夢かうつつか寝てかさめてか
5月22日23日に福岡サンパレスにて宝塚歌劇月組全国ツアー公演「花の業平」「PHOENIX RISING」を見てきました。
「花の業平」はずっと再演してほしいと思っていた作品でした。
潤花ちゃんの藤原高子を見たいなぁと切望していたのですが退団されてしまったので叶わず。それから1年以上の月日が流れて月組全国ツアー公演で上演されるとの発表に絶対に見に行きたいと勇んでチケットを申し込んで観劇日を心待ちにしていました。
主人公の在原業平役は一昨年宝塚大劇場で上演された「応天の門」でも業平を演じてお似合いだった鳳月杏さん。藤原基経役も同じく「応天の門」で同役を演じて好評だった風間柚乃さん。そしてヒロイン藤原高子役も「応天の門」で同役を演じた天紫珠李さん。
これだけでも関心と期待が膨らみます。
3公演観劇しましたが、見れば見るほど鳳月さんは業平がお似合い。
公達たちの噂で業平の女性遍歴エピソードをイマジナリーに舞踊にしている場面の鳳月さんが格別に好きでした。女性からの秋波を邪険にはできずに次々に浮名を流してしまうかんじ。たとえ色好みと口さがない人びとに笑われようと女性を悪者にしない主義が垣間見えるのが、だからこそ彼は女性に好かれるのだなぁと。そんなふうに見える鳳月さんは天性の業平だなぁと思いました。
初演は映像で見ていて、稔幸さん演じる業平に正義があり、香寿たつきさん演じる基経は悪、善の業平が悪の基経に苦しめられているといった印象をもっていました。お2人の持ち味もあると思いますが、私自身が物語を単純に見ていたのだろうといまは思います。自由恋愛こそ正義で政略結婚は悪、といったように。そのほかのいろいろも。
今回の月組版を見て業平を突き動かしているのはそれが正しいかどうかではなく、目の前の女性がしあわせそうであるかどうかなんだなぁと。結果正しくないとされる行いもするし、自業自得に陥ったりもする。現世を生きて、自分の身のうちから湧き出づるもの、悦びや悲しみに嘘がない人なのだなぁと思いました。
風間さんの基経も単純に悪い人とは見えなくて、権力を手にしなければ生きていけないところに身を置いている人なのだなぁと思って見ていました。まさにこれは「応天の門」を見ていた影響だと思います。
義嗣子として義父良房(英かおとさん)との関係には、藤原良相(柊木絢斗さん)と息子の常行(彩海せらさん)とのあいだに感じられたような気の置けない父と息子の関係とは異なる緊張感が感じられました。
業平が自分の情に正直に行動し、関わる相手にも情け深く接して、女性たちにはもちろん、仲間たちにも危険を冒しても力になってやりたいと思われるほど愛されるのに対して、理を優先して情けを抑制し、時に人を陥れるかわりに己の些細な瑕や落ち度を理由にいつだれに蹴落とされるかわからない人生を生きている基経の緊張感と孤独を感じました。
高子役の天紫珠李さんは初見では表情や声からの情報量が少なくてなにか物足りなく感じてしまったのですが、二度三度と見ているうちに内面から湧き出でる感情の迸りを感じられるようになってきて大好きな高子になりました。
自負の心が強くて外に向かって張り手をつくような瞬発力の高かった初演の星奈さんの高子(星奈さん高子の「わたくしの舞が下手だとおっしゃるの?!」が大好きでして・・)とはちがって、いちど受け止めてから反論するプライドは高いけれどもちょっと内向的なところがある高子だなぁと思いました。
市で商いの統領をしている梅若役の礼華はるさんは長身で総髪の立ち姿に存在感がありました(登場のたびに柚希礼音さんが浮かんでしまったのは自分でも不思議でした。なぜかなぁ)。
水干だか狩衣だかを気崩したアレンジもおしゃれで、セリフの掛け合いも粋な人だなぁと思いました。
花の宴の桜木の歌で盛り上がる場面で業平と歌い継ぎながら入れ替わる場面は毎回胸が逸りました。基経たちに顔を見られても涼しい表情を崩さないところなどこれは業平のために並ならぬ覚悟で臨んだのだなぁと思いました。
内裏に女官として潜入している女賊のあけび(彩みちるさん)と梅若との関係は、今回の月組版ならではですよね。
梅若の家には橘逸勢の書が掛けられていたとの業平の言葉や、あけびによると彼女が昔仕えていた貴族の御曹司だったとかなので、承和の変で排斥された橘氏のお血筋なのでしょうか。
そんな彼の過去を知るあけびの梅若への愛惜を含んだ思いがせつなくてキュンとしました。
彩さんのあけびは、権謀術数渦巻く宮中にあって登場するたびに客席を笑わせて物語のよいアクセントになっているなぁと思いました。初見では石茸丸(大楠てらさん)を彼女の弟だとは気づいていなくて、みちるちゃん大楠さんにひどいわーと思いました笑。
姉に言いたい放題言われて、でもちゃんと言いつけ通りに検非違使を巻く石茸丸は出来る子!と思いました。
とても仕事できる姉弟で。この先もしっかりと生きていけそうで安心のキャラでした。
藤原常行役の彩海せらさんはお美しいなぁと。心映えも眩しくて父親からも友人からも愛されているお花のような人だなぁと思いました。
和物のお化粧やふとした表情に月城かなとさんの名残を感じ、そんなせつなくてうれしい感情を呼び起こされるのも宝塚の良さだなぁと思いました。
彩海さんのこれからに注目していきたいなぁとあたらめて思いました。
伊勢の斎宮の恬子内親王(花妃舞音さん)と業平の逢瀬の場面は、初演ではえ、どういうこと?と、稔さんの業平にはそんなことはしてほしくないと思った気がするのですが、鳳月さんの業平にはそうだよねーそうするよねー業平はと思って見ていました。
花妃さんの恬子さまも、この恬子さまじゃしょうがないよねーと思ってしまう風情だったのもあるかと思います。初見のあとで気づいたのですが、花妃さんは「応天の門」で多美子だった人ですね。(多美子好きだったんです)
入内する高子との対面の場面は、初演ほどの緊張感はなかったかな。月組版はどちらかというとおなじ人を愛する2人のシスターフッドを強めに感じ、それはそれで好きでした。
春景(一輝翔琉さん)と若葉(乃々れいあさん)は微笑ましい一対でした。
一輝さんは初舞台の「Délicieux」で注目しこれからが楽しみだったので退団はとても残念です。(初舞台の「Délicieux」も「PHOENIX RISING」も野口先生のショーなんだなぁと・・)
伊勢からの帰り道にはこの公演で退団される一輝さんのためのセリフもあり寂しくもご卒業後の人生に幸あれかしと願いました。
「花の業平」を生で見たいという長年の希望が叶って本当に良かったです。全国ツアー版に向けての大野先生の書き直し部分も好きでした。
長年の願いが叶い満足したところで、やはりこの豪華絢爛な世界を回り舞台で見てみたいなぁという新たな欲が生まれてしまいました。
この願いが叶う日が来ますように・・!
「PHOENIX RISING」は楽しいショーでした。(大劇場では見ていないのでこの全国ツアーバージョンが初見でした)
作演出の野口先生はなんとしてもアモラルを入れずにはいられないのだなと思いながら見ていましたが、それもいい塩梅に収まっていてよかったです。
「SHANGHAI GIGOLO」の場面のSHANGHAI BIRD(相星旬さんと飛翔れいやさん)がとてつもなく刺さったのできっと思うつぼにハマってます笑。
ぞわっと鳥肌が立つ歌詞も相変わらずだなぁと。私は苦手ではあるものの、そこは好き嫌いの範疇かな。
デュエットダンス「永遠の月(月亮代表我的心)」が鳳月さんと天紫さんの雰囲気にとても合っていて素敵なシーンだなぁと思いました。彩海さんのカゲソロにもうっとりでした。
天紫さんが長い手足で伸びやかに踊る姿がすっとして品がよくてシルフィードのようでした。同じくすらりとした鳳月さんとのバランスが抜群でほかにないコンビだなぁと思いました。鳳月さんの色気を天紫さんがよい塩梅に中和しているような気もしました。(あり得ないですが鳳月さん♂と鳳月さん♀がコンビを組んだとしたらとんでもないアダルトな色気のトルネイドになってしまう気がするんです・・それはそれで見てみたい気もするのですが・・)
お芝居もショーも大満足で、やっぱり宝塚はいいなぁ。心洗われるなぁと思った2日間でした。
ここしばらく月組を観劇する機会がなかったのですが素敵な生徒さんを多数みつけたので大劇場に見に行きたいなぁと思いました。
(SHANGHAI BIRDの相星旬さんと飛翔れいやさん、客席降りで段差があったのにわざわざ覗き込んで微笑んでくれた花妃舞音さんもすごく気になっていてGUYS&DOLLSの新公が楽しみになりました←配信を心待ちにしています)
しあわせな時間が過ぎたいまは次の全国ツアーはどの組が地元に来てくれるのかなぁと早くも楽しみです。
(地方在住のため遠征回数を抑えたく全組見るのは控えようと思うのに・・全国ツアーがあるばかりにこうしてまた沼に足をとられてしまうのでした・・笑泣)