カテゴリー「♖ 宝塚OG」の14件の記事

2023/01/19

私を返して。

1月14日と17日に博多座にてミュージカル「エリザベート」を見てきました。

【14日(マチネ)】
  花總シシィ古川トート佐藤フランツ立石ルドルフ香寿ゾフィー黒羽ルキーニ
【17日(ソワレ)】
  花總シシィ井上トート田代フランツ甲斐ルドルフ香寿ゾフィー黒羽ルキーニ

直近だと2019年に帝劇で見ているのですが、今回のバージョンはすごくすっきりわかりやすく演出されているように感じました。
そのぶん、個人的に心地よかったノイズも消えてしまったような、なにか隙間が埋まりきっていない印象ももちました。
なんといえばいいのかわかりませんが、90年代的なもの、ベルリンの壁崩壊後のヨーロッパ的なものが感じられなくなった感。
脚本もわかりやすくなっていた印象で、この作品に限らず「言葉通り」が主流になっているのかなぁと。

オケやコーラスの重厚さが以前ほど感じられない気がしたのですが、コロナ禍と関係があったりするのでしょうか。減員? それとも座席位置や私の側に起因する問題でそう感じたのでしょうか。
逆にエコーが強すぎるのが違和感で、トートの声をマイクが拾いきれていないようなもったいない感じもありました。

14日の初見時、トート閣下のご登場シーンで頭上からワイヤーで降臨されるのを見てふと昨年見た「薔薇とサムライ」の天海祐希さんが脳裏に浮かんでしまったばっかりに、よからぬスイッチが入ってしまったのがわたし的敗因のような気もします。
物語に没頭しきれずどこか退いたところから見ていたかもしれません。
真っ白だった頃の私を返して・・涙。

また観劇できるはずなので、それまでに自分を調整しておかなくては。
このご時世、貴重な1公演1公演のはずなのに・・。

花總まりさんのシシィは愛らしい少女から大人の女性へそして晩年への変化が、わかってはいるつもりだったのですが、以前にも増して見事であらためて驚かされました。
予想を超えていました。
印象としてはとてもポジティブで自分を曝け出すことができるシシィでした。

古川雄大さんは2019年に見たときとはかなり雰囲気が変わって存在感のあるトートになっていました。
低血圧そうに(青い血を流すらしいから血圧はあるんですよね?)悠然として物事に無頓着そうなのにシシィにだけは執着するのが「愛と死の輪舞」って感じで、作品世界に漂う空気が凝って具現化したようなトート閣下だなぁと思いました。
小さなルドルフからさりげなくピストルを受け取り懐にしまうまでの一連、のちに成長したルドルフにそのピストルを渡すところなどのメタな小道具使いに見惚れてしまいました。ついふらふらとついて行ってしまいそうになるトート閣下でした。

佐藤隆紀さんのフランツ、そっかシシィってファザコンだったよねと。優し気なところに惹かれたのかな。
シシィの部屋の前の歌、いい声。あれでも扉を開けないシシィなのですね。
棘のない声といいますか包み込むような誰ともケンカしない声だなぁ。
夜のボートは劇中でもいちばんの感動ポイントでした。

立石俊樹さん、悲劇を待っているルドルフといいますか。このルドルフ、自分が悲劇が似合うことを知っているなと思いました。
追い詰められてイキイキしていると言ったら変ですが、悲嘆に浸っているなぁと。古川トートとの耽美な闇広ご馳走様でした♡

香寿たつきさんのゾフィーは正しくて厳しくて怖い印象。それが息子や孫のためだと心の底から信じているんですよねぇ。
強くなくては生きていられない場所で彼らは生きていくのだから。
安定の力強い歌声の頼もしいゾフィー様でした。

ルキーニの黒羽真璃夫さん、ルキーニといえばベテランの役者さんの印象があったのでキャリアも年齢もお若い方がキャスティングされたことに最初は驚きでした。
実際に舞台で見て違和感もまったくなく演じこなしていることにも驚きを覚えましたが、考えたら実在のルキーニも犯行時は25歳だったのですよね。
無政府主義を信奉し、「偉そうなやつ」を暗殺して自分を誇示したかったのだろう若者の役を年齢が近い役者が演じるのは自然かも。その言動の支離滅裂さも、教え込まれたことを一途に情熱的に信奉し誰かを情熱的に憎むことができるのも若さゆえともいえるかもと納得でした。
そう仕向けられていることに気づかず万能感に浸っている感じも。彼は誰かに利用されたのかも・・?と思える余地があるのも。(この作品の世界観だとトート閣下がその黒幕ですが)
強烈なアクセントで狂気を印象付けるというよりは、若さゆえの万能感と自己陶酔と操られやすさを印象付けるルキーニだったかなと思います。


17日は、トート、フランツ、ルドルフが14日とは異なるキャストでした。

井上芳雄さんのトートは、アグレッシブに仕掛けてくる印象でかなり怖かったです。自分から矢面に立つトートだなと。
ルドルフを失って弱気になったシシィに「死なせて」と言われて傷ついたような顔をしていたのが印象的でした。愛されていないことがショックなのかな。強いシシィを求めているからかな。子どものようにイノセントで自分が望むままに行動するトート閣下なのかなと思いました。
井上トートは歌も楽しみだったのですが、エコーが効きすぎていてマイクが拾っていない声もあった気がしてそれがもったいないなぁと思いました。

田代万里生さんのフランツはトートへの対抗心が強いなぁというのがいちばんの印象です。シシィは私のものだ感が凄い。
彼女を裏切ったことをめちゃくちゃ後悔してそうだし、そのことで母をとても恨んでいそうだし、帰ってこないシシィのことをずっと思っていそう。
その割には息子にきつくて、そんなところは母に似ている気がするし。下手をすると息子にも嫉妬しそうなくらいだなぁと思いました。
こんなにシシィを愛しているのに拒まれてしまう「夜のボート」は胸が痛かったです。彼に脇目もふらずトートの胸に飛び込んでいくんだなぁシシィは・・涙。

甲斐翔真さんのルドルフは、めっちゃ育っとるやん!って思いました。こんなに大きくなって・・と。
ゾフィー様の言いつけを守って鍛錬したのかな~ 彼なりに一生懸命に国を思って行動しているよねと思いました。そんなところはゾフィー様の孫だなぁと。
井上トートの声をかき消さんばかりの音量の闇広がめちゃくちゃツボりました。こんな闇広(闇が広がる)ははじめて。勢いで突き進んでなにかよくわからないうちに勢いで自滅してしまうルドルフ。正義感が強かったのよねと思いました。
次は古川トートと甲斐ルドルフで見る予定なのですが、ちゃんと噛み合うのかどうなってしまうのか、いまから不安なような楽しみなような笑。

革命家の皆さんも一新で、背の高い方たちばかりでびっくりでした。
こうやってどんどん受け継がれていくんだなぁ。
博多座でアムネリス(宙組「王家に捧ぐ歌」)だった彩花まりさんが今回はヴィンディッシュ嬢で頑張っている姿を見れてうれしかったです。
おなじく元宙組だった華妃まいあさんの姿も退団後はじめて見ることができました。相変わらずスタイル良いなぁと。宙組で活躍していた彼女たちがまたエリザベートの世界で息づいている姿を見ることができて感無量です。
スタイルが良いといえば美麗さんのマデレーネも妖艶で素晴らしかったです。

次の観劇予定は1週間後なのですが、なにやら凄まじい寒波に見舞われるみたいで・・・。
大雪にさえならなければ大丈夫なはずなので、無事に観劇が叶いますように。
そして千秋楽まで止まることなく上演されますように。心の底から祈っています。

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2022/12/02

Just Look at Me!

11月23日にキャナルシティ劇場にて行われた「望海風斗20th Anniversary ドラマティックコンサート Look at Me」に行ってきました。

望海さんのコンサートは去年に引き続き2度目、そして今年望海さんの舞台を見るのは、博多座ガイズ&ドールズに続いて2回目です。
またまた福岡に来てくださって本当にありがとうございますと思います。
今回のコンサートも大満足でした。

今回の構成は、企画した音楽番組が打ち切りになってしまった演出家のヒカリさん(望海さん)が、本当にやりたかったショーをイメージしてみたという筋立てで趣向の異なるいろいろなナンバーを披露するというかんじ。どんなジャンルも歌える望海さんならではでした。

初っ端からブロードウェイミュージカルの名曲を歌いこなす望海さん凄かったです。
そのナンバーが使われたミュージカルそのものは、いまの時代に見るとついていけなかったりもするのだけど、やっぱり名曲は名曲。それを望海さんが歌って聴かせてくれることが至福でした。
私は望海さんの声も好きなんだけど、リズム感がすごく好きなんだなと思いました。
気持ちよく風を切り波に乗っているような全身で楽しめる音楽と歌声が最高。
「All That Jazz」「Luck Be A Lady」は痺れました。やっぱりカッコイイ望海さんが好き。

続いては懐かしい邦楽のナンバーをリディスカバリーするコーナー。
前回のコンサートでも思ったのですが、望海さんは歌で言葉を伝える力が素晴らしいなと。
聞き慣れたナンバーなのに、こんなことを歌っていたんだとしみじみ歌詞の世界観に浸りました。
「薔薇より美しい」ってこんな情景と心情を歌っていたんだ、「ビューティフルネーム」ってこんなにグルーヴな名曲だったんだと。
すでに東京公演をなんども見ていた望海さんファンのオトモダチが「アヤコが嫁に行ってしまう・・」と涙目でしょぼしょぼしていた理由がわかった「秋桜」。リアルな情景まで浮かんでしまって、ひととき沁みますね、これは。応援を続けてきた人にはたまらない、いろんな思い出がよみがえるのではないでしょうか。
と勝手に想像して私もしょぼしょぼしました。

それからこれまで望海さんが公演で歌ってきたナンバーのコーナー。
こんなロックな「最後のダンス」が聴きたかった!とあがりまくり。
コーナーの1曲だからドレスにフィンガーウェーブにシンプルなパールのヘアアクセサリーで男前に歌っていたのも印象的で、素敵イイイィ♡と心で悲鳴を上げていました。
今回はコーナーごとにヘアスタイルもコスチュームも印象がまったく違うのもいろんな魅力や夢を見ることができて素敵でした。
「最後のダンス」に感動して思わず夢見てしまったのですが、望海さんの歌唱で力強い「私だけに」を聴いてみたいなぁと。宝塚版とも東宝版ともちがう「私だけに」を。できればドイツ語で。
思いっきり「Nein!」と拒絶してほしいなぁ。

そしてそして、今回めちゃびっくりしたのが「パレードに雨を降らせないで」(Don't Rain On My Parade)。
まさか望海さんの歌声で聴けるとは。この曲とっても難しくないですか? 日本語で歌詞をつけられないタイプの曲だと思うし英語で歌うのも難しい曲だと思っていたので、こんなふうにコンサートで生で聴けるとは思ってもいなくてえっ?この曲?とびっくりして、でもさらに望海さんのヴォーカルもすごくドライブ感があってマグナムのシャンパンシャワーを浴びたような気分を味わいました。
望海さん最高です。祝20周年!
望海さんの歌も、バンドの演奏も、ダンスも。全てが上質でよき時間を過ごせたなぁと大満足です。
来年は「DREAM GIRLS」博多座公演もあるし、これからの望海さんのご活躍をさらに楽しみにしています。


四方山ですが、望海さんファンの方から「なんでもいいのでペンライトを持ってきてね」と言われていたのですが、家にあったのが唯一マカシャン(例のデリシューのマカロン型ペインライト)だったので、「なんでも?」と思いつつアンコールで皆さんがペンライトを振っている時に恐る恐る振っていたのがバレてしまったみたいで望海さんから軽く指摘が・・(ほかにもマカシャンの仲間がいらしたのかな)。緑系のライトが多い中でピンクがいかんかったかなぁ。。

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2022/10/30

Welcome To The 60's. (This is the future)

10月8日に博多座にてミュージカル「ヘアスプレー」を見てきました。

映画も知らなくて、どうして「ヘアスプレー」なんだろうと思っていたんですが、1960年代が舞台の作品なのか~!
盛り髪をしっかり固めてキープするのにヘアスプレーは必須アイテムですよね。
主人公のトレイシー(渡辺直美さん)を筆頭にティーンエイジャーはレギュラーサイズのスプレー缶をバッグに入れて持ち歩いている。
ちなみに私が子どもの頃に見たTVアニメの「ひみつのアッコちゃん」のキャラの髪型、これってどうなっているの?と思っていたけれど、あれも盛り髪だったんですね。
初代リカちゃんのママもアップスタイルだったなぁ。と懐かしく思い出しました。

舞台が始まってまもなく、トレイシーの親友ペニー(清水くるみさん)のママがふつうに人種差別発言をしていてびっくりでした。
そういう時代背景の作品なんだ。60年代のアメリカ、ボルティモア。人種分離がふつうに行われていた時代に生きている人々の物語なんだ。
ポジティブなハッピーミュージカルかと思っていたけど、思う以上にヘヴィな題材を入れてくるんだなぁと。

リトル・アイネス(荒川玲和さん)がトレイシーの後にオーディションに飛び込んできたとき、ヴェルマ(瀬奈じゅんさん)が一瞥で却下した理由がさいしょはピンとこなくて。年齢が若すぎる???にしては意味がわからないなーと思いました。
後の場面で彼女がシーウィード(平間壮一さん)の妹だとわかって、そういうことか!と。
そのシーウィードも、居残り組でのトレイシーとの会話の中でアフリカ系アメリカ人とわかりました。
アフリカをルーツに持つ人物を演じるからといって「ブラックフェイス」にはしない。そういう方針の作品なんだ。

ペニーのママ、プルーディー(可知寛子さん)はとても厳格で敬虔。世の中や人を信じていないのかな。きっと不安でいっぱいで娘を育てている人なんだろうな。
家の中に夫(ペニーのお父さん)の姿が見えなかったのも何か理由があるのかな。(警察が見つけたら云々っていうのは失踪しているってこと?)
いちいち細かく娘を束縛する母親で、TV番組の視聴にも、汗をかくことにも、無断で刑務所に入ったことにも激怒。
あんまりなんでも激怒するので、ペニーはなにをやってもママに叱られると思っているようだし、些細なことも重大なことも同列に並べちゃう。
とにかくママに断りなく何かをやったらすべて怒られると思ってるふう。

ペニーが地味色の服に髪をツインテールにまとめてロリポップを舐めているのも、それがいちばんママが安心するとわかってて波風立たずにいられるからなんだろうな。
ママは娘が女性になることが心配なんだろうな。女性になって傷つくことが。
きっとママ自身が女性として深く傷ついたことがある人なのだろうなぁと思いました。

そのペニーがシーウィードと恋に落ちてしまう。しかもかなりの熱々ぶり。
これはママとのあいだに大波乱あるに違いないと見ているこちらはハラハラ。
なにしろペニーのママは空気を吸うように人種差別発言しちゃう人ですから。どうするの???

トレイシーのアクションが実って、人種分離が当たり前のボルティモアで、1つの番組に黒人も白人も一緒に出演するという歴史的な瞬間を迎えた中。
シーウィードとカップルで現れたペニーは、いつもの地味目の服ではなくてポップでキラキラのミニワンピ姿で、一瞬ペニーとわからなかったほどの変身ぶり。そのあまりの素敵さに私の脳みそはバフン!!💘

そんな娘を一目見たプルーディーが、シーウィードとの関係を迷わず受け入れるのがとても意外でした。
恋をしている娘がいまどれほど幸せか一目でわかって。
止めたって止められないのもわかってる。
どうしてわかるかなんて野暮。
泣き顔で祝福するママは、これから娘が人の何十倍もの困難に向き合うこともわかっているよね。
この一瞬でそれも全部支える覚悟が生まれているんだよねと思って感動でした。

舞台は1962年とのこと。2年後の1964年に公民権法が制定されるも人種差別は2022年のいまでもなお深刻な問題だし。
ペニーやシーウィードが置かれている状況は並大抵の困難ではないと想像できます。
そして1962年に17歳の彼女たちは、1945年生まれ。第二次世界大戦終結の年。
彼女たちの親たちは、まさに戦時中に青春時代を過ごし恋をして結婚をしたんだなぁ。
生まれてきた子どもたちはまさに希望そのものだったろうなぁと推察します。

トレイシーのママ・エドナ(山口祐一郎さん)とパパ・ウィルバー(石川禅さん)も、きっといろんな希望や挫折を味わいながら娘を大事に育ててきたのだろうなと思いました。
大切に育てた娘がTVに出たがっているのを知って体型のことで傷つくことを心配するママ・エドナ。自分も同じことで深く傷つけられてきたからだろうなぁ。

娘のことも妻のことも愛しているパパ・ウィルバーはトレイシーの背中を押してあげる。
彼は人のことも世の中のことも信じたい人なんだなぁと思いました。希望が彼の生きる糧なんだろうなと。
きっとこの時、なにかあれば全力で娘を助けてあげる覚悟をしたのだろうと思います。
そして実際に娘のピンチに自分の長年の努力の結晶である店を売ってお金を工面してあげていたから。
娘だけを救出するのは娘のためにならないとわかっていて無理をしたんだよねと思います。

そんな両親に育てられたトレイシーは屈託がなくおかしいことはおかしいと感じ、迷わずまっすぐに行動できる17歳。
シーウィードたちが置かれている状況は「馬鹿みたい」だと思ってなんとかしようと立ち上がる。

トレイシーが大好きな人気番組「コーニー・コリンズ・ショー」には月に1回「ブラック・デー」というのがあって。
トレイシーにとっては月に1回限定の特別な、クールでエキサイティングな「ブラック・デー」なのだけど。
でもシーウィードたちにとっては、週6日の「コーニー・コリンズ・ショー」の中で月に1度だけ許される「ブラック・デー」。
なんども掛け合って、なんど拒否されても諦めずに掛け合ってやっと勝ち取った月1回だと、シーウィードの母親で「ブラック・デー」の司会をしているメイベル(エリアンナさん)は言っていました。
しかも白人の出演者と一緒に出演するのじゃなくて、アフリカ系の彼らだけが出演する月1回。共演NGという時代なんだなぁ。
その月1回だっていつ簡単に奪い取られてしまうかわからない脆いものだってわかっている。
舞台の終盤でメイベルが歌うソウルフルな魂の叫びのような「I Know Where I've Been」はとても感動的でした。

当事者として散々戦ってきたであろうメイベルから見て、当事者ではないのに熱くなるトレイシーはどう映るのだろうと考えました。
トレイシーの思いつきによる「親子デー」への参加とか。
白人との共演が認められていない状況で、娘リトル・アイネスと母娘としてエントリーしようとすることが、どれだけマジョリティ(世間)から拒絶を受け、どれだけ傷つかなければならないか。メイベルはよく知っていると思います。それによって娘もどれだけ傷つくか。
それでもいま気づきを得たばかりの後先考えないトレイシーの提案にYESと言える彼女はとても勇敢な女性だと思いました。
闘い続けなければ今はないことを知っているからかな。
トレイシーが当事者ではないからこそ、その彼女の行動や気づきに未来の希望を見出したのかな。
私だったらムカついてしまうんじゃないかなと思って、なんて寛容な人だろうと思いました。

そして突然娘から一緒に「親子デー」に参加すると言われて尻込みするエドナをチアするためにメイベルが歌う「Big,Blonde and Beautyful」の力強さにも感動でした。

エドナは心優しいがゆえにたくさん傷ついて大人になった人なのだろうなと思いました。
さらにその体型を理由に傷つけられ自信を奪われ、夢を諦めた人じゃないかな。自分にも夢があったと語っていたけれど。
彼女の両親やきょうだいさえも、彼女を傷つけた側かもしれない。
だから娘のトレイシーには、彼女を傷つけるようなネガティブなことは言わないようにしているのかなと思いました。

その甲斐あって、トレイシーは自分の体型のことも気にせずにTV番組に出たいと言える子に育ったし、理不尽さに憤りなんとかしようとするようなポジティブで明るく正義感の強い女の子に成長したのだと思います。
けれどもエドナ自身はシャイで傷つきやすい心のまま。
TV番組に出たらまたたくさんのネガティブな言葉を投げつけられるに違いないと尻込みする。彼女の中の傷ついた少女が泣いている。
その悲しい少女を勇気づけた歌が、メイベルの「Big,Blonde and Beautyful」なんだなぁ。
メイベル自身もどれだけ傷つけられてきたか。
そんなメイベルにはエドナの気持ちがわかるし、だからこそエドナもメイベルの歌のメッセージを受け取れたんだろうなぁ。
勇気を振り絞って娘の願いのためにTV出演を決意する。
とても感動的な場面でした。

ヴェルマもまたエドナたちと同年代に生まれて、少女のころからずっと自分の価値はその容姿と生まれにあると思い込まされてきた人なんだろうなぁ。
それを娘のアンバー(田村芽実さん)に押し付けようとしているけど、それは娘を幸せにはしないんじゃないかなぁ。

キレキレに踊ってかっこつけるリンク(三浦宏規さん)、勘違い男スレスレだけどカッコよいから受け入れてしまう。
ラストに自分は馬鹿だった何もわかってなかったってことを言ってたけど、それは決して彼だけのことじゃないんだよなぁと思いました。
ヴェルマやアンバーは極端だけれど、本当はみんなが現状が当たり前だと思ってる。人種分離もふつうのことだと。
人種分離を「馬鹿みたいだと思って」とはっきり言えるトレイシーが登場するまでは。
トレイシーのおかげで気づくことができたのは、彼だけじゃないんだよねと思いました。

ラストはトレイシーが優勝してリンクともハッピーエンドで、これでめでたしめでたしかなと思ったら、彼女が将来の夢として大学に通いたいと宣言するところも好きでした。
60年代の女の子としては、やっぱり彼女は先進的だと思います。
その姿こそ、「これが未来だ」と。

偶々娘と一緒に見たせいも大きいかと思いますが、すべての母親と娘たちへのメッセージが込められた作品だなと思いました。

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2022/10/07

強さってなに?

10月1日に久留米シティプラザ ザ・グランドホールにてミュージカル「DOROTHY」を見てきました。

福岡で凰稀かなめさんを見られることが観劇の動機で、「オズの魔法使い」のドロシーのお話なんだなぁという前情報しかない状態で観劇しました。

幕が開くと学生オーケストラの練習風景??? こんなお話だったっけ???

ドロシー(桜井玲香さん)はコンマスでソリストもできちゃうようなヴァイオリニストで見るからにお嬢様な風情。
前回は彼女のソロパートが秀逸でコンクールで賞をとったけど、今年は彼女のソロではなくみんなの演奏で賞を目指そうってことになったみたい。
なんだけど。
みんなの音がバラバラ。これじゃ賞なんて目指せない。コンクールは目前。
もっと練習時間を増やそう。「あと3時間!」って言えちゃうひと。それがドロシーみたい。
コンクールまでの間、毎日いまより+3時間練習しようってことですよね。

もとより学生オーケストラ(オケ部)。
バイトがある者もいれば遠くから通っている者もいる。
それぞれの事情で現状ですらいっぱいいっぱいの人も多いのだろうなと察せられる。
彼女と自分自身の間にある隔たりをメンバーのそれぞれが感じたよね。そんな気まずい雰囲気。

上手くなるには練習するしかない。自分は正しい。間違っていない。
でもみんなはついてきてくれない。
ドロシー最大の危機。

真剣に悩むドロシーの前に不思議な少女(横溝菜帆さん)が表れて、導かれるままにオズの世界へ——。
なるほど、こういう展開かぁ。

「オズの魔法使い」は子どもの時分に読んだのですが、正直なところその面白さがピンとこなくて読み進めるのが苦痛な物語でした。
ファンタジーの世界観って作者の思想がそのまま反映していると思うんですが、その世界観がどうもしっくりこなくて。
オズの国の住人たちを見下しているような感じに抵抗がありました。
自分と自分が属する側は常にまっとうで正しくて、自分サイドじゃないもの(オズの世界)は奇異で愚かで劣っていると思っているような受け答えが受け入れがたくて。
当時はこんなふうに言葉にはできなかったけれど、作者が提示する世界観に引き摺られることに抵抗がありました。
(異世界に迷い込んで「蒙昧なネイティブ」を啓蒙してリーダーになる物語がいまも好きじゃないのは、ここがはじめだったかも)
カカシが自分を頭が悪いとか、ブリキの木こりが自分を心がないとか、そのうしろに透けて見えるなにかも嫌だったのだと思います。
臆病なライオンはちょっと好きでした。近づいてくるものに怯えて吠えたら皆から恐れられてしまう。その孤独と寂しさを想像して。
いちばん面白く読んだのはオズの魔法使いの正体がわかるくだりでした。

もしかしてこのミュージカルのオケ部のドロシーも、さいしょはそんな原作と同じところに立っている人なのかな?
正しい自分と、なにもわかっていない彼ら。——みたいな。

なにもわかっていない彼らが正しい私を非難する。ピンチ! なんとかしてみんなの心を掴まなくては。
から始まるドロシーの旅なのだけど。
桜井玲香さん演じるドロシーは、恵まれた境遇で育った人らしく自己肯定感が高くて傲慢といえばそうなのだけど、どこか応援したくなる女性でした。
カカシたちとも対等で頭ごなしに馬鹿にしたりしない。ピンチになっても卑屈にはならない、自分に都合のよいエクスキューズもない、不器用だけど一生懸命な頑張り屋さんに見えました。

ドロシーと一緒にカカシ、ブリキの木こり、臆病なライオンは、偉大なオズの魔法使いに自分がいちばん欲しいものをもらうため、危機を乗り越えながら旅をする。
そうしているうちに友情を育むのだけど、けっしてべたべたしないのもよかったな。

東の魔女も西の魔女も、ドロシーの歌や彼女が奏でるヴァイオリンの音色を聴いて彼女を害する気持ちを収めて逆に彼女のためになにかをしてあげようとする。
音楽を愛し信じる人々が作ったストーリーだなぁと思うし。それを納得させるドロシーだったと思います。

自分が持っていないと思っていた知恵も心も勇気も、オズの魔法使いにもらわなくても自分の中にあったね。
必要なのはみんなの心を掴むことじゃなくて、みんなの気持ちに気づくことだったね。
素直にそう思える物語が清々しかったです。

鈴木勝吾さん演じるカカシさん。ずっと一生同じ場所に立っているものだと思っていた彼にとってドロシーやブリキさんたちと一緒に旅をすることは、些細なことさえしあわせだろうなと思いました。
ドロシーのために自分の一部でヴァイオリンを作ってあげたいと思う気持ちもわかるような気がしました。
ブリキさんはもうゼンマイはいらないのじゃないかと気づくのも彼だし。大切に思う誰かの存在が彼の原動力なんだな。そのためにどうしたらよいか考えて行動してて。願いが叶ってよかったねと思いました。

渡辺大輔さん演じるブリキさん。あれはズルイ笑。いやでもうるっとしてしまう。でもしあわせそう涙。
カカシさんが自分が求められる場所に残ると決意したとき、寂しくないと強がるところもとても好きでした。
心がないのではなくて、心を失くしたと思わないと耐えられないような辛い経験をして以来ずっと感情を封印してきたひとなんだなと思いました。

小野塚勇人さん演じるライオンさん。臆病なのは他者の心の動きに敏感だからですよね。自分がなにを望まれているかわかるからですよね。
それはけっして悪いことじゃなくて、そんなライオンさんだからこそできることがあるんだなと思いました。
他者のことも思いやりながら、自分の願いも口にできるようになるといいねと思いました。

伊波杏樹さん演じる東の魔女。なにより圧死してなくてよかった~。
火の竜を操るきれいな声の魔女でした。どうして悪い魔女になったのか不思議。
ドロシーの歌声に心を動かされて、困ったことがあったらいつでも呼びなさいと言ってくれるとっても優しい魔女でした。

凰稀かなめさん演じる西の魔女。緑色じゃなくてよかったです笑。
存在感が女王。でもめちゃくちゃ胡散臭いよ~あやしいよ~笑。面白がってやっているのが伝わりました。
ドロシーが奏でるヴァイオリンの音色に心をかき乱されてその音色に込められた願いに心が変化していく様が短い時間のあいだによくわかりました。こういうところに説得力をもたせられるのいいなぁ。
そしてドロシーをピリッと励ますところが先達として同性の先輩として素敵だなと思いました。

鈴木壮麻さん演じるオズ。こういうふうに出てくるんだ~~と思いました。なるほどなるほどの連続でした。
ちょっと下卑たふつうのオジサン感を醸し出されているのがさすが。そうだよねそうだよねオズの魔法使いってそうだよねとうんうん頷きながら見ていました。
壮麻さんが登場されることによる安心感は半端なかったです。
新しいミュージカル作品が生まれ若いミュージカル俳優さんが次々と生まれている昨今、後輩のリスペクトの対象となれる人が同じ舞台に立っていることって貴重だと思います。
文化は伝承!

ツアー公演なので派手な舞台転換などはないけれど、音楽を愛する人たちによる人柄の良いミュージカルを見たなと思いました。

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2022/08/03

今夜は淑女で。

7月23日に博多座にてミュージカル「ガイズ&ドールズ」を見てきました。

本当なら7月20日が1回目の観劇になるはずだったのですが、まさかの開演15分前の公演中止発表で叶わず。
23日も幕が開くまではドキドキでした。

無事幕が上がり流れてくるオーバーチュア。
紗幕には懐かしの映画さながらにオープニングクレジットが映し出され、N.Y.の通りを行き交う登場人物たちのスタイリッシュなダンスに目がくぎづけ。
これからの数時間、どんな心地に浸れるのだろうという期待でいっぱいに。

宝塚にはまりたての頃に紫吹淳さんスカイの月組版をCS放送やDVDで繰り返し見ていた作品なのでどのナンバーも懐かしい。
でもその頃(20年前)から既に古臭い価値観が気になっていたので、今回どんなふうにアップデートされるのかな?と思っていました。

ダンスナンバーの振り付けがおしゃれ。オープニングでストリートを闊歩する女性ダンサーが矢庭にトゥで踊ったかと思うとまたすぐに歩き出したり。
GUYS(男性たち)のダンスはその筋力瞬発力に目を瞠り見せ方の妙に感嘆しました。

演者が伝道所の入り口ドアを開けて階段を下りると舞台装置がゆっくりと回転しながらせり上がって地階の伝道所内部が見える仕掛けにおおっと思いました。
逆に演者が階段を上がると地階はせり下がって伝道所の入り口だけに。
その舞台装置に合わせて階段を上がってそのまま盆から降りたりするの、タイミングが難しくないのかな。目が回らないの凄いなぁ。

振付、舞台装置はこれが2022年版か!という感じでしたが、ストーリーはそのままなんだな。20年前の月組版でヤバいと思った部分はさすがになかったけれど。
もっとたくさん笑う場面があったと思うんだけど、あえてなくしたのかなぁ。

そもそもなぜ笑うのかと言われると、女は結婚したいもの、男は縛られたくはないもの、というような「あたりまえ」とされていたものを登場人物たちがコミカルに表現したり絶妙に掠めたりするからだもんなぁ。
その「あたりまえ」はいまとなってはぼんやりとした幻影みたいなものだから、まずそれを思い起こすところからしないといけなくて。
その前提を思い起こすまでのちょっとしたタイムラグが積み重なって少しずつズレていって、なんだか私の中で嚙み合わなくなっていったかなと思います。
20年前だと笑えたところもスルーしてしまったようで、見ている私自身の感覚が変わったのだろうなぁ。

アデレイドが架空の子どもたちについて語る場面、ぜんぶで5人で性別は・・・長男の名前はあなたと同じネイサン云々。そのネイサンJr.はいま何をしているんだい?というネイサンのチャチ入れにもスラスラ答えるアデレイド。ネイサンJr.のフットボールの試合にも賭けときゃよかったとつぶやくこんな時でも頭の中は賭け事のネイサンのくだり、宝塚版ではテンポの良い掛け合いに反射的に笑ったのだけど、今回は、あれ??いまの場面あっさりだった???となりました。
翻訳のせいもあるのかもしれないけれど、言葉の意味が瞬時に頭に入らなくて笑い損なってしまったみたいでした。

シチュエーションはとても面白い作品だと思うのだけど。
そのシチュエーションとセリフの意味、掛け合いの妙が瞬時に伝わるかが肝心なのだと思います。
アメリカ人との感覚の違いもあるうえに、作られた頃と2022年の現在との感覚の違いもあるのかも。
舞台の笑いって共通認識があってこそだもんなぁ。
通しでやるよりコンサート形式のほうが楽しめるのかなぁ。ナンバーは大好きだし、この豪華メンバーだし。

ハバナのサラの明日海りおさんはベリキュートだったし、HOT BOXの望海風斗さんアデレイドはさすがのショーガールで楽しかったし。
そして何より「LUCK BE A LADY」や「SIT DOWN, YOU'RE ROCKING THE BOAT」のGUYSはめちゃめちゃクールでうひゃあでした。

Luck be a lady tonight —— 運命よ今夜は淑女でいてくれよ。
運命(Luck)を人は女神に喩えるけれど、神様だろうがなんだろうが、女性ならばみんな自分に好意を持って自分の思い通りになる、そう思っているのがこの物語の主人公、スカイ・マスターソン(井上芳雄さん)。
だからラストに可笑しみがあるというわけ。

そんなスカイだからこそ、ネイサン・デトロイト(浦井健治さん)にうっかりはめられて、救世軍の軍曹サラ・ブラウン(明日海りおさん)をハバナに連れていけるかという賭けにのってしまうんですよね。

女たらしのデートプランは完璧。N.Y.からハバナ(キューバ)までエアプレインでランチなんて。凄い!90年前のお話よね??ってなります。
彼女がランチの誘いに乗ってくれさえすれば、あとは成功したも同然。でもそこがいちばんの難関で。
とはいえ、そんなことも訳ないのがスカイ、なんだけど。

サラを口説きに伝道所に行って、入り口に書いてあるフレーズの引用元は「箴言」ではなく「イザヤ書」だと指摘する。
「箴言」だと言い張るサラだけど確かめるとでたらめでもなんでもなくて、スカイの言う通りなんですよね。
"罪びと”であるスカイに選りによって聖書について間違いを指摘されて、心穏やかではいられないサラ。ここにも常識との逆転が。
スカイ、只者ではないなってなるんですけど。

サラを連れて行ったハバナで、自分が飲ませたお酒のせいで酔っ払って羽目を外してしまった彼女といい感じになるのだけど、罪の意識を感じてしまうスカイ。
「良くないことだ」って罪びとの風上にもおけないセリフ。
天井知らずに賭けをするから仲間たちから「スカイ」と呼ばれる彼なのだけど、誰にも教えたことがない本名をはじめて彼女に教える。
それって掛値なしの「誠意」ですよね。「純愛」とも言うかも。ギャンブラーの中のギャンブラー、罪びとの中の罪びとが。

彼の本名オバディア(Obadiah、Ovadia)は旧約聖書に出てくる預言者の名前で、神のしもべ・崇拝者という意味。
もしかして彼は敬虔な信仰者の家庭に生まれ育ったのかも知れず(聖書に詳しいのもだからかも)、そんな彼がどうしてギャンブラーになったのか。やっぱり興味をそそる人ですスカイという人は。

オバディア(神のしもべ)と名付けられた聖書に精通してる青年が、長じて仲間に一目置かれるような罪深いギャンブラーになってて。
その彼が敬虔な女性を口説き落とす賭けに勝って1000ドル儲けるはずが、本気で恋をしてしまう。
そして彼女のために一世一代の賭けをする。クラップで彼が勝てば1ダース以上のギャンブラー仲間たちを伝道所に連れていく。負ければその1人1人に1000ドルずつ支払うと。
だから—— Luck be a lady tonight と。
このとき、スカイにとって運命(Luck)はサラの顔をしているのだろうなぁ。

果たして運命は彼に微笑みかけたのか。
本当の勝者は?

ラストはどう捉えたらいいのかな。微笑ましいこと? それとも皮肉なこと? どういう意味で笑ったらいいのだろう。
馬鹿か利口か、なんとでも言えばいい—— っていうのは宝塚版の歌詞だけど。
男(GUYS)ってこんなものだよねって笑っておけばいい?

すごく笑えて微笑ましい作品のはずなのだけど。
やっぱりいまの私の感覚とちがっていて。
考え込んでしまうなぁ。

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2022/07/22

見果てぬ夢へ。

7月17日にキャナルシティ劇場にて、ミュージカル「スワンキング」を見てきました。

あれは春3月。博多座で見た「笑う男」の余韻が残っているときに、Twitterのタイムラインに流れてきた舞台のビジュアルがふと目に留まったのでした。
最初はタイトルの「スワンキング」が「Swan King」だということにも気づかなくて、なんだろうこれは?と。たぶん夢咲ねねさんのビジュアルに私のなにかのセンサーが働いたのかな?と思います。

ねねちゃんエリザベート役じゃん。ルートヴィヒ2世とワーグナー?これは私の好きな世界観かも。
でもたいていの新作ミュージカルは福岡ではやらないもんねと見切ろうとしたのですが、試しにリンクを開いて公式サイトを見ると福岡公演があるではないですか。
もしかして見に行けるかも??

主演のルートヴィヒ2世役の橋本良亮さんについても知らなくて。役者さんに詳しい友人に訊くと「ジャニーズの人ですよ」とのこと。
これチケットどうやって取ったらいいのかな? 

そんなふうに偶々偶然に知って、手探り状態からはじまった観劇でした。

物語は興味深く面白かったです。
活字だけで読んでいた人間模様をドラマとして見ることができ、それぞれの人物のその時々の気持ちに思いを馳せることができました。
どちらかというとその俗物的な部分にフォーカスされた作品かなと思いました。
先々週偶々宝塚でフランツ・リストを描いた「巡礼の年」を見ることができたのですが、あちらはやはり宝塚らしい気高さの要素が強かったのかなとあらめて思いました。見ているときはけっこうリストのスノビズムがリアルだなと思ったのですが。

ワーグナー(別所哲也さん)については子どもの頃に音楽好きの亡父が語って聞かせてくれていた言葉がいろいろとよみがえってきました。
ワーグナーは音楽は素晴らしいが人物は褒められたものではない、などなど。
その言葉とそのときの父の表情にとても含みを感じて、長じてあれは彼のドイツ主義と反ユダヤ的思想について言っていたのかなと漠然と思っていましたが、もちろんそれもあるけれどもっと俗的な意味もあったのだろうなぁとこのミュージカルを見て思いました。
10代の頃の私はワーグナーとコージマ(梅田彩佳さん)の関係をロマンティックなものと考えていたのですが、そのイメージも覆りました。
人間だもの。こういうこともあるよねと思う2人でした。

そしてこういう俗っぽさは、ルートヴィヒ2世には耐えられなかっただろうなぁとも思いました。
美しい夢と崇高な理想を愛した彼には。わかるよわかるよその気持ち!と思いながら見ていました。
彼の生き方もまた褒められたものではないでしょうけど。
ルートヴィヒ2世にとっての正義は美しく調和した世界なのだと思いました。戦争なんてとても耐えられるものではない。
自身は美しい城を出て軍隊を指揮することはせず、それを弟のオットー(今江大地さん)に任せる。

兄と同じバイエルン王家の血を引くオットーもまた繊細な神経の持ち主で、無残な戦場の光景を目の当たりにして精神を病んでいく。
無責任な兄の犠牲者だなぁ。

もう1人ワーグナーの犠牲者として描かれていたのがビューロー(渡辺大輔さん)でした。
ワーグナーの音楽の高い芸術性に心酔するがゆえに妻を奪われ誇りをズタズタされてもワーグナーと決別することができない。その葛藤に長く苦しんでいる人物として描かれていました。
彼の視点から描かれたワーグナーたちを見てみたいなと思いました。

この作品にはルートヴィヒ2世やワーグナーをとりまく幾人かの女性が登場しましたが、描かれ方に奥行きがなくてつまらないなと思いました。
ゾフィー(堤梨菜さん)もテレーゼ(藤田奈那さん)もミンナ・プラーナー(彩橋みゆさん)もルドヴィカ(河合篤子さん)も、結婚したい若い女性、ひたすら献身する女性、浮気性の夫に悩まされる女性、そして娘を結婚させたい母親、というだけで。

フランツ・リストとダグー伯爵夫人マリーの血を引くコージマも、夫を発奮させる妻という役目に終始する女性。
むしろワーグナーの芸術性を支えた人なのではないかと思うけど、甘えたの夫を甘やかすだけの女性として描かれているように見えました。
コージマにしてもゾフィーやテレーゼ・フォン・バイエルンにしても音楽を愛し高い知性と教養を備えた人だと思うのだけどなぁ。そこには触れられないのだなぁ。

エリザベート役の夢咲ねねさんは期待通りの美しい立ち姿と存在感。ルートヴィヒ2世が憧れるに相応しい夢のような美しさで納得だったけれど、求められているのはそれだけなのかなと。

女性には憧れられる外側と男性を支えることだけを求められているような描かれ方でつまらないなというのと、音楽が真面目過ぎるというか艶っぽさが感じられなくて印象が薄かったのが残念でした。
再演があるとしたら、そのあたりを魅力的にしてほしいなぁと思いました。

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2022/07/15

奇人たちの晩餐会。

7月10日に博多座にて「奇人たちの晩餐会」を見ました。

ひたすら痛々しい舞台でした。
ピエール役の戸次重幸さんのぎっくり腰の演技が迫真で、とても痛そうで辛い。
笑い者にされるために呼ばれたとも知らず、ピエールを親切な人だと思い込んだまま度を超えた好意を寄せるフランソワ(片岡愛之助さん)を見ているのが心が痛い。
ピエールのイライラ、落ち込み、焦り、困惑、傷心、自暴自棄などの感情がリアルで、HSP傾向にある人には同じ空間にいるだけでしんどい舞台だなと思いました。(私だ)
フランソワがピエールの意図に気づいたときとかもう。

仲間の前でそうとは知らない人を笑い者にして、そうやってピエールは自分の何を守ろうとしているんだろうと考えたり。
そうまでして優越感を感じないといけない心の闇に引きずられそうになるし。
そうせずにいられないピエールがいちばん始末に負えない厄介な愚か者なんだろうと思うし。
とにかく見ていてしんどい。

ピエールの残酷な意図を知ってしまったのに、にもかかわらず傷心の彼を救おうとするフランソワに救われる気持ちになるけど、でもそれは見ている私が安堵したいがための身勝手とも思えて。
こんな夫のもとに戻ってクリスティーヌ(水夏希さん)は幸せになれるのかなと思うし。

やっぱりピエールは1人になって、フランソワに日常生活をぐちゃぐちゃにされながら、なんとなく2人で奇妙なつきあいをしていく未来がいいかなぁと思います。
意外と対等な関係になれそうな気もします。

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2022/05/20

カオナシ。

5月14日に博多座にて舞台「千と千尋の神隠し」を見てきました。イープラスの貸切公演でした。

まず客席に20~30代と思しき人が圧倒的に多いことに驚きました。
貸切公演だったことも関係あるのかもしれませんが、やはり演目ゆえかな。お子さんの姿もいつもより見かけました。
ふだん私が観劇する演目は40~50代がコア層なかんじなので、若い人がたくさん足を運ぶ演目は演劇の未来を明るくするなぁと思いました。

開演前に、博多座製作の「前のめりは後方席の視界を想像以上に遮ります」動画が映し出されたのも良き趣向だなと思いました。
毎公演アナウンスで注意されていることではありますが、それがどういうことで、どれくらい迷惑かは、ご存じない方も多いと思うので、開演前にこの動画を見ていると気をつけてもらえそうです。
観劇慣れしている方も初めての方も、皆が気持ちよく舞台を見られるようにこうした配慮はありがたいなと思いました。

この日時のキャストは、千尋=上白石萌音さん、ハク=三浦宏規さん、カオナシ=菅原小春さん、リン/千尋の母=咲妃みゆさん、釜爺=橋本さとしさん、湯婆婆/銭婆=朴路美さん、でした。
メインキャストの方もアンサンブルの方も最高のパフォーマーばかりで、音楽も演奏もほんとうに贅沢なものを見たなぁと思いました。

私は1階前方の席だったのですが、舞台装置の組まれ方、そこを行き来する演者さんやススワタリや呪詛の虫などのパペットの演出などは、2階席からのほうがよく見えるのかもと思いました。この作品は2階席の満足度が高いのではないかなと。
同一席種内での不公平感が少ないというのも大切な気がします。

原作のアニメはかなり昔に見たことがありますが、アニメよりも筋道がわかりやすい脚本・演出になっているようで、そうだったのかーと思いました。
アニメを見ていた時はあっちにこっちに気持ちが寄り道してしまって本筋が掴めていなかったのかなと思います。そういう寄り道が愉しみだった人には物足りなさもあるのかなとは思いました。

アニメのキャラクターをパペットで表現しているので、役者さんを見るのを楽しみにしている人はえっ?って思うのかなとも。
私はアニメでも大好きだった坊ネズミがハエドリに運ばれたり、ハエドリを乗せて歩いたりしているのを見られて楽しかったです。パペット使い巧いなぁ。本職ではなくアンサンブルの方が操っているんですよね。

ハクが龍の姿になった時、そして千尋とともに空を飛びながら自分の名前を思い出す場面を舞台ではどう表現するのだろうと思っていたのですが、人力とは!
歌舞伎の黒衣や狂言においての後見のように、アンサンブルの方々の力で空を飛んだり姿を変えたりしていて、こういう表現をするのかと膝を打ちました。
それがちっとも不自然に感じられないステージングが素晴らしいなと思いました。

千尋役の上白石萌音さんは、舞台に出ずっぱりで階段や梯子を上ったり下りたり舞台を駆け回ったりともの凄い体力と身体能力に驚きました。
ハクにおにぎりを渡される場面の張りつめていた糸が途切れた時の大泣きも凄い。
体の重心の掛け方使い方も子どものそれで、まさにアニメの千尋が抜け出てきたみたいで世界観に引き込まれました。
これぞまさに“恐ろしい子”。と思いました。

ハク役の三浦宏規さんはまず声が良いのと、龍の姿に変わり身する時に跳躍しての回転は目を瞠りました。2回転半以上回ったのじゃないかな。凄い。
彼があの白龍とイコールなのもすんなりと受け入れられました。

湯婆婆と銭婆役の朴路美さんも一声で全員が震えあがるような迫力とコミカルさが湯婆婆そのもの。同じ顔なのに銭婆になるとすっとした品が出て、坊ネズミやカオナシたちに対する慈愛に溢れていて素敵だなぁと思いました。

咲妃みゆさん、声がいいなぁ。千尋のお母さんのあの突き放した感じは、扱いにくい娘をもつ母のリアリティがありました。夫は子どもみたいな人だし、彼女が大人でいないと家庭が回らなさそう。
リンはアニメでもきっぱりと潔くて素敵な人だったけど、咲妃さんのリンも素敵な人でした。
いつかどこかで千尋とまた逢えたらいいなぁ。

カオナシ役の菅原小春さん、どうしたらこんな体の使い方ができるの? 不思議で思わず凝っと見てしまいました。
お面をかぶっているのに、そのお面に心模様が映って喜怒哀楽が見える気がするのも不思議。
銭婆にここに残って手助けをしてほしいと言われた時は、なんだかうれしそうに見えました。
カオナシとは何の暗喩なのか。現代に生きる人間の自我そのものなのかなぁ。などなどいろいろと考えてしまうキャラクターでした。

舞台化と聞いた時は、あのアニメだからこその表現を舞台でどう見せるのだろうと思っていたのですが、古典的ともいえる舞台の手法で描き切っていたことが清々しくもありました。
古来よりの演劇の奥深さやこれからの可能性も見ることができた気がします。
本邦の商業演劇に何某か新しい風が吹いたのかも。そんなことを考えながら帰路をたどりました。

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2022/03/23

OPEN YOUR EYES.

3月19日に博多座にて、ミュージカル「笑う男」を見てきました。

3年前に北九州ソレイユホールで日本初演を見て、とても惹かれるものがあったのですが消化不良も感じて、再演があったら見たいなぁと思っていました。

今回は博多座で上演されると知って公演日程を確認したところ、3回目の新型コロナワクチン接種や観劇遠征が重なる時期で前売りを買うことができないまま初日が開けてしまい、ワクチン接種の前日に「今日しかない」と意を決して博多座へ。当日券で観劇することができました。(2階前方ドセンのまったく私好みの席を買えてラッキーでした♡)
ワクチン接種後のぼんやりした頭でこれを書いています。

初演で惹かれたのは、山口祐一郎さんのウルシュス。そして夢咲ねねさんのデアでした。
この世界は残酷だと繰り返し言いながらもその言葉に反して、1人では生きる術をもたないデアを大切に育てるウルシュスの心のうちに惹かれました。
夢咲さんのデアは天使でした。猥雑な見世物小屋にいながら。見世物小屋の仲間たちもまた彼女を大切にしているのを見るのが泣きたくなるほど好きでした。

今回は博多座ということで、セリが上がり盆が回りとてもスペクタクルになっていました。
漠然と見えていた初演より、場面の見せどころがわかりやすくなったかなと思います。

とくにジョシアナ公爵(大塚千弘さん)の心の変遷がよく見えるようになったなぁと思いました。それによって本当の化け物は誰なのかがはっきり見えたなぁと。
なにもかもを持っていながら、自分の意に沿わないことを受け容れないとそれを享受できない苛立ち、自分が選べるものといったら火遊びの相手くらい。貴族社会の欺瞞を嫌悪しているのにそこから逃れられない。彼女はもっとも現代人の感覚に近い人だなと思いました。

吉野圭吾さんのデヴィッド・デイリー・ムーア卿も面白かったです。
彼はジョシアナ公爵が嫌悪しているものが欲しくてたまらない人なんだなぁ。庶子に生まれたばかりに手に入れられなかったものに執着してやまない人。そのためにはどんな卑劣な行為も正当化できてしまう。だって神様が恵んでくれなかったものを自分で手に入れてなにが悪いって思っていそう。神様への意趣返しの気持ちもあるのかも。
生まれながらにして手にしていた兄やジョシアナ公爵にはわからない気持ちかなと思いました。

石川禅さん演じるフェドロは、貴族たちに仕える身分でありながらどうやって彼らを思いのままに動かそうかと耽々と状況を見据えているのが面白いなぁと思いました。
自分に有利なカードを手に入れるためならなんだってするし、手に入れたカードは最大限に利用する。要らなくなったカードに情をかけることもない。単純な貴族たちを手玉にとって生き抜いていく人間なんだなぁ。はしこく慇懃に悪びれず裏切ったり味方になったり、すべては利で動いている。

富める側にいながらも心の飢えに喘ぐ人びとと、貧しくもいたわり合う見世物小屋の人びととの対比がそこには描かれているなと思いました。

ウルシュス(山口祐一郎さん)は、生まれの不幸や見た目の醜さを受け容れろと説く。
醜さを売り物にして、見る者の好奇心と優越感を満たし安堵と嘲笑をお金に換えて糧とする。

盲目のデア(真彩希帆さん)には彼らの見た目の醜さはわからない。彼らの心だけを見てその優しさに触れ1人1人を尊い人として接する。
おそらく醜い見た目ゆえに生まれた場所から弾き飛ばされてこの見世物小屋に辿り着いた彼らにとって、そんなデアは天使なのだと思いました。
白い衣を着せて髪を編んであげて。デアに自分には叶えられなかった夢を見ているのだと。デアが悲しむと彼らにとっては一大事。

そんな彼らの中で、グウィンプレン(浦井健治さん)だけは自分の見た目と自尊心の狭間で苦しんでいる。
それはウルシュスから愛情をかけて育てられたことと無関係ではないと思います。
そして目の前の美しいデアを愛しているから。
美しいデアに相応しい者になれるのではないかという夢を見てしまうからかなぁと思いました。
無残な現実から手の届かないところにある理想を求める姿は、とても若者らしくて愛おしくて悲しく思えました。

私は、ウルシュスとグウィンプレンが出逢った時の場面が大好きで、なんどもその場面の記憶を反芻してしまいます。
貨車を住処にし食べ物も満足にない1人暮らしのウルシュスのもとに飢えて凍えて辿り着いた子どものグウィンプレンに、鍋の中の腐ったじゃがいもを与えようとしたけれど、けっきょくは隠したパンを渡してしまう場面。
利己を考えて逡巡するけれど無慈悲になりきれないウルシュスがとても好きでした。
フェドロとは真逆だなぁと。
私にはウルシュスが希望に思えます。

ウルシュスが、この世界は残酷だ、自分以外は敵だ、信じられるのは自分だけと説くのは、彼なりの優しさなのだと思います。
グウィンプレンが他人に、人生に期待して傷つかないように、心を砕いて先回りして忠告しているのだと。
そういう彼自身が、グウィンプレンに無償の愛を注いで育ててきたのだから、彼の忠告はとても矛盾してる。
グウィンプレンに彼の忠告が実感できないのも当然だと思います。
極貧の暮らしだったけれど、愛されて育った子どもだったから。

ウルシュスのもとから飛び出して貴族社会に身を置いてみて、はじめてグウィンプレンは愛のない世界を知ったのだと思います。
愛を訴えても誰の心にも響かない虚しさを知ったのだと思います。
そして自分が育った場所がどれだけ愛と幸福に満ちていたかを。

自分の帰りを泣いて喜んでくれるウルシュス、仲間たち、そしてデア。
彼は愛されている。そのことがすべて。
自分の腕の中で逝ったデアを追うのはその幸福感ゆえなんだと思いました。

あなたに愛されてグウィンプレンもデアも幸せだったのだと、ウルシュスに伝えてあげたい。
そんな気持ちになるラストでした。

再再演があるならまた見に行きたいと思います。
貴族院の場面は、いま以上に彼ら貴族が醜悪に見える演出になるといいなぁ。この世界の残酷さがここに極まったくらいに。
グウィンプレンの心が一度屍になってしまうくらいに。
いっそうのブラッシュアップを期待したいと思います。

この地上がたくさんのウルシュスが生きる世界でありますように。

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2022/01/17

角をとってもらってこの子もやっとふつうになれたと思っているでしょう――「ガラスの動物園」

ことしの観劇初めは1月11日、博多座にて「ガラスの動物園」でした。

母親と姉弟。非常階段のあるアパートでの3人暮らし。
アップデートできない親が子どもたちを追い詰めている風景。
なるはずだった自分を娘に重ねて、息子にこうであってほしかった夫を重ねる母親。
自分が願うしあわせしか、娘にも息子にも願うことをゆるさない呪いをかけているよう。
現実を認めない親の願望が息苦しくて病みそう。
そんな作品でした。

麻実れいさん演じる母親アマンダは、本来陽気で生命力があってチャーミングな女性なのだろうということが十分にうかがえました。
たくさんの求婚者がいたことも嘘じゃない。「風と共に去りぬ」のスカーレットのように、きっとコケティッシュでホスピタリティ溢れるサザンベルだったのでしょう。
でもものごとはうまくいかない。魅力的な男性と結婚して幸せな妻となって暮らすはずだったのに。
輝かしい過去とすり抜けた幸せを、自分が娘時代を過ごした昔の南部のやりかたで娘のために手に入れようとしている滑稽さ。
計画をテキパキとこなす行動力も意志の強さも備えているのに。
そのパワーがぜんぶ子どもたちに向けられているのがしんどいなぁと思いました。
すべては子どもたちを深く愛しているゆえなのだろうけど、親子関係が密すぎて自分と子どもとの境界が曖昧で、だからあんな身勝手なことが言えちゃうんだろうなぁと思いました。
私にはとても耐えられない、気がおかしくなりそうな親子関係でした。

倉科カナさん演じる姉のローラは、人の感情にとても敏感な女性。
母と弟が言い争いになるとデザートを運んできたり自分の献身で空気を変えようとするような。
8歳で父親が家を出ていくまではずっと両親の諍いを聞いて育った娘なんだろうなと思いました。
父親が家を出ていっても母の愚痴は止まることはなかったでしょうし、子どもたちへの干渉はそれまで以上に増えたのではないかな。
狭いアパートでは引きこもる自室もなさそうで、ガラスの動物たちの会話に耳を傾けて彼女はつらい時間をやり過ごしたのではないかな。
彼女のお気に入りは13歳になるユニコーン。孤独なのにさびしいとも言わず、ふつうの馬たちとも仲良く暮らして言い争うこともないのだそう。
まるでローラ自身のことのようでもあるし、彼女の理想の世界なんだろうなぁと思いました。彼女が語るガラスの動物の話がとても好きでした。
ジムがそのユニコーンの角を誤って折ってしまっても責めもせずに、手術をうけたと思うことにすると言うシーンがとても印象的でした。
その前に、ほかの馬たちとおなじになったわとも言っていて。
健全でポジティブなジムのような人間には、人とちがうことは素晴らしく価値があることなのだろうけれど、ローラにとっては人とおなじである安堵に価値があるのだろうなと思います。

竪山隼太さん演じるジムはとてもポジティブでいい人だなぁと思いました。
自分の過去の栄光も挫折もきちんと分析できていて、それを話す時にも相手に変に気を遣わせない話術があって。
自分の夢や努力を臆せず語るときも、そのちょっと自惚れ屋なところも魅力的だと思いましたし、ローラを勇気づける会話には感動しました。
ローラにとってはそりゃあ眩しくて素敵な人に見えるだろうなぁと思いました。
人の話を聴く時の態度、会話のすすめ方、高校時代に人気者だったのが肯けます。
女性に対してはジェントルにふるまうという社会性も身に着けている人ですよね。たとえ話が退屈でもそんな素振りを見せない。興味のない話題の時はさりげなく話題を変えるとか会話術ももっている。
成功しようと思っている人はちがうなぁ。
ローラと好い雰囲気になっている時に、君が妹だったら自信の持ち方を教えてあげるのにと言っていて、あれ?妹?と思ったけれど、どんどん盛り上がっていって、ふうんと思っていたら・・え~そんな~でした。
現実的に計画を立てて着々と人生を歩んでいるポジティブな彼ですから、そりゃあ奥手なはずはないですよね。
それにしてもそれにしても・・・。作者に一杯食わされた感満載。
ものごと願うようにうまくはいかない、ですよね。

岡田将生さん演じるトムは、ストリーテラーから過去の自分になるときの切り替え、一瞬の真顔が印象的でした。
母と姉を養うためにやりたくない仕事をがまんして続けているのに、その母親に身勝手と非難されてつらいなぁと思いました。
16年前に父親が出て行って、トムはいま21歳。大学には行かずに仕事をしているみたいだけど、彼が働き出してせいぜい3年ほどだと思うのだけど、それまでこの一家はどうやって生計を立てていたのかな。絶対に彼が養わないといけないのかな。
家を出て行きたいけれど逡巡する理由は、やはり庇護が必要に思える姉の存在があるからなのかな。
あんな酷いことを言われても、やっぱり女手一つで自分たち姉弟を育ててきた母に対する拭いきれない愛着を感じているからかな。
姉のローラがガラスの動物園に逃げ込むように、彼も夕食後は息苦しいアパートから逃避して深夜まで映画観で過ごし、3時間の睡眠をとって出勤し職場では詩作に耽り、同僚のジムからはシェイクスピアと呼ばれていたりする。
いつか船員となって家を出ることを夢見ながら。
母の渾身の計画が破綻して、八つ当たり的に責められ酷いことを言われて口論になって。彼の父もこんなふうに言われた末に出て行ったのかなと思いました。

この追憶劇を見るかぎりでは、トムが家を飛び出すのは仕方のないことだと思えるのに、家を飛び出した彼が何年経っても姉の幻影から逃れられずに、こうして追憶を語らずにいられないのはどうしてだろう。
彼が語らないこと、彼が都合良く脚色したなにかがあるのかしら。
家族というものが不気味なものに思えて、なんともいえない後味の作品でした。

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