬鹿にしたりしない。ピンチになっても卑屈にはならない、自分に都合のよいエクスキューズもない、不器用だけど一生懸命な頑張り屋さんに見えました。

ドロシーと一緒にカカシ、ブリキの木こり、臆病なライオンは、偉大なオズの魔法使いに自分がいちばん欲しいものをもらうため、危機を乗り越えながら旅をする。
そうしているうちに友情を育むのだけど、けっしてべたべたしないのもよかったな。

東の魔女も西の魔女も、ドロシーの歌や彼女が奏でるヴァイオリンの音色を聴いて彼女を害する気持ちを収めて逆に彼女のためになにかをしてあげようとする。
音楽を愛し信じる人々が作ったストーリーだなぁと思うし。それを納得させるドロシーだったと思います。

自分が持っていないと思っていた知恵も心も勇気も、オズの魔法使いにもらわなくても自分の中にあったね。
必要なのはみんなの心を掴むことじゃなくて、みんなの気持ちに気づくことだったね。
素直にそう思える物語が清々しかったです。

鈴木勝吾さん演じるカカシさん。ずっと一生同じ場所に立っているものだと思っていた彼にとってドロシーやブリキさんたちと一緒に旅をすることは、些細なことさえしあわせだろうなと思いました。
ドロシーのために自分の一部でヴァイオリンを作ってあげたいと思う気持ちもわかるような気がしました。
ブリキさんはもうゼンマイはいらないのじゃないかと気づくのも彼だし。大切に思う誰かの存在が彼の原動力なんだな。そのためにどうしたらよいか考えて行動してて。願いが叶ってよかったねと思いました。

渡辺大輔さん演じるブリキさん。あれはズルイ笑。いやでもうるっとしてしまう。でもしあわせそう涙。
カカシさんが自分が求められる場所に残ると決意したとき、寂しくないと強がるところもとても好きでした。
心がないのではなくて、心を失くしたと思わないと耐えられないような辛い経験をして以来ずっと感情を封印してきたひとなんだなと思いました。

小野塚勇人さん演じるライオンさん。臆病なのは他者の心の動きに敏感だからですよね。自分がなにを望まれているかわかるからですよね。
それはけっして悪いことじゃなくて、そんなライオンさんだからこそできることがあるんだなと思いました。
他者のことも思いやりながら、自分の願いも口にできるようになるといいねと思いました。

伊波杏樹さん演じる東の魔女。なにより圧死してなくてよかった~。
火の竜を操るきれいな声の魔女でした。どうして悪い魔女になったのか不思議。
ドロシーの歌声に心を動かされて、困ったことがあったらいつでも呼びなさいと言ってくれるとっても優しい魔女でした。

凰稀かなめさん演じる西の魔女。緑色じゃなくてよかったです笑。
存在感が女王。でもめちゃくちゃ胡散臭いよ~あやしいよ~笑。面白がってやっているのが伝わりました。
ドロシーが奏でるヴァイオリンの音色に心をかき乱されてその音色に込められた願いに心が変化していく様が短い時間のあいだによくわかりました。こういうところに説得力をもたせられるのいいなぁ。
そしてドロシーをピリッと励ますところが先達として同性の先輩として素敵だなと思いました。

鈴木壮麻さん演じるオズ。こういうふうに出てくるんだ~~と思いました。なるほどなるほどの連続でした。
ちょっと下卑たふつうのオジサン感を醸し出されているのがさすが。そうだよねそうだよねオズの魔法使いってそうだよねとうんうん頷きながら見ていました。
壮麻さんが登場されることによる安心感は半端なかったです。
新しいミュージカル作品が生まれ若いミュージカル俳優さんが次々と生まれている昨今、後輩のリスペクトの対象となれる人が同じ舞台に立っていることって貴重だと思います。
文化は伝承!

ツアー公演なので派手な舞台転換などはないけれど、音楽を愛する人たちによる人柄の良いミュージカルを見たなと思いました。

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2018/02/18

その魂は滴るほどに美味だろう。

2月10日に久留米シティプラザ内ザ・グランドホールにてミュージカル「黒執事 - Tango on the Campania-」を見てきました。

古川雄大さん目当てに前々作から見続けて3本目。原作単行本も最新刊まで読了。と意外にはまっている自分に驚き(笑)。
まず初見の感想は、「めっちゃ児玉先生やん(笑)」「前作に比べ思っていたより殺風景?」「でも楽しい♪」でした。

演出が今作、児玉明子氏に代わったとは事前に知っていたのですが、こんなに児玉色になっているのがいとをかしでした。
パペットや布を使った演出も児玉先生らしいなと思いましたが、なによりも私が児玉作品に感じていた印象、ストレンジなものへの執着、定型のヒューマニズムとの親和性の稀薄さ、最終的な結論は自分で出す、といったものがそっくりこの「黒執事」の世界観と調和していることに瞠目でした。

それから観劇後に、今回の作品をずっとご覧になっている方から「拍手を入れるところがちゃんと在るでしょう」と言われたのですが、たしかに!と思いました。
メインキャラがソロを歌いきった時、キメを入れた時、ボケたりアドリブを入れた時、と拍手を入れやすくて、客席からキャラクターやキャストへの愛を表現できて楽しかったです。
ここはキャストの自由に任されている場面だなというのもわかりやすかったですし、総踊りの場で手拍子が出来たりするのも楽しかったです。
この辺りは宝塚的かな?

舞台が殺風景に感じたのはたぶん20名くらいのアンサンブルの方たちがビザールドールの扮装などでほぼ全員舞台に出る場面が多かったからではないかと思います。
場所を必要とするのでセットが開いて空間ができるから。
アンサンブルの動きで見せる場面が多かった印象。それがまた物凄い身体能力の人たちばかりでびっくりでした。
緻密ではないけれども、キャスト1人1人の力で魅せる演出になっているのだなと思いました。

脚本が粗いほど演出が雑なほどパフォーマーの魅力と技量でそれを埋めてかえって面白くなるというのは宝塚ではしばしば経験しますがそれに近いものがあるかな。
なによりもこのシリーズで私がいちばん見たいところである主人公2人の関係性の描かれ方や、そこに対する演者の熱量が半端でなかったので、すごく満足できました。

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