俺のために
11月18日と23日にシアター・ドラマシティにて宝塚歌劇花組公演「DEAN」を見てきました。
主演の極美慎さんにとっては花組生として初の出演作品であり、初の東上主演作品でもありました。23日はドラマシティ公演の千秋楽でした。
感想を書こうとするも、自分の中で折り合いがつかず手が止まってしまうということを繰り返していました。
まず自分のなかのジェームズ・ディーンへの固定観念と目の前の舞台を擦り合わせることに苦戦しました。容姿も含めてあまりに映画のディーンの印象が強烈に残っていたことにいまさらながら気づきました。何十年も昔に抱いた印象がアップデートもされないまま自分の中に残っていたことに。
ジェームズ・ディーンの実像について考えてみたこともなく、若い頃は称賛の対象という世間の評価を疑いもなく受け入れていた私にとって、目の前の舞台で演じられるディーンという若者像をどう受け取るべきかで戸惑いました。
決して意外なわけではなくて、若い時の自分だったらさすがディーンだと思ったかもしれないけれど、いまの私には彼の有害性が目についてしまいそのことに戸惑ったのかなと思います。
自分を高く見積もり、脆弱な自尊心を守るためには降板もバックレもする、端から信頼関係を築けない。異性に好まれる自覚はあるのであの手この手で自分のペースに巻き込み思い通りにしようとするも、相手に意思があると思っていないので自分に反する意思をつたえられると絶望する。
力の勾配の上にいるときはやりたい放題、下のときは悲愴な面持ちで抗う態度をとりながらも言いなりで、そこに付け込まれてしまう。
大丈夫? 容姿はとても良いけどでも・・。
そんな印象の1幕でした。
2幕でやっと人との信頼関係が築けてきたかなぁと思った矢先のエンド。
最後まで撮影中の野卑な態度を誇示はしても俳優として演技のプランニングなどの描写はなかったので生い立ちに苦悩がある青年が素材として巧く使われただけに思えました。(監督にトラウマを突かれて激高する姿が真に迫っていると映ったとして、それは映画として高評価であっても俳優の評価としては本人は満足できるものなのかな、などと)
「エデンの東」の移動遊園地の場面を再現するディーン役の極美慎さんとピア・アンジェリ役の美羽愛さんの主演ペアはとても宝塚的な夢夢しさでときめきました。こんごも見てみたいコンビでした。
2幕のニコラス・レイ(一之瀬航季さん)とのやりとりは他者と信頼関係を築きはじめたディーンが見えてほっとしました。
エリザベス・テイラー(三空凜花さん)と彼女の子育てやピアとのことについて話すディーンも好きでした。
18日に見た段階ではがんばっているなぁという印象だったベン役の希波らいとさんが千秋楽では頼もしく成長していて目を瞠りました。
クセのあるPR会社の社長役で、役作りに苦戦したのだろうなと思いますが、23日の千秋楽ではなんかいい感じにディーンとのきずなが見えるなぁと思いました。
長身同士の並びも映えて、思わず極美さんと希波さんで「銀河英雄伝説」のラインハルトとキルヒアイスを見てみたいなぁと思いました。
自動車事故の場面のあとのヴィラ・カプリの場面では、一瞬これは『ディーンを演じた俳優』が登場したのかと思いました。フィッツジェラルドを描いた「THE LAST PARTY」のように。
亡くなった人もディーンのもとから去っていった人も、彼の周りに一堂に会するまぼろしのパーティ。彼らに親しみを込めて話しかけるディーン。
これは誰が望んだ夢なのかな。
24歳で彼は急逝したけれどもっと長く生きていたらどんな俳優になっていたのだろうと思いました。
幼少期に受け取れなかったものを、大人になり与える側となった彼が心の中の寂しい子どもの彼に渡せていたらいいのになと思います。
ヴィラ・カプリの場面がおわるとすぐにはじまったフィナーレで、舞台に1人タキシードで佇むディーンが、テーブルの上のバラ1輪を手に取る場面がとても素敵でした。
これはジェームズ・ディーンが好きだったという「星の王子さま」のオマージュかな。(極美さんも「星の王子さま」が愛読書だとカーテンコールで挨拶されていました)
私にはあのバラは壊れやすかったディーンの自尊心ではなかったかと思えます。
そしてもう彼は大丈夫なんだ。あのフィナーレはそんな意味だったのではないかな。
花男の面目躍如たる(だと私が勝手に思っている)タキシードの男役群舞のセンターにいる極美さんが嬉しかったです。
そしていかにも花組の娘役と思わせる美羽愛さんとのデュエットダンスも夢のようでした。
本編は消化できないままではありましたがフィナーレで多幸感いっぱいになって劇場を後にした公演でした。

